チームキャットテールの拠点となる邸宅は、豪邸といえるほどの佇まいをしていて、本当に私が住んでいいのか気が引けるほどだった。
「こんなにすごいのに、妖精がいるってだけでどれくらい安くなるの?」
「こちら、金貨100枚で即時引き渡しだそうです」
「やっすい!」
今の私にとって100万メルクぐらいはポケットマネーだ。
その安さの原因となっている妖精は、探索スキルに3つの反応があるので嘘ではないようだ。
「今開けますね」
とグラフがガチャッと鍵を開けるものの、ドアを押しても引いても全然動かないみたい。
「あれ、おかしいですね。ふん!!」
グラフが全力で試してみても状況は変わらなかった。
「お前のその腕は、ドアも開けられないのか? 俺が代わる」
今度はグランジが挑戦するものの、「ん゛ー」「あ゛ー」と唸るだけでやっぱり同じだった。
「ドアに魔法が施されてるみたい。力任せじゃなかなか難しいよ」
鑑定眼で見てみると、オーガスタスという物を巨大岩のように重くする魔法がかけられていた。この魔法を解くか、重くてもドアを開けられるか試されているようだった。
「私がやってみる。ここの主になる予定だしね」
スキル手加減の達人を停止させる。
ドアノブをゆっくり回し、ちょっとずつ力を込めて行った。魔法に対して敢えて腕力でねじ伏せに行く。
半分ぐらいまで力を出したとき
ゴッ
ドアが微妙にズレる
更に力を込めていくと
ゴゴゴゴゴ
まるで巨大な石臼でもひいてるような音が地面から聞えてくる。
8割程の力でゆっくり開き始めたドアは、通れる程度まで開くことができた。ゆっくりと中に入って行くと
「開けちゃった」
「人族なのに」
「魔法解いてないのに」
ドアを開けた先に手のひらサイズの3匹の妖精がヒソヒソとお出迎え。
「どうする?」
「どうしよう」
「埋めちゃえ」
1匹の妖精が床に敷かれていた絨毯に魔法をかけた。
私の足が沈み始める。
「2人はまだ中に入らないで!」
本来ならそのまま沈んでいくのだろうが、耐性があるので足首に以上は沈まない
「なんで?」
「沈まないこの人族」
「魔法が効いてない」
焦る妖精たちに声をかけた。
「魔法を解いて話を聞いてほしいのだけど、いいかな?」
「魔法は解かない、でも話は聞いてあげてもいいけど」
強気な緑色の妖精が前に出てきてくれた。
「私はケーナ。この家に住みたいの」
「ダメ」
「なんでダメなの?」
「ここはお母さんの場所だから」
「お母さん?」
「人族がここにあった大樹を切り倒した。妖精たちの母親のような存在だったのに」
人族のエゴで母親を殺されたようなものだ。妖精が怒る理由はごもっとも。
「どうすれば、許してくれるの?」
「お母さんが残してくれた新しい命が、この家の下敷きになって芽吹けないでいる。家をずらすか、その種子を助けて欲しいけどあなたにそれができる?」
「わかったやってみる。その場所が分かるならそこまで連れて行って」
3匹がこそこそ相談して
「いいわ、案内してあげる。でも変なことしようとしたら今度こそ容赦しない」
そういうと魔法を解除してくれた。
ついた部屋は食糧庫に使うのであろう部屋。
「ここの真下よ」
指さす床は石が敷き詰められている。
「できるの?できないの?」
急かしてくる妖精。
「ちょっと待ってて、今調べるから」
まずは感知を使い種が本当にあるのかを確認。
【世界樹の種】
空間収納で確保しようとしてみたが地面の中にあるものは千里眼を使っても目視できない判定となり収納ができなかったので、穴をあけたくはなかったけどアブソーブでくり抜くように掘って行った。
拳ほどの大きな種を救出し妖精たちに見せる。
「それよ! それ。あなたやるじゃない」
「お母さんの残してくれた種だ」
「ありがとう。私たちじゃどうにもできなかった」
とても喜んでくれてなにより。
「これで住んでもいい?」
「まだよ。今度はその種子を日の当たるところに埋めてちょうだい」
「わ、わかったよ」
家を手に入れる為だと思い、裏庭の日が当たりそうな場所に種を埋めた。
「これでいいでしょ?」
「まぁまぁね。後は私達が世話をするから、もう用はないわよ」
「ちょっと、この家住んでいいでしょ!?」
「条件があるわ」
何とも注文が多い妖精だ。
「まだ何か?」
「この種が大樹に成長するまで、私たちもここに住むから。そのかわり、家を綺麗にしてあげる。悪くはないでしょ?」
長い間誰も住んでいないと聞いていたが、家の中が妙に綺麗だったのは妖精たちのおかげらしい。
「それでいいよ。でも、この家の主は私だからね」
妖精との交渉は上手くいった。
それを2人に伝えると、驚かれた。
まず、妖精と話せる事、そして妖精と交渉をした事、家に住むことを許された事だ。
「次期魔王ともなると、妖精とも話せるもなのか……?」
「ケーナは凄い子だと思っていましたけど、また僕の想像を超えて行きましたね」
こうしてとても安い豪邸と掃除係妖精たちを手に入れることができた。
「ありがとうございます。本当に助かりました。どんなに安くしても誰も買いたがらなかったので困っていたのですよ」
一番喜んでいたのは、ここを早く手放したかった前の持ち主のようだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!