私は、ゆっくりと冒険者達に近づいて行く。
だんだんその様子が見えてくる。冒険者達は戦いが終わったのに、手に手に剣や弓などを構えたまま、じっとこちらの方を見てくる。
──あれ、警戒されている?
私は少し離れたところで立ち止まると、声をかける。ゴブリン達は私の後ろに並ぶ。
「こんにちは! 旅のものなのですが、近づいてもいいですか?」
「俺はチーム『黎明の嘶き』のガーリットだ。助けてくれたようだな。ありがとう。失礼だが、そちらさんは人間かっ?!」
冒険者のリーダーらしき人物が答えてくれる。
私はスキルのお陰で話が通じることに安堵しながら、ゴブリン達を警戒しているのかと思い、答える。
「人間です! 今、この子達をしまいますね」
スマホを取り出し、私はゴブリン達を収納する。
何故かびっくりしている様子の冒険者達。
彼らは顔を見合せた後、武器を下ろしていく。
私はそれを見て、普通に話が出来るところまで近づいて行く。その途中、今度は向こうから話しかけてくる。
「なんと、召喚士の方でしたか。改めて助けていただいたこと、お礼を。それだけのお力、さぞや高名な術士の方とお見受けします。お名前をお伺いしても?」
──あ、ヤバい、名前、思い出せないままだった。クウって言うわけにも……。なんて答えよう……
「名前は……クウと呼んでください」
私は思いつかず、ゴブリン達に名乗った名前を名前をそのまま名乗る。
これが、この世界で私がクウとして生きていくことになった瞬間だった。
「クウ殿ですか。先ほど旅をされているとおっしゃっていましたが、遠方からですか? 良ければ助けていただいたお礼をさせてください。お急ぎでなければですが」
私は名乗った名前を疑われる素振りがなくて安心する。
──なんだか途中から私に対する対応が丁重になっているけど、召喚士とやらは地位が高いのかな。確かに、はたから見たら召喚士の真似事みたいなことをしているけど、このまま黙っていて大丈夫だろうか。
私はそんなことを考えながら答える。
「ありがとうございます。どうやら迷ってしまっていたみたいでして、同行させて頂けたら嬉しいです。皆さんはどちらへ?」
「俺たちはドォアテアルの街へ帰る途中です。」
その時、馬車から一人の男が出てくると、私たちの方へと向かってくる。ガーリットが振り向くと、手で示しながらこちらに話しかけてくる。
「あ、紹介します。リック商会のベニートさんです」
「いやいや、素晴らしい召喚獣達ですね。お陰様で助かりましたよ」
恰幅のよい中年の男性がニコニコと笑いながら話しかけてくる。
「いえいえ、当然のことをしたまでです。それに大部分は逃げてしまいましたしね」
私が答えると、大袈裟な身ぶりでベニートは答えた。
「なんと、まあ謙遜の美徳もお持ちとは! クウ殿は人徳も兼ね備えているのですね。申し遅れました、わたくしめはリック商会で副会長補佐をしておりますベニートと申します。今後ともよしなにお願いしますね」
「これはご丁寧に。クウと申します。旅をしているのですが迷ってしまいまして」
「いやいや、それは大変でしたな。是非、ドォアテアルにある我々の商会にお越しください。歓待させて頂きます!」
「ガーリット殿ともそのお話しをさせていただいてたんですよ。是非、同行させて下さい」
「おお! それでは早速! ガーリットさん、盗賊の首級はどうします?」
ベニートが一歩下がって控えていたガーリットに声をかける。
ガーリットはこちらを気にしながら答える。
「賞金は、かかってはいないだろう。どうにも素人臭かったしな」
「ふむ、それでは放置でいいですな」
どうやら殺した盗賊の処遇の話らしい。
私は黙ってそれを見守る。
「ではでは、クウ殿、お手荷物がなければ早速行きましょう。さあ、馬車へどうぞどうぞ」
私はベニートに連れられ一緒に馬車に乗り込む。
そして馬車はドォアテアルの街へと向かって出発した。
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