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~俺の妹が世界最強のPKでしかも超人気vtuberだった件~
鳴雷堂哲夫
鳴雷堂哲夫

ウィンターミュート

公開日時: 2021年9月25日(土) 06:21
文字数:1,237

巨大な機械扉を抜け、街へと一歩踏み出す。


路地を行く人々の喧騒。


屋台から漂う肉の焼ける香ばしい匂い。


頬を凪ぐ気怠く湿った風。


明滅するカラフルなネオン看板。


VRゴーグル越しに、それらの感覚が流れ込んでくる。


とてもヴァーチャルとは思えないような、凄まじい臨場感だ。


五感を通じて、街を感じる。

五感を通して、街に圧倒される。


いやぁ、技術の進歩ってのはすごいもんだな!

こんなリアルなゲームが作れるなんて!


おれは目を瞑り、いったん深呼吸すると、待ち合わせ場所の酒場に向かってまっすぐ歩き出した。


エレベーターを降りてすぐの大通りをまっすぐ進むと、目的の酒場はすぐ目の前にあった。


『冬』『寂』と書かれた巨大なネオン看板が掲げられた、古びた酒場。


その名も冬寂ウィンター・ミュート


アウトキャストたちが仕事の依頼を請けたり、雑談したり、バンドを組んだり、パーティーメンバーの募集をしたりする場所。


まあ要するに、ファンタジーゲームでいうところのギルドにあたる場所だと考えてくれ。


おれは店内へと通じる薄暗い階段を降りて行き、店の中へと足を踏み入れる。





101101010100101010101110101110010101……





退廃の街、ジャンクジェット・シティの表通りに位置する酒場、冬寂ウィンターミュート


その店内は意外と広く、店の中はPC、NPC含めた様々な人々でごった返していた。


店内にはノリのいいトランス・テクノが轟音で鳴り響き、中央にあるダンスフロアでは、音楽に合わせて大勢が踊り狂っている。


高い天井にはミラーボールが煌々と輝き、真下で踊る人々に散乱する七色の光を投げかけている。


「ほえー、なかなかいい雰囲気の店じゃないの。」

おれは間の抜けた声でそう呟くと、店の奥にあるカウンター席に歩いて行く。


カウンター席には既に数人の男女が腰かけ、にこやかに談笑している。

おれは適当に空いている席に座り、きょろきょろと周囲を見渡した。


(待ち合わせ場所はここで間違いないんだよな?)

おれは他の席に座る客をちらりと横目で見た。

そして、アバター上部に表示されたプレイヤーネームを確かめ、エリルの名がないか確かめる。


(レマットに、ニャンラトテップ……さっきのエレベーターで一緒だった奴らか……。エリルは……いないようだな。)

どうやらカウンター席には玉兎のアバターはいないようだ。

いるのはエレベーターでおれと一緒だった初心者が数名ほど。


(あいつ、ダンスフロアにでもいるのかな?)

そう思い、立ち上がろうとした瞬間、ふいに後ろから誰かに目隠しされる。


「だーれだ?」

聞き覚えのある声だ。

「……玉兎か?」

おれは他のカウンター客に聞こえないように、しずかにゆっくりと答える。


「ノーノ―、ここではエリルって呼んでよ。ね、兄貴♡」

耳元でそう囁く声。

そして、おれの眼を覆っていた柔らかな手が、ゆっくりと外されていく。


振り返ったおれの目に映ったのは

巨大な対戦車ライフルを背負った、ツインテールのうさ耳美少女。


我が妹、月影玉兎のアバター『巫礼荒エリル』がそこにいた。




続く


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