「シリル様は11年ほど前から行方不明でございます」
「え、それってテッテを産んでいなくなったってこと?」
「そうです。テッテ様を出産し1週間後に姿を消されております。国内はもちろん、国外にまで捜索要請をだして探しました。しかしそれでも手がかり1つ掴めてません」
テッテが私に懐く理由がここにあったかもしれない。歳の差は母親と違うが、気負いなく喋れる相手なんて魔王の娘にいるわけない。あの気の強そうなハイドですら、私と友達でいることを願ったぐらいだ。
特異なスキル、特別な環境にいる者程普通は難しい。
「お母様は、きっとわたしのことがお嫌いなのですわ」
「そんなわけないよ」
「じゃ、なんで……」
母親への思いはまだ諦めていない。冷静を装い感情を隠している。
「なら確かめようよ」
「どうやってですの?」
「この世界は探したのでしょ。だったらこの世界以外だよ」
と空間収納に入ってた食パンを1枚取り出す。
「ただの食パンですわね。それと何が関係ありますの」
「どこから取り出したかはわかる?」
「アイテムボックスですわ」
「正解、だけど私のはスキルレベルの高いの空間収納です」
「入る容量が大きいのですわね」
「では更に問題、この食パンはいつから持っているでしょう」
「まだ柔らかそうで、カビも全く見えませんし、1、2日前といったところだと思いますわ」
「残念、この食パンはテッテとカジノで初めて会うより更に前か空間収納に入ってます」
テッテと、ヨシエの目が丸くなるのがよくわかる。
「そんな、そんなことはあり得ませんわ。アイテムボックス内でも時間が経過するのは実証済みですのよ」
「だから、私はスキルレベルが高いんだよ」
「だとしても、時間経過は変わらないはずですわ」
「教育を受けたテッテでも知らないのであれば、絶対見つからないよ。空間収納はスキルレベルによってできることが大きく変わるからね」
「そんな話知りませんわ。そもそも空間収納のスキルそのものがレアで、取得ができないものですし、検証した記録などありませんもの」
「きっとそうだと思うよ。空間収納のスキルレベルでの違いは、容量の違いだと思い込んでるから誰も気づかないんだよ。スキルレベルが高ければ、中で魔法が使えたり、生きている人が出入りできたりするってこと」
「じゃあ、お母様は誰かの空間収納に閉じ込められたってことですの」
「この世界にいないのであれば可能性は十分あるね。でも心配なことが1つ」
「お母様の命ですわね」
「11年間、何もされずに閉じ込めらたままだと……」
「分かっていますわ。それでもわたしはお母様に会いたいですわ」
最悪死んでいるかもしれないが、空間収納内であれば魂と遺体が共に残っている可能性が高い。そうであることを今は祈る。
「あとね、この空間収納の話なんだけど」
「もちろん誰にも言いませんわ。ケーナ姉様も秘密にしておきたかった事ですよね。わたしのためにお話していただいて感謝しますわ」
「可愛い妹のためだからね」
「そ、それに、わたしと同じ思いの者がこれ以上増えてもらっては困りますものね!」
照れを隠して、明るい顔のテッテに戻った。
「ですが空間収納スキルを取得している者をどのように判別したらいいのでしょうか?」
勘のいいヨシエが質問をしてきたので
「テッテの魅了を使ってはかせるもいいのだけど、気づかれて逃げたり、アイテムで耐性を上げたりしたらダメかもしれない。だけど今の私の目は、誤魔化しも嘘も魔法もスキルもアビリティも一切通用しないから大丈夫だよ、ヨー・シエヴィスさん」
ヨシエとテッテの顔がハッなる。
知られてほしくなかった名前なのだろう。SL.Aの探索では名前表示が正しくできなかったが、SL.SSS+になった鑑定眼なら最初の頃のようにレジストされることもない。
たとえエピック級の隠蔽系アイテムを持っていてたとしてもスキルの方が上になる。
「ヨシエ、いつ教えたのですの?」
「いいえ、私は名前の話など一切しておりません」
「ヨシエさんから名前の話なんて聞いてないよ。これは私のそういう隠蔽系を突破できるスキルだから。でも、ごめんねあまり知ってほしくなかったかな」
「ケーナ姉様だから信用してますわ。だから内密にお願いしますわ」
「2人がそれだけ驚くってことは余ほどの事なんだね。秘密にしておくよ。でもこのスキルがあれば空間収納持ちはすぐわかるってこと」
「でしたら、バグラまで来ていただけますのよね!!」
(あ。そうか、そうなるよなぁ)
結局行く事になる。
ハクレイとグラフは置いていこう、バグラに行くのは冒険じゃない。
テッテの母親探しと浮島の件だけだから。
「直ぐは行けないかも、仲間に色々話して、それから――」
「仲間!? わたしというものがいながら浮気なさったのですか」
今日は一段と喜怒哀楽が激しいテッテだ。
「浮気って、何と勘違いしてるの? 仲間だよ。冒険仲間」
「冒険仲間といったら、おはようからおやすみまでずっと一緒にいるでわありませんか。それはもう夫婦とかわりありませんわ」
「それは冒険中や依頼遂行中の話でしょ。お互いがお互いに命を守るため助け合うんだからそうなるでしょ」
「でしたら、わたしもケーナ姉様をお守りしますわ」
「テッテはしなくていいの。それでも姫様でしょ。守られなさい、そういう立場なんだから」
本来なら、冒険者と国の姫様が話を交わすことすらできない。今それができだけでも特別な事だとわかってほしい。
「明日は仲間に話をつけるから、それにテッテにもちゃんと紹介するから、大人しくしててね」
「こちらで待たせていただきますので、準備が出来たらおいでになってくださいませ」
段取りがついたところで今日は解散したのだった。
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