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しのだ
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生き残り

公開日時: 2022年3月17日(木) 18:18
文字数:3,208

 村が近づいていることが臭いで分かった。物が燃えた臭いか焦げる臭いが竜車に乗っていても分かったからだ。


 小窓から前を見るとやはり黒煙が見える。


「なんだ。おかしいぞ村が燃えてるんじゃねーか?」


 御者の言葉からもいつも通りではないということが分かった。


 千里眼でも確認すると、やはり民家がほとんど燃やされていたり、粉々になっていたりしている。


 住民の姿は倒れこむ人ばかりだ。ピクリとも動かない。

 出血してる体には勇者の母親と同じようなえぐられた跡もある。魔人の襲撃の可能性がも十分考えられる。


 村の入口についたところで探索スキルを使いまだ息のある人がいれば表示される。

 外れの方の一軒の民家に4人の反応。皆で駆けつけると床下の小さな倉庫のようなところに子供3人と傷ついた母親が1人倒れていた。


 母親は息を殺して痛みに耐えていた。腕には少しえぐられた跡がある。


 音を立てないように子供達も泣くことを必死で耐えていたようだ。


「もう大丈夫だよ」


 その声に反応した子が


「お願い、お母さんを助けて!!」


 まだ息がある。魂がここにまだあるなら、なんとかなる。

 ゼンちゃんの分をまた使ってしまうことになるが完全回復薬を使うことにした。


「君たちもこれ飲んで。ポーションだよ」


 母親のHPは元に戻った。

 えぐられた傷もみるみる治り。顔色もよくなる。そのうち目覚めるだろう。

 それを見ていたマトンもテッテもヨシエもこれが普通のポーションでは無いことにすぐ気づいたみたいだった。


「お母さん、大丈夫かな」


「安心して、今はちょっと疲れて寝てるだけだから。すぐ起きると思うよ。だから傍にいてあげて」


「うん」


 3人で母親が目覚めるの待つ。テッテとヨシエは付近を見てくるとのこと。

 その間、御者と今後の予定方針を練ることにした。


「これから向かうならどちらになりますか?」


「先に進んだ方がええ、そっちの方がいくらか早く着く。それにこの村はルクセンブルクにの管轄になるからな」


「夜に出発すれば明日の朝には着くかもしんねぇけどよ。昼間みてぇにモンスターが出なければいいんだが、夜だと狙われたら終りだ。こっちからじゃ何も見えん」


「冒険者の意地にかけてボアっこ一匹近づけないよ」


「んー。分かった夜出発だ」


 丁度母親が意識を取り戻したようで、起き上がる。

 三人の息子達をみて安心したのか。


「お母さん、このお姉ちゃんが傷治してくれてんだよ」


「あ、あああ。ありがとうございます。本当にありがとうございます。ただお返しできるものが何もございません」


「お返しはいいよ。それより話を聞きたいのだけど」


「ありがとうございます。わたくしが分かる事でしたらなんでもお話させていただきます」


「最初からでいいかな。私たちさっき着いたばかりで何も知らなんだ」


「昨日の夜の事です、最初に村を襲ったのは20人程度の山賊らしき者達です」


「ここらへんに山賊は元からいたの?」


「いいえ、山賊何てわたくしは初めて聞きます。その山賊達は村の子供を数人ほど人質に取り、食料や金の要求をしてきたといいます。最終的には女を出せと言い始め、村の男達が抵抗をしていました。でも火矢を放たれてしまい家がどんどん燃え皆逃げ惑っていたと思います」


「最初にってことは次もあるのですよね?」


「はい、男達がなんとか抵抗している時、空から大量の黒い玉のようなものが降ってきたのです」


「村を見たけどそんな玉のような物なんて無かったけど」


「わたくしも良くは分かりません。ただ腕に少しかすっただけなのに、焼けるような熱さを感じ、見た時には削れたようにえぐれていました。それでも何とか痛みに耐え子供達と床下に逃げたのです」


「その黒い玉が村の人達の命を奪ったのかもしれないね」


「あの、私たち以外で生き残ってる方は……」


「ごめんなさい。まだ見つけられてない」


「あと、本当に何を言っているのか分からない言葉も聞こえました。人族とは違う言葉で」


「もしかして、5|uk-ys4kqjdefjq@kbZw. みたいな感じ?」


「そう、それです。とても詰まるような音で聞き取りづらかったです。一体何の言葉なのでしょうか」


「これは魔人の中でもかなり古くからいる者たちが使う言葉みたい、私も今日知しったの。ここに来る前に1体の魔人と戦ったときにね」


「ではあの黒い玉の正体は魔人の仕業なのでしょうか?」


「可能性はあると思う」


 念のため村の中を見回ったが生き残りの気配はもう無かった。

 ほとんどの亡骸にはえぐられた跡や体を貫通して大きく穴が空いていた。

 村人たちが何でここまでされる必要があったのか。


 山賊と思われる死体も13人分見つけた。村人の反撃で死んだ者もいたが、えぐられて出血死したような死体も多くあった。賊と魔人が組んでいた可能性は低いしと見る。もし組んでいても見捨てる前提だったかもしれない。


「夜にここを出発するけど、私達と一緒にいきます?」


「よろしいのでしょうか?」


「私今は冒険者のなりをしてますが、一応これでもハイド・ルクセンブルク様の婚約者なの。だから助けるのは当然ですよ」


「はぁ!誠に感謝申し上げます。ほらぁ、お前たちも頭も下げて」


 ハイドの名に驚き、慌てて息子達の頭に手を添えて無理やりお辞儀をさせる。

 逆に萎縮させてしまったかもしれないが、遠慮されて残るといわれるよりはいいかもしれない。


 テッテとヨシエも村を見回る中である事を気にかけていた。

 もちろんケーナがポーションといって使ったアイテムだ。


「ヨシエ、ポーションは今ありますの?」


「今手持ちは3本程ございます」


「そのポーションであの母親の傷は治せますの?」


「部分的とは言えあの欠損した傷を治すのは無理でございます」


「ではアレは一体なんでしたの?」


「予想の域を出ないのですが、エピック級アイテムのフルポーションかと」


「ヨシエは見ず知らずの者にフルポーションを使えますか?」


「私はテッテお嬢様がこの世で一番大切です。使うのはテッテお嬢様以外ありえません」


「まぁヨシエならそうおっしゃると思っていましたわ」


「仮に今フルポーションを3本持っていたとしてもあの母親には使えません。なぜならそれほど貴重で手に入りにくいものだからです。以前競売にかけられたときは1瓶1200万メルクが付けられたと聞いています。あと1本あれば……なんてことにはなりたくありません」


「そう、ありがとうヨシエ。でも本当にフルポーションだとして躊躇なく使えるケーナ姉様はどこまでお優しいのでしょうか見当も付きませんわ。私も怪我をしてケーナ姉様に癒してもらいたいですわ」


「冗談でもおやめくださいね。怪我をされたテッテお嬢様の姿など見たくありません」


「わかっているわよ」


 フルポーションは製法が確立されていないため、現存する物はダンジョンの奥で希に見つかったり遺跡で見つかったりしたものだ。


 どんな傷でも治すと言われているので、喉から手が出る程欲しがっている者は多い。


 現存数は確認されている物で66瓶


 それだけ貴重な物だけに持ってるだけで町中の噂になり、使用したとなれば国中にその話が広まる。


 そして現存数が減れば減るほど貴重になるというわけだ。


「ケーナ姉様はもしかして凄い錬金術師なのでしょうか?きちんと職業を聞いたことがありませんでしたわ」


「そうですね、武器といえば腰にあるダガーナイフしか見たことありませんし、ハッキリとした職業はわかりませんね」


「魔法も凄いのですのよ。魔族顔負けですわ。ああ、あの綺麗な魔力を思い出したらまた魔力を合わせたくなってきてしまいましたわ」


「ダメですよ。抑えてくださいお嬢様」


 出発の合図を受け、気持ちを高ぶらせたまま竜車に戻るテッテ。


 だが人数の関係上、御者台にケーナが見張りを兼ねて御者と一緒に座り、中では片方の列にマトン、ヨシエ、母親、もう片方にテッテと3人の子供達になった。


「まぁ、そうなりますわよね。わたしは大丈夫ですわ。ちょっとの辛抱ですわ」

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