真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第八斬 『予言』

公開日時: 2021年6月4日(金) 16:00
文字数:386

 私が学生の頃、母が予言者になったことがある。


 父の昇進。妹に最近カレシが出来たこと。大御所おおごしょ俳優の突然の逝去せいきょ

 遠近様々えんきんさまざまな事柄をピタリと言い当て、家族を驚嘆きょうたんさせた。


 ただし、大体半年くらいだった。

 それから後、母は予言的なこと自体を口にしなくなった。

 私と妹はともかく、父は心底ホッとした様子だった。


 一度、たずねてみたことがある。

 母さんは何で色んな物事を言い当てられるのさ? と。

 母は声をひそめ、こう教えてくれた。


「実はね。大きいふくはぎの仏様が、脳の裏側でささやいてくれるのよ、

 色々とネ☆」


 ――いきなり仏様云々うんぬんと言われ面食らった。『大きいふくはぎ』の意味もわからない。

 「へぇ、すごいね」などと適当な返事をしておいたが、

 今となっては深く訊いていた方が良かった気がする。



 予言をやめた翌年の冬。

 母は我々家族を捨てて、

 よくわからない宗派の門を叩き

 出家しゅっけした。



 健在であれば 今も辛い修行に励んでいる筈である。


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