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盗まれた召喚魔法結晶②

公開日時: 2022年3月10日(木) 18:18
文字数:4,258

「兄貴どこまで行くんすか」


「宿を先に取る。それまで何とかしやがれ」


「もう腕が痺れて持てないっすー!」


「文句しかいえねーのかおめぇの口は」


「飯もたくさん食えるっす」


「たくさん食わしてやるから、がんばれや」


「やったっすー」


 宿を見つけるためキョロキョロしていると。 


「お二人さんは宿探し中かニャー??」


 猫人族の娘が声をかけてきた。


「お、おう」


「だったらウチに泊まるニャー」


「おまえんとこの宿は飯は出るか?」


「ウチのマスターが作る料理は世界1ニャー」


「兄貴!今日はここにしましょうぜ」


「2人部屋は空いているのか?」


「たぶん大丈夫ニャー!!」


「いくらになる?」


「2人部屋は朝夜食事付きで1泊6800メルクニャー」


「わかった頼む」


「案内するからミーニャについてくるニャー」


 キラキラ光るアクセサリーの付いた尻尾に誘導され猫目亭までついてきた2人


「マスターお客さん連れて来たニャー。2人組の冴えない冒険者ニャー」


「はいよ、いらっしゃい」


 部屋の奥から登場したマスターを見て背筋が凍る2人組


「あ、兄貴。あの男ヤバいっすよ。人を殺しても全然平気なタイプっすよ」


「ああ、俺も今そう思った。」


 強面のせいで第一印象は相変わらず良くない。


「で、何泊するんだい?」


「い、一泊で」


「はいよ。これ鍵ね」


「金、置いとくぞ」


「まいど、分からないことがあったらミーニャに聞いてくれ。ミーニャ!案内してやれ」


「こっちこっちニャー」


 やっと、一息できる所まで来てソワソワし始める2人の男。


「兄貴、あの箱の中身早く開けて見てみましょうぜ」


「ああ、そうだな。もし本当に金貨だったら結構いい額入ってそうだな。取りあえず1箱出すぞ」


「了解っすー」


 重いので丁寧に取り出す。


「兄貴、箱のこっち側になんか模様があるっすけど」


「ん?……ん!!」


「え、なんすかなんすか」


「でかした大当たりだ。良く見てみろ」


「んーわからねっすー」


「なら、良く覚えておけ。これはカジノブルースカイが使う模様だ」


「へーそうなんっすか」


「と、いうことはだなこの箱には魔法陣が描かれてるはず。ひっくり返すぞ」


「おうっす」


 ドン!


「ほーら、やっぱりだ。罠の魔法陣だ。これがあるってことは中身は金貨か金塊で間違いない」


「え?え?全然見えないっすけど、兄貴には見えてるんっすか?」


「ああ、俺はシーフの職業を持ってるからな罠外しのスキルのおかげで分かるんだ。お前もこのスキル取っとくとこーゆーとき便利だぞ。もし正規の手順以外で箱が開けられようとすると罠が発動して箱部分が石化する。それで中身を守るようになってるわけだ。下手触ってると指まで石化されるからな」


「おうっす」


「ちょっと見てろ」


 取り出したナイフで魔法陣の所々に傷をつける。


「よしもう大丈夫だ。このまま底をこじ開けていくぞ」


「ひっくり返さねーんすか」


「万が一、罠が発動したとしても石化の進行が若干遅れるからな。ま、大丈夫だとは思うが」


 ナイフで木箱を分解するように底の部分を無理やり外していく


「いよいよっすね」


「ゆっくり外すぞ……」


 徐々に現れる金色の光に2人の胸が高鳴る。


「よっしゃ、金貨だ!」


「うおおおおおおお!!兄貴これやばくないっすか?やばいっすよ!やっば!!!」


 木箱にきっちりと敷き詰められた金貨が並んでいる。


「え、これ何枚あるんっすか」


「1000枚はあるんじゃねーか」


「1000万メルクって、え、やっば、やっば!……ってことは、もう1箱も!!?」


「合わせて2000枚はあるかもしれねーな。久々のまとまった収入だな」


「やっぱり兄貴すげーっすよ。箱に蹴り入れただけ中身分かるんっすんから」


「伊達にシーフやってねーよ」


 と2人が同じ事を思い出す。


「この箱ってもっとあったっすよね」


「邪魔なほど置いてあったな」


「もう無理っすかね?」


「んーーー。もう一回ぐらい盗みたいが、欲を出すと必ず失敗する。さっきは好条件が重なってただけだ。運が味方したから今ここにこれがある。それにもうバレてるかもしれねーしな」


「そうっすよね……」


「まぁ気を落とすなよ。この量の金貨だってそんなにすぐには使い切れねーよ。それにまずは飯だろ?美味いもん食いいくぞ」


「そうっすよね!」


 猫目亭の料理がどれほどの物なのか気になっていたが、夜までは時間があるので屋台で適当に腹の虫を静まらせたら、まず欲しかった物から攻めていく。

 消費系アイテムを買い集め、防具と武器を新調していく。

 10万や20万メルクはするレア級の道具も躊躇なく買える。

 服や靴まで2人分揃えても金貨はまだまだ余る。


 そして偶然入った魔道具屋で見つけた掘り出し物。冒険者なら誰もが欲しがるエピック級の魔道具。アイテムボックスだ。お値段800万メルク。

 そもそもエピック級のアイテムとめぐり合わせなんて、そうあることじゃない。


「その指輪、よく見せてくれ」


「兄さんお目が高いねー。この指輪昨日入ったばかりなんですよ。行商人達が欲しがりますからねー。これでも良心的な値段ですよ」


「そうか、買わせてもらう」


「一括になりますが大丈夫ですか?」


「金なら、ここにある」


 金貨をどんどん出していくと、店主の態度もかなり変わるものだ。


「ありがとうございます。ありがとうございます。また是非是非お越しくださいねー」


 アイテムボックスは指輪型の魔道具で、装備すればスキルの空間収納SL.Fと同等の性能を誰でも使えるようになる優れものだ。


「兄貴どうっすか?アイテムボックスの調子は?」


「凄いぞ想像以上だ。空間拡張系と決定的に違うのは重さが関係なくなるって事だな」


「手ぶらでどこにでもいけるっすね」


「どおりで冒険者達や行商人達が欲しがるわけだ」


 一旦宿に戻ると、ちょうど夕食が出される時間帯になっていた。


「おい!お2人さん帰ってきたか。ちょうどいい飯食ってけ」


「は、はい」「お、おうっす」


「今日のメニューは、虹色鳥のオーブン焼きニャ!特製野菜スープもあるニャ!いっぱいあるから、胃袋ぶち破れるまでおかわりしまくるニャ!!あ、おかわりは別料金ニャ」


 運ばれてきた肉のボリュームに2人とも面食らってしまったが、特製のスパイスの効いたいい香りに一気に食欲が沸いてしまい、貪りつくように食べ始めた。


「やっば。うっっま!!」


「これ程の味付けができる店なんてそうそうないぞ。世界一は大げさだがこの町で一番かもしれないぞ」


「おかわりしてもいいっすか?」


「ああ約束だからな、好きなだけ食――」


「肉のおかわり、お願いっすーー!!」


「直ぐ持ってくから待ってってニャー!!」


 美味い料理を食べることは冒険者にとって重要視される。携帯食が連続で3,4日続く事だってよくあるのだ。気軽に入れて、上手い料理が食べられる店はとても貴重だ。だからだろうか、他の客も冒険者のなりをしているのが多い。


「おまちどーさまニャ! こっちのお客さんはもう食べないのかなニャ?」


「俺はもう、十分だ。それよりミードはあるか?」


「もちろんニャ。すぐお持ちするニャ!」


「兄貴が酒飲むなんて珍しいっすね」


「十分に食べ、十分に飲め、さすれば幸せは腹の底からやってくる」


「なんすかそれ?まだ飲んでないのにもう酔ってるんすか」


「生まれ故郷の神の教えさ」


「じゃーこれ食べたら飲まないといけないっすね」


「腹壊すなよ」


 追加料金の支払い時に金貨しかなくて、お釣りに戸惑っていたミーニャに


「釣りいらねー全部チップにしとけ」


「ニャ?ニャニャニャ!!ニャンですとおおお!!」


 驚き固まる顔に笑って部屋に戻る2人だった。


「あ、兄貴、部屋に戻ったらもう1箱も開けましょ」


「そうだな。枚数把握しておきたいしな」


「楽しみだなーー」




 一方、ギルドでは色々と問題が重なって、落ち着きのないヘッケンの声が外にまで響き渡っていた。


「おい!誰だよギルド本部からの手紙を俺の机に置いたやつ。そのせいで手紙に気づくの遅くなっちまったじゃねーか」


「はい、置いたのは私ですが、机に置けと命じたのギルマスです」


「本部からの手紙なんだから重要に決まってるだろ、中身確認しとけよ」


「お言葉ですが、本部からの速達で届くような重要な手紙を許可なく開ける事が許されるとも思っていらっしゃるのですか?極秘事項だったら誰が責任とるんですか?」


「あああお前は本当に賢いなああああ」


 イライラしているヘッケン。そこへ丁度出張から帰ってきたマナが現れる。


「なにカリカリしているの?ご近所の迷惑になるでしょ?」


 受付嬢は勝ちを確信し、マナに駆け寄る。


「おかえりなさーーいマナさーん。出張お疲れさまでーーーす」


「ただいま。何かあったの?」


「聞いてください、マナさん。ギルマスが自分のミスを私になすりつけようとしてるんです。それで私とても怖くて怖くて」


 マナは元受付嬢。今いる全ての受付嬢達は可愛い後輩でしかない。受付嬢に対して少しでもパワハラ・セクハラの疑いがあれ直ぐに報告する事になっている。見過ごした者でさえも罰せられるからだ。

 そして受付嬢を守るべき立場の人間が逆のことをしている現状は最もおかしな話になってくる。


「ヘッケン」


「……はい……」


「話をしますので奥の部屋に来なさい」


「……はい……」


 因みに、マナが現役の受付嬢だった頃に、こちらもまだ現役の冒険者をしていたヘッケンが一目惚れをしたのが成り行きだったりする。猛アタックを何度も仕掛けお付き合いの許しを得たのだ。しかし、上下関係は今も昔も変わらない。



 ピシャン!!!!!


 ピシャン!!!!!


 ピシャン!!!!!


 奥の部屋から聞こえる音に、なんの音なのか容易に想像がつく。カウンターにいる受付嬢達も苦笑いするしかない。


「ギルマスの顔何倍になるかな」


「3倍ぐらい大きくなるんじゃない?でもホント馬鹿だよねギルマスもこうなるって分かってるのに」


「マナさんが最近忙しいから、こんな形でも構ってもらえて喜んでんじゃないかな」


「やだー、なにそれ、気持ち悪い」


「根が変態なのよウチのギルマスは」


 お仕置きを兼ねた尋問が行われている奥の部屋では、顔が風船のように膨らんだヘッケンが少しでも罪が軽くなればと嘘を織り交ぜ弁解していたが、見破られる度に鞭が飛んでいた。


 マナが鞭を使う事にも理由がある。

 受付嬢も元冒険者だった場合も多く、マナもその1人だった。

 冒険者だった頃は若くして白銀まで昇りつめた優秀な冒険者だったのだ。使用武器は鞭。

 昼はモンスターをシバキ、夜は男どもシバイていたと言われるほど恐れられていた。

 手に馴染んだ武器だからこそ、気絶させずにギリギリまで調整ができるというわけだ。

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