小学生の頃、日本全国で爆発的にフラフープが流行りました。
・・・そういう世代の者の昔話だと思ってお聞き下さい。
当時、クラスの中に君子さんという特に上手な方がおりまして。
この人は正に、フラフープが腰に吸い付いているかのような、見事な回しっぷりをすることで、皆に一目置かれておりました。
しかしある日、彼女は突然帰らぬ人になります。
路上でフラフープに興じている最中、車に轢かれて亡くなったのです。
学校ではフラフープ禁止令が出されました。加えてブームが既に下火であったことも重なってか、あっという間に学区内でフラフープをする子供はいなくなってしまいました。
そんな中。一つの噂話が囁かれ始めます。
夜中の十時丁度、小学校の運動場の真ん中に フラフープを回す少女が現れるらしい、と。
その正体は、未だ成仏出来ぬ君子さん自身の霊であり、これを目撃した者は近い将来 必ず交通事故に遭って死んでしまうのだ、と。
なるほど。君子さんが車に轢かれたのは、確かに夜の十時頃でした。
子供の交通事故死はこの上なく非業の死、と呼ばれていた当時の時代性から鑑みれば、
「彼女の霊は成仏出来ずに迷い出て、周囲の人間を無作為にあの世へ引っ張り込むのだ」
という一種突飛な考えも、決して並外れておかしいものではありません。
けれど。
そもそも何故、そんな遅い時刻に彼女は一人、道路上でフラフープに興じていたのでしょう。
私どもの時代の子供達は、とうにグッスリ眠っていて然るべき時間帯です。
更に言えば。夜の車通りも今よりよほど少なかった当時の田舎において、どうして君子さんは、夜間の交通事故死などという奇態な死に方をなすったのでしょう。
逆に夜の静寂の中であれば車のライトも走行音も目立つでしょうし、危険を回避出来なかった理由が今ひとつわからない。
どうにも解せません。
今も昔も。私にとっては、下らない学校怪談よりも〝不自然に過ぎる彼女の死〟の方がよほど不気味に思えるのですが。
若い世代の方々は、如何お考えでしょうか――
これはとある高齢のご婦人からお聞きした話なのですが、正直聞いた時には「これって怪談じゃないのでは?」と思っていました。
しかし 試みに一人称視点で文章化してみると、何だか妙に考えさせられるものがある。
ぜんぶ常識で説明できるような、決してそうではないような。ふと気付けば、「どうして君子さんは死んだのかなぁ」と考えを巡らせている自分が居る、みたいな。
どう見ても一般的な怪談のツボからは逸脱しているんだけれど、
やけに気になる話だったので収録させて頂きました。
少し長めの文章量ですが、
もともと本編に収めるつもりではなかったので、のびのび書いてみた結果です。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!