真事の怪談 ~辻斬り 四十九連斬~

月も隠れし夜闇の底で。あなたは怪異に斬り苛まれる――
松岡真事
松岡真事

第四十六斬 『花』

公開日時: 2021年7月11日(日) 14:00
文字数:399

 亡き祖父は 終戦直後

 焼け野原と化した東京で、

 愚連隊ぐれんたいをやっていたらしい。


 無人となった半焼の屋敷を根城ねじろとし

 自分たちを〝〇〇一家〟と名乗って

 現在でいう半グレまがいの行為を

 繰り返していたという。


 そんな祖父が 故郷の熊本に帰って来る発端ほったんとなった話だというが。



 ――当時、構成員の一人に 柄にもなく風流を解する不思議な偉丈夫が居たらしく。


 いつも根城となる屋敷の茶室にお花をけて、


「ここは本当に色んな花がえる」


 と口癖のように言っていたのだとか。



 ある日 その彼が

 首領格の男に「もう一家を畳みましょう」と進言した。


 「花が 美しくなくなったんです。

  いくら生けても どんだけ生けてもーー」 


 などと、

  意味不明の理由を言い出して。


 ご想像の通り

 男はかしらの怒りを買い

 袋叩きの末に 破門された。


 でも。

 それから間もなく 一家も崩壊の道を辿たどる事になる。



 頭が寵愛ちょうあいしていた女が

 他の一家に寝返ったそうで。



 女は 花に由来する名前であったが

 裏切った後 改名したという。


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