流れる漆黒の髪は、夜空の深みを湛え。
玲瓏とした白い肌を縁取る。
そして何よりも炎を宿したとしか言い様のない、その瞳。
大きな三角帽の下から覗く、その瞳の一瞥が私の理性という名の鎧を易々と撃ち抜く。
薄暗い部屋のなか、ぽつんと座るその女性はまるでこの世の者ではない何か幻想の世界の理を感じさせるものがあった。
知らず知らずのうちに、私は足を止め、その魔女の装いをした女性を凝視していた。
私のそんな様子に頓着することなく、ガーリットとその女性は言葉を交わしている。
ガーリットが私の方を向き話しかけてくる。
「クウ、こっちは魔女ジョナマリア=サンクルス。冒険者ギルドの源泉管理官だ」
「はじめまして。クウさん。冒険者ギルドへようこそ。活躍を楽しみにしているわ」
ジョナマリアはそういうと、そのたおやかな手を差し出してくる。
私は思わず、その手を二度見したあと、握手するのかと理解し、返事をしながら恐る恐るその手に触れる。
「は、初めまして。よろしくです」
「なんだなんだ、緊張しているのか?」
からかうようなガーリットに構う余裕もなく、私は目の前の相手から目が離せない。
彼女の手を握っているのが一瞬にも永遠にも感じられる。
その魔法のような時。
しかし次の瞬間、ふっとジョナマリアが笑い、手を離す。するといつも通りの時間が流れ始める。
「今ので、登録完了だ。後は上の事務室で手続きするから、行くぞ、クウ」
ガーリットの無情な声が、私を地下から連れ去る。
私は名残惜しげに後ろを気にしながらも、仕方なくガーリットについていく。
出来るだけ歩くのをゆっくりするように心がけるが、彼女の姿が見えなくなると、諦めてガーリットに急ぎ追い付く。
「なあ、ジョナマリアさんはいつもあそこで1人なのかい?」
「ああ、源泉管理官だからな。仕事中はあの地下から出ないだろ。この地の源泉だしな。いつもああやって源泉への登録やら、源泉間の記憶のやり取りを管理しているはずだぞ。まあ、仕事が終われば出てくるだろうがな」
「そうか、で、いつ仕事終わるのかな?」
「おいおい、近いって。知るかよそんなこと。手続き終わったら自分で聞いてみりゃいいだろ」
ガーリットは私を押し退けながら答える。
「あの部屋は、普通に入れるのか?」
「そりゃあ、冒険者ならな。でもあれだぞ。何の用事もなく入り浸ってたら、うざがられるのがオチだぜ」
「うーん。それは確かにありそうだけど……。て、普通はどんな用事であの部屋に行くんだ?」
「ああ、このあと説明があると思うけど、冒険者登録と削除、後は源泉に宝珠を捧げる時だな」
「宝珠……。源泉……」
私の知らない単語がいくつも出てきた。しかし、その単語の意味よりも、いかに宝珠とやらを手にしてあの地下の部屋に行く大義名分を得るかばかりに意識が向いていた。
そんな私を呆れたように見てくるガーリットが口を開く。
「さあ、事務室ついたぜ。さっさと済ませちまうかな」
そういうと、一回の別の部屋に入る。そこはかなり広めの部屋で、カウンターがあり、いわゆる冒険者ギルドチックな作りになっていた。
結構な数の冒険者らしき人たちも居て、さっきまでのジョナマリアとの出会いが嘘のような普通の空間が広がっている。
ガーリットに連れられ、カウンターに向かう。
すると、事務員らしき男性からギルドカードです、と一枚のカードを渡され、何やら説明をされる。
しかし、私の頭のなかは別のことに気を取られていて、そんなつまらない説明はほとんど聞き流してしまっていた。
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