私が学生の頃、母が予言者になったことがある。
父の昇進。妹に最近カレシが出来たこと。大御所俳優の突然の逝去。
遠近様々な事柄をピタリと言い当て、家族を驚嘆させた。
ただし、大体半年くらいだった。
それから後、母は予言的なこと自体を口にしなくなった。
私と妹はともかく、父は心底ホッとした様子だった。
一度、訊ねてみたことがある。
母さんは何で色んな物事を言い当てられるのさ? と。
母は声をひそめ、こう教えてくれた。
「実はね。大きい脹ら脛の仏様が、脳の裏側で囁いてくれるのよ、
色々とネ☆」
――いきなり仏様云々と言われ面食らった。『大きい脹ら脛』の意味もわからない。
「へぇ、すごいね」などと適当な返事をしておいたが、
今となっては深く訊いていた方が良かった気がする。
予言をやめた翌年の冬。
母は我々家族を捨てて、
よくわからない宗派の門を叩き
出家した。
健在であれば 今も辛い修行に励んでいる筈である。
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