真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第四十二斬 『赤錆』

公開日時: 2021年7月7日(水) 14:00
文字数:397

 ある日を境に

 自傷じしょう行為を繰り返すようになった妹が

 改まったような表情で、私の部屋に入ってきた。


 ひと月ほど、ほとんど部屋に閉じこもり切りだったので

 どういう風の吹き回しかと息を飲んだ。


「お兄ちゃん。私のコレ、もう終わるよ。

 今夜、その知らせがあるから。

 それを確認したら、もう大丈夫」


 ――お前、それどういう意味だ?

 尋ねてみても答えず、直ぐに部屋を出て行った。

 何となく いやな予感がした。


 その日の夜、

 夕飯の洗い物をしていた母が、「何これ!」と声を上げた。

 駆け付けてみると、困惑した様子で流しの方を指さしている。



 水道から、にごった赤茶色あかちゃいろの液体がジャバジャバと流れていた。

 血液のような、不快な鉄分の臭気しゅうきが鼻を突く。

 赤錆あかさび


(あっ、これが知らせってヤツか?)


 妹に教えてやろうと思い、部屋に向かった。

 水道から錆水さびみずが出たぞーっ、と叫びながらドアを開けた。



 妹は、部屋に居なかった。

 家の中の、何処にも居なかった。



 今も帰って来ない。

 


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