ナジョト国からオオイマキニドに帰還したノーザンは、帰還報告をするために国の中枢都市でもあるイイコタキヤに来ていた。
イイコタキヤは食の町でもあり、店舗の食事処はもちろんの事、小さなスペースでもあれば屋台が出ている。出店の数もさることながら、この町にはとあらゆる食材が集められ、ありとあらゆる料理が作られている。
町の中はいつでも食の匂いが充満し、空腹のままで訪れてしまうと胃には辛いことになるらしい。
「お腹が……すいた」
「おやドラン、もう少しですよ、こんなところでうずくまらないでください。周りの方の迷惑にもなりますよ」
人の流れが多い場所で突然うずくまり、食事を所望するドラン。
「お気持ちはお察ししますが、報告が終わるまで我慢してください。終わりましたら美味しい物を食べに行きましょう」
「わかった。頑張る」
「ありがとうございます。それでは行きますよ」
スッと立ち上がったドランの手を引き、看板も窓もない黒塗りの建物に入って行く2人。
ゴツイ警備員や何重もあるセキュリティをパスし入った薄暗い部屋には既に数人の人影があった。
「ノーザンです。ただいま戻りました導師様」
「これで全部か?」
「そのようですね」
ここに集まるはオオイマキニドの精鋭の諜報員。他国の権力者に紛れ監視、観察、時には影響を与え、自国の利益のため動くのである。最終的には国を大きくさせ世界統治を目指しているのである。
導師様と呼ばれる者がここの親玉であり、オオイマキニドの真の支配者でもある。
「では早速、報告はそうだな。北からお願いするとしよう」
そう導師が発すると体の大きい男が一歩前に出る。
「おうよ。相変わらず北は何もねぇ。小国とごちゃごちゃやってるけどそれだけだ。以上」
「古の森の調査は進んで無いのか?」
「ああ。動きはねぇな」
「そうか。あの森の情報は極端に少ない、何かあれば直ぐ報告してくれ。では次は東、何かあるか?」
すらりと背の高いダークエルフの女が口を開く。
「気になる情報が1つあるねぇ。名のある魔導士のレイン・ロップ、ミスト・キャティの2人が国外に出ている事が確認されているからねぇ。1人で軍団クラスの力を持ってるとされる者がふらふら外に出ていくとは、まったくあぶなっかしいったらありゃしないよ。だからこそ、何もないとは思えないんだけどねぇ」
「六大魔導士が動いているのか……。噂は本当だったのか」
「それについてだが、儂からもええか?」
小柄な老爺が割って入る。
「南のバグラではな、インテルシアがアヤフローラに攻め込んだのではないかと言われておって、その理由が大魔法の発動をアヤフローラ国方面から観測されたそうじゃ」
「六大魔導士が攻め込んだと?」
「いやいや導師様、まだどこの国も宣戦布告をしておらんのじゃ。それでもバグラはアヤフローラとインテルシア方面に戦備体制がしかれておる。何がきっかけで事が始まるかわからんぞ」
「南に対しては引き続き監視をするしかないか」
「ところでじゃ、そこ我儘姫がこちらの国に遊びに来ているそうじゃないか」
「部下から報告で聞いている。例のカジノにいるそうだ」
「母国が戦争するかもしれないと言うときになんと呑気な姫じゃの。もしくはこちらに避難させたのか?」
「可能性は無くはないが……。一応こちらも監視はさせてある」
「じれってぇーな。ぱーっとおっぱじめればいいのによ」
「そんなに簡単にドンパチされちゃたまらんだろうて」
「あとの残るは中央か。例の作戦はどうだったんだ?」
ノーザンの出番となり前に出る。
「はい、まず例作戦ですが失敗に終わりました。原因の詳細は調査中でございます。ただ気になる事がございますのでお耳に入れていただければと」
「そこの連れて来た龍人族の娘が関係しているのか?」
「お察しの通りでございます、導師様。この娘ドランと申しまして、戦闘力の高さを買い普段は私の護衛を任せております。種族柄とても目がいいので諜報活動も時折させておりまして、例の作戦の裏側で戦力の観測をさせておりました。そこで作戦失敗となった原因の人物を目撃しております。しかしながら、その者との戦力差を目の当たりにし逃げ帰った次第でございます」
「おいおい、全然ダメじゃねーか、ぶっ潰しておかねーと」
大柄な男の拳と拳をぶつけ合う音が鈍く響く。
「そうですね、それができたら一番良かったのかもしれませんが、あくまで観測が目的です命を捨ててまで行わなければならないものではありません」
「その者が龍人より強いと申すのか」
「その通りでございます。ドランが言うにはアヤフローラの勇者以上だと」
今までは勇者にさえ気を付ければ大丈夫とされてきたので、未確認な戦力が勇者以上ともなればアヤフローラ教国の戦力を見直さなければならない。
「であれば無視することはできぬな。その者を今後『姿を消した勇者エクリプス』と呼称することとする。ノーザンにはエクリプスの調査を始めて欲しい」
「かしこまりました」
「可能な限り敵対は避けよ。勇者以上の戦力とぶつけるとなると否が応でも、切り札、を切るしかなくなってしまうのでな」
「……心しております」
導師の口から切り札の言葉が出た瞬間、皆の視線の圧が強くなった。
それだけ気になっていた事なのだろう。
「ついでだ、最後に切り札について少し話しておこうか」
「噂しか知らねーが相当つえーんだろ?1回戦わせてくれや導師様」
「残念だがそれはできない。元から対人など個を想定した代物では無いのでな。専ら国を守る最後の砦のような物だ」
「そりぁ失礼しましたっ」
「まだ完成には至っていないが順調と言えるであろう。仮にこの情報が外に流れても問題ない所まで来たと言うことだ」
導師の口調からするに、切り札には自信があるよう見て取れる。
勇者に勝てる事を前提にするなら物凄い戦力と言えるかもしれない。
「他に話し足りてない者はおるか?」
その後は雑談を交え残りの報告を終えるとこの場は解散となった。
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