「と、言われましても揉め事は厳禁ですので」
「も、もしかしてお断りになりますの!?」
丸々と見開く血走った目が驚きと怒りを訴えてきている。
「賭け事で熱くなっては、勝負もできませんよ」
「そんなことぐらい言われなくても分かっていますわ!わたしマジポで手も足も出なかった事なんて、いままで、ありませんでしたの。だ、だからどうしても、あなたに一泡吹かせてみたい、のですわ」
なんと真っ直ぐなご意見。
怒りを超えた目からは涙が今にも溢れそうになっている。そこまで悔しかったのか。
これはお金の問題ではなく自分自身のプライドを賭けた挑戦だろう。
となれば、そんな薄いプライドは圧し折ってやらねばならないのが世の情け。
「承知しました。テッテさんがそこまでおっしゃるのでしたら受けて立ちますよ」
「ホントですの!!ヨシエ、残りの金貨枚数は何枚かしら」
「670枚でございます」
「十分ですわ。マジのマジポを見せてごらん遊ばせてあげますわ」
運も実力のうち。
ここの異世界ではステータスでLUK運の数値があり、その者の運の良さとなっている。生まれ持ったこの値は鍛えて上げる事も出来ず、何もしないからと言って減退することもない。アイテムなどで一時的な変化を加えることはできても、基本値は一生そのままである。一般人であれば一桁であるのが普通で、10を超えると運のいい人、20ぐらいあれば強運の持ち主などと言われもてはやされる。
そして他のステータス値があまり活かせないギャンブルという分野に限って言うならこの運こそが全てと言っても過言ではない。
エーナ LUK運264
対する相手が三桁であることが意味するのは、670枚の金貨では一矢報いるどころか心の傷に自ら塩を揉みこむ苦行を率先して行っているだけになってしまう。
「お、おーるいん……」
「コール」
ディーラーが最後であろう、勝負のカードをめくる
「49。トータル132。+4で1番席の勝ちでございます」
「なああああああんんんでええええええええええええ、まってよおおおおおお。おかしいいいわ。いかさまよ。いかさま。こんな勝負は、のーかん!のーかん!のーかん!のーかッ」
パン!
と響く張り手に静まり返る
「ヨ、ヨシエ……なんで、ですの」
「テッテお嬢様いい加減にしてください。真剣に勝負した相手と公平に徹したディーラーに対して大変失礼でございます。ベルクスの名を持つ者としての誇りをお忘れにならないでください!」
従者が主人に向けて意見をする。それですら珍しい事なのに張り手をするなんて、人目が有る無しに関わらずありえないようなことだ。
張り手を受けた本人も唖然としていて動けずにいた。
「今日までお仕えできたとこ、感謝いたします」
そう告げると隠し持っていたのであろうナイフを取り出し、自らの首に突き刺そうとする。
本来なら持ち込み禁止である刃物があることでディ―ラー達もあわてふためき場が騒然となる。
(ゼンちゃん!!)
⦅投げろ!!⦆
投げられたゼンちゃんがナイフの刀身を包み込むようにまとわりつき、ギリギリのところで事なきをえた。
この世界は簡単に人の命が消える。命の価値が低いのだ。
特に貴族に仕える者や奴隷などは、主人の気分次第で1秒後に生きているかどうかもわからない。
この世界のルールで受け入れがたい1つでもある。
「ヨシエ!ごめんなさい。あなたの言う通りだわ。だからお願いそんなことはしないで」
「ですが私はテッテお嬢様に酷いことを」
「いいえ、わたしは何もされていません。今まで通り傍にいて」
「ありがとう、 ございます」
ヨシエの行いを不問としたテッテ。
テッテがどこかの偉い貴族のように従者を捨てるような人じゃなくてホッとしている。
「あなたには迷惑をかけてしまいましたわ。あとでお詫びとお礼をしたいのだけどお名前を伺ってもよろしくて」
「ケーナ。また明日もここに来るよ」
「わかりましたわ。またお会いしましょう」
騒ぎに駆けつけたセキュリティにヨシエが取り囲まれる。
ナイフを持っていたせいだろう。
事情説明の為、テッテも同行するとのこと。
ここで一旦お別れだ。
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