真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第一斬 『手首』

公開日時: 2021年5月31日(月) 16:00
文字数:379

 喉の渇きをおぼえ、深夜遅く 目を覚ました。


 台所に行って冷蔵庫の中からミネラルウォーターを出そうとしたら、

 誰かが飲み干してしまったのか影も形も無い。


 仕方なく水道水を飲もうとするや、


「それをしてはいけない」

「手首が切れて、血が流れるぞ」


 という不可解な直感が脳裏を走った。


 納得いかないものを感じながら 思いとどまった。

 渋々しぶしぶ、ふだんあまり飲まない牛乳を飲んで寝た。



 翌日早朝そうちょう。耳をつんざくような絶叫ぜっきょうで目を覚ました。



 どうも台所のような気がして行ってみると、

 果たして 高校生の妹が手から血を流して泣いている。


「飲んだのか」

「うん、痛い痛い・・・」

「わからなかったのか」

「何か飲んじゃいけないって頭に浮かんだんだけど、

 喉 渇きすぎてて――」


 妹の傷は意外に深く、直ぐに救急車を呼んだ。

 親には正直に説明したが、まったく信じてはくれなかった。



 それ以来、

 妹は おのずから手首を切るようになった。



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