翌朝、私はマトンに、テッテはヨシエに体を揺すられ起きることとなった。
テッテがいると遅くまで話し込んでしまう癖がついてしまって良くない。
眠い目を擦りながら王位争奪戦に向け支度を整える。
会場は謁見した場所と同じく玉座の間。王の前で見届けてもらうのだ。
「ハイド様、お待たせいたしました。今日はよろしくお願いします」
「調子はどうだ?」
「いつも通りです。なのでハイド様を王にできると思います」
「そうか、その言葉嬉しいぞ。それと、これが終わったら改めて婚約を申し込む。今度は依頼ではなく正式にだ」
まだ諦めていなかったのかとテッテほどではないが根性あるなと思わせてくれた。
「構いませんが、返事は変わりませんよ」
「俺の気持ちも変わらん」
「かしこまりました」
王位争奪戦はくじ引きから始まった。
爆破魔石に魔力を込める順番をまずは決めるのだ。
私は6番かなり優位だ。シェーナは3番、マシュリは1番。
全員に手袋を渡されたが、薄くて心もとない。
まず、マシュリ嬢に小さな魔石が渡される。
鑑定してみると、やはり本物の爆破魔石。
まだ魔力蓄積は0なので、どんどん魔力を流し込んで上限をオーバーさせれば爆発する。このイヤリング程度の小さな魔石で65が上限のようだ。
それでも一般人が扱うには危険だと思う。ハイドの言う通りこんな習慣なくなった方がいい。
「わっ、わっあああ」
魔力を込める手袋が光る。それでちゃんと魔力を流し込んでいるかを把握するようだ。
爆破から手を保護する物だと思っていたが公平性を保つもののようだ。
どれだけ魔力を込めればいいのか掴むのが難しいようで、マジックポーカーと似ていてMP1消費すれば魔力蓄積が1上がるわけではない。微妙な魔力のさじ加減が必要になるのだろう。
マシュリ嬢は結構魔力を込めてしまったのか一気に蓄積値が49まで上がっていた。
2番の子も一瞬光っただけなのに蓄積値は59
3番のシェーナで、もう爆発するかなと思っていたが、アイテム鑑定を使っていたのだろう蓄積値65でピタリと止めた。
案の定4番の子で
パン!
と爆発したのだ。
「んぅ! もう終りですの。申し訳ありませんでしたわ」
少し声を上げていたが、花火のような感じだったので
(聞いてたより安全だな)
と思っていた。
5番の子が渡された爆破魔石は先ほどより大きくなってビー玉程度はある。蓄積値上限は約2倍の134になっていた。単純に爆破威力も上がってくるだろう。
サイズが上がった事に少し危機感を感じた。
もしどんどん大きくなればなるほど、後半のリスクが高くなるからだ。
序盤で降りた方が怪我はまだ小さくて済むと思ったので、マシュリ嬢には悪いが6番の私で134の上限まで魔力を込めさせてもらった。
(未来のお妃様ですからね。ごめんね)
1番に戻り限界の爆破魔石はマシュリ嬢の手に
バン!!
威力も音も大きかった。
付けていた手袋は破れ、手のひら少し赤くなっているのが見える。
「すごい音、ごめんねー負けちゃったー」
余裕そうだが、たぶん痛みはあったと思う。
3つ目の爆破魔石は更に大きく、卵ぐらいの大きさで上限値は584。怪我は覚悟する大きさだ。シェーナも顔が引きつっている
2番から始まり魔力蓄積は34、そして3番のシェーナで70、次の4番でで181まで上がっていた、まだ大丈夫だろうと私も310まで上げ次に回す。
蓄積値はシェーナと私以外は見えていないと思う、2番の子は震えながらも手袋を光らせていた。
シェーナに渡ると一気に魔力を込める。ちょっと長めに手袋が光り続け。周りはいつ爆発してもおかしくない状況に逃げ腰になっていた。蓄積値は580。
5番の子はほんの一瞬だけ光らせるつもりだったのだろうが、魔力操作の加減が上手く行かず爆発させてしまった。
ボン!!!
大きな爆発音と共にその場に倒れる。ドレスは燃え、手と腕は火傷しているようだ。
急いで火は消されたが、顔まで火傷をしていたようで相当な威力だったのが分かる。
すぐ治療するために大神官を呼んであると言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか?
次が始まる前に2番の子が
「もう無理だよー」
と泣き始めてしまい婚約者が肩抱いて退場となった。
因みにハイドを見ると、「ぬかるなよ」とでも言いたそうな視線を送りつけてきてくる。怪我の心配などは微塵も感じられなかった。
「では最後になりますのでこちらを受け取ってください」
私に渡されたのは大きなリンゴぐらいはありそうな爆破魔石。蓄積値は2388とさっきの4倍はある。
一応シェーナに一言だけ
「降りるなら今のうちですよ?」
煽ってみた。
「こちらの台詞です。田舎娘が運だけでは勝てませんよ?」
煽り返してきた。
清々しくさえ感じる。ちまちま勝負するつもりは無いので2388まで貯めてお渡しする。
青ざめる顔。だが手を止める様子はない。具体的な数値が見えているなら降りてもいいはずなのに……
1回目はピタリと止めたが、2回目は僅かに余裕があった。
蓄積値が抽象的にしか分からないのであれば今限界付近にある事が分かっても、限界値であることまでは知らないかもしれない。
できる限り魔力を押さえようとしたのだろう。表情から見て取れたが、即爆発してしまった。
ドン!!!!
という音が届く前に、思考加速を使いスローモーションのような世界の中で、助けるべきか否か迷っていた。
感じの悪い奴だったが、爆破直前だということが分かっていてなお、挑んだその心意気に敬意を評する事にした。
爆破の威力、爆破範囲をざっくりとアブソーブで吸収。5番目の子と同等の威力に抑えておいた。
爆破した瞬間にまばたきより数段速くスキルを使ったので、誰にも気づかれなかっただろう…… と思っていたが、ずーっと見つめる1人の女騎士。
絶対に目線を合わせないよう、喜んでハイドの元に駆け寄る演技をしてみた。
「見事だ!!」
「依頼はしっかり達成できました」
「綺麗な魔力でしたわ、ケーナ姉様!」
気を失い倒れるシェーナは火傷を治療する為運ばれていった。
「こんなの認めないぞ!! 俺は絶対に認めない!! このままでは終わらんぞ!!」
と声を上げ出ていく長男。
それを見送ると、王位継承式が始まり、無事ハイドが次期国王となる事が決まったのだった。
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