「なんだ、なんだ?」
私は寝ぼけまなこで、無意識のうちにスマホをいじる。
「あ、そりゃそうだよね。ここじゃあ、スマホを見ても何が起きたかわからないんだった……」
ちょっとしょんぼりしながら、せっかくなので拡張機能を選択することにする。
「トラブルっぽいから、やっぱりすぐに役立つ可能性のある、新ガチャ解放にしとこ。ポチっと」
私のタッチにあわせて、スマホに文字が表示される。
『ガチャアプリlv1 拡張 新ガチャ 開放が選択されました。10,000いいねを消費して新ガチャ解放を実行します。
・はい
・いいえ』
「もちろん、はい、と」と私はさらに操作を続ける。
『10,000いいねが消費され、新ガチャが解放されました。
ユニット限定プレミアムガチャ
1回10,000いいね
捧げられた大量のいいねが、別次元の力となってその手に』
「新ガチャ、きたーっ! 予想通り、限定ガチャかっ。しかもユニット限定は嬉しい。あーでも。コスト、法外でしょ。解放するのと一回、ガチャ回すのが一緒って。そして、謎の煽り文句。さて、今いいねはいくつだろ……」
私は早速ガチャアプリを開くと、手持ちのいいねを確認する。
「4,205いいねだっ。結構、増えてるっ! あー、なるほどエントオブノウレッジの動画にいいねがつき続けていたんど。バズった効果は凄いなー。でもそろそろ落ち着き始めた感じ。このままだと、10,000いいねは少し遠いかも」
気がつくと鐘の音が止んでいる。
大きく伸びをしたあと、とりあえず身支度することにする。
「宿の人に聞けば何かわかるかなー」
そんな呑気な事を言っていると、ドアがドンドンと叩かれる音が。
「え、なんだ? はいはーい!」
と、日本にいた時と同じノリで不用心にドアを開けてしまう。
そこには見知った顔。ガーリットが拳を握りしめて立っていた。
「あれ、何でガーリットさんがここに?」
「クウっ! 良かった。冒険者ギルドで薦められた宿に馬鹿正直に泊まっていて助かったぜ。大変なんだよ。急いで冒険者ギルドに来てくれ。ドォアテアルの街がヤバいかもしれないんだ」
勢いのいいガーリットに気圧されながらも、一応抗弁してみる。
「えっと、私は成りたてのFランク冒険者ですよ。そんな、街がヤバいようなトラブル、何も出来ませんよ? それに朝ごはんも食べてないし……」
「いいからいいからっ! もう出られるな。朝ごはんは行き掛けに、何か屋台で奢ってやるからさ。ガッソの旦那が言ってたぜ。ハーフエルフ、昨日クウが拾ったそうじゃないか。目を覚ましたんだ」
半ば引きずられるようにして、部屋を出ると、私はしぶしぶガーリットの後について冒険者ギルドへと向かう。
──まあ、いっか。Fランク冒険者に無茶ぶりしてくることなんて、ないだろ。そうだ、せっかくだからリスティアの話しているところの動画、撮らせてもらえないかお願いしてみるかな。ハーフエルフとか、異世界物の定番だし。
屋台でガーリットが買ってくれた謎肉の串焼き──何故かガーリットも自分の分を食べている──を食べながら、私はそんな甘い事を考えていた。
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