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王位争奪戦④

公開日時: 2022年3月31日(木) 18:18
文字数:2,253

「ケーナ様! 探しましたよ。どちらへ行かれてたのすか?」


 私史上最も力を使った激戦の後で、次はマトンに呼び止められた。ハイドとの約束がまだ残っていたのでそのことだ。

 改めて婚約を申し込むとの話になっていたが、また丁重にお断りすることには変わりない。


「ハイド様、ケーナ様をお連れしました」


「入れ」


 扉を開けると、既に待っていたようだ。


「ごめんなさい。待たせてしまったようで」


「構わん。早速本題に入るぞ」


 一応プロポーズというていなのにも関わらず、なんとも事務的な対応でいらっしゃる。


「昨晩、王を譲る予定の兄から相談されたのだが、もし俺が王位継承権を獲得した場合そのまま王を務める事になった。その代わりに兄が俺を支えてくる話になってな、本来の予定と変わったのだ」


「それは、おめでとうございます。王になられるのですね」


「それで、正式に王になったらケーナを王の側室に迎え入れたいと思っている。本音を言えば正妻として迎え入れたいのだが、王は平民とは結婚ができぬ。何かしらの上位称号を持っていれば別だが、今はそれはどうでもいい。側室にはそれらの制限がない。それに正妻と違い、側室に入った者もほとんど縛りが無い。結婚した後でも冒険者としての生活が送れる。それに側室に入った者には生活に困らぬように――」


「ハイド様。……話の途中でほんと申し訳ないのですが、それではダメです。私の心は動かせません。まだ最初の勢いのある言葉の方が良かったように思います」


【見破りをレジストしました】


 この期におよんで、まだ本心を読もうとしている。


「どういうことだ、ケーナの考えは分からん」


「ハイド様が私に心遣いをしてくれているのは分かります。王の側室に入ることが、価値あるとこと考える者であればそれでもいいでしょう。でもハイド様が欲しいのは、そんな人ではないでしょう?」


「俺の欲しているもの?」


「ハイド様はこれまで、人の心をスキルで見てきたので人一倍分かると思いますが、人の考えている事なんて、言葉とは真逆の時もありますし、表情とも真逆こともあります。それらに違和感を感じてずっと過ごしてきたのではないのでしょうか。ハイド様はご自身のことを心から愛する方、もしくは信頼してくれる方が欲しいのに、身内でさえも限られてしまっている始末。ましてや他人に、そんな者などはいないと決めつけているのではないのでしょうか。だから私のような心が読めない者に惹かれているだけなのかもしれませんよ」


「本心が分からないからこそ、本当の愛があると感じることができる。それを無自覚に求めていたのか……。愛を求めていたのに、相手に愛の無い事を言ってしまっていたのだな」


「ハイド様のスキルは政治ではほぼ無敵でしょう。相手は本心を読まれることほど痛いものはありません。ですが色恋に関しては相手の本心を読むと自分が痛手を負うことになりかねません。もしこの先、政略婚ではなく本当に妻にしたい人ができたら、スキルを一切使用しないことをオススメしますよ」


「まさか年下の娘に諭されてしまうとはな。俺もまだまだだな」


「改めて結婚の申し出はお断りさせていただきますね」


「わかった。だが、今回きりで諦めたわけではない。ケーナもまだ12歳だしな。今の心が無自覚からくるただの思い違いなのか、自分の本心なのかも見極めたらまた申し込むかもしれぬぞ」


「そのころには、誰かが隣にいるかもしれませんね」


「ケーナの心を動かした者であれば、是非一度見てみたいものだ。は! は! は!」


 ふう……。

 何とか乗り切った。

 汗もじっとりかいた。

 次期国王の二度目の申し出を「お断りします」一言で返す度胸など無かったので、あれやこれやと一生懸命言い訳を考えたのだ。


 話の軸をずらしたり、あるのかないのかも分からない無自覚な面をだしたり、それっぽいことを兎に角並び並べて有耶無耶にしてやった。

 余計な情報や感情が多くなればなるほど重要なことは見えなくなる。

 なんといっても一番の理由としては


「背の低い男は嫌!」


 これは昔のエーナの記憶にある言葉だ。継いだ体だから、エーナの想いもできる限り継いでやりたい。ハイドは15歳になるのに身長がエーナとほぼ一緒だからな。


 あと転生してだいぶ体に馴染んできて、女としての自覚は多少なりとあるのだが、男の精神的な部分が完全に消えたわけでもないので、男と結婚することが今だに考えられないのも本音。


 まだ12歳だし、猶予はあるかな。あってほしい。


 それに側室ってのも、2番目感がして個人的には好きじゃない。王になるなら、そこは規律を変えてでも正妻に迎えるぐらいの気概が欲しいところ。


 何か伝える事があった気がしたが、取りあえず婚約の話を早く一区切りさせたかったのでペコリとお辞儀をして部屋を出て行ったのである。


「セバステ」


「はっ、何でしょう坊ちゃま」


「心が読めぬというのはこんなにも大変で、もどかしく、じれったいものなのだな。久しく忘れていたぞ」


「坊ちゃま、それは相手の事を知りたいと思う気持ちが、最初に会ったときより大きくなっている証拠でございます」


「難儀だな。まだ政治の方が簡単に思える」


「政治を簡単と言えるのは、世界広しと言えども坊ちゃまくらいでしょう。だからこそ兄上様も託してくれたのかもしれません」


「そうか、そうかもな」


「ただ今回のケーナ様の心音は、ギャンブルの時より遥かに高鳴っていたのは確かでございます。全く心が動かなかったわけではない様ですよ」


「セバステに頼りすぎると、また何か言われそうだな。は! は! は!」

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