救助者349人 内 重症者23人 捕虜2238人
重症者にはお手製のエクスポーションで回復させるが、戦場での恐怖までは回復できない。軽症者や無傷の人はこっそり町の広場や公園などに小分けして解き放っていく。空間収納内は時間が止まっているのでいきなり違う場所に来た感覚になるだろう。混乱する者もいたが、最終的にはアヤフローラ教国の国民らしく神の御加護ということで収まりそうだった。
問題はこの捕まえすぎた捕虜達。一体どうしたものか。この世界にはそもそも捕虜に対する扱いについての約束事がない。大体は拷問にかけ情報と取った後は家畜の餌になるくらいだ。だからこそ困っている。
自国に渡したとしても殺され、敵国に返しても新たな戦力の補充になるだけになってしまう。ガイドブックを開いてみても良くて奴隷という選択ぐらいかなと思った。
今回の一件、最終的な責任はこれを指示した国のお偉いさんに取ってもらうと思っている。なので、まずは平和的に話し合いをしてみようと試みた。武器防具アイテム類は全て没収。更に兵士をナナスキルを使い弱体化させる。
”弱体化 Cat0”
”一定範囲内に存在する敵のステータス値を全て1にします。敵のスキルや魔法は一時的に使用不可になります。適用は任意です。適用を取り消すとステータスは元に戻ります”
時間停止を解除し意識が戻ったように動き始めるが、予想通り大混乱。発狂し敵の罠だとか大魔法だとか適当な言葉が飛び交っている。比較的冷静に状況を判断しようとしているオジ様に声をかける。
「ここで一番偉い方はどなたかしら?」
「むむ、この中隊の隊長を任されているブハッサと申す。お嬢ちゃんどこから来た?一体ここはどこなんだ?」
「私は、フローラ。アヤ・フローラと呼ばれていますわ。ここは私の庭ですの」
神の名をちょっと拝借させてもらった。
「なんと!!我々は神の怒りに触れてしまったのか。なんてことだ。ここの全指揮権を持っているのはダン大佐だ。お連れするのでここで待っていてくだされ」
「かしこまりましたわ」
なんだか話が早そうだぞ。神の名を借りたのは効果的だったかもしれない。周りの兵士達も不思議そうな目でこちらを見ている。一応ドレスにも着替えてあるので見た目はただの貴族のお嬢様だ。
「貴女がアヤフローラと名乗る者で間違いないか?」
「そうよ。あなたは?」
「この連隊総隊長 ダン大佐だ。いくつか質問をいいかな」
「どうぞ」
「ブハッサがあなたを神だと申しておる。それは真か?」
「知らないわ。私は私」
「ここはあなたの庭だそうだな。見渡す限り真っ白だが、どうやったら出ることができる?」
「もう二度と争いをしないと誓える方だけお帰りできるようにいたしましょう」
「誓えないとなるとどうなる?」
「永久にここに居たいならそうしてください」
「外に出て誓いを破ったどうなる?」
「あなたで試してみましょうか?」
「ん、ん…遠慮しておこう」
「先見の明がおありのようですね。またここに来ます。他の皆様も外に出るかどうか考えておいてくださいね」
全員が外に出ることになっても弱体化を解かない限り戻ったところで戦力外だ。子供以下のステータスでは当然。弱者の立場になったことを捕虜達への罰にしようと思った。
空間収納から戻ると外は日が午後の昼下がりといったところか、ちょっと行き来しただけでも結構時間がズレてしまう。もしかしたらミーニャ達も戻ってきてるかもしれないと思い猫目亭に無事を伝えに行った。
「最終連絡からどれくらいたっている」
「既に1時間が過ぎています」
「奇襲部隊からの連絡は?」
「同じくありません」
「この状況をどう見る?敵の罠か。まさか、こちらの情報が漏れていた?」
「支援部隊がそろそろ到着の予定時刻です。異常があれば転移魔法で書簡が届きます」
「万が一に備えこちらからも伝令を走らせろ!」
ナジョト国の司令部では連絡が途絶えた連合部隊と奇襲部隊の捜索で侵略どころでは無くなってしまった。
「カスケード軍の様子はどうなんじゃ?ノーザン殿」
「こちらは何事もなく。長時間にらめっこしてるみたいですよ。ただ部隊の一部が町の方に向かったとの報告も受けています。そちらの慌てようを見るに、今回の襲撃は失敗ですかな?」
「ん、んーまだ待っとくれ、何かのトラブルかもしれん。作戦が失敗したと決めるのは次の報告が来てからでも遅くはない」
「そうですね、まぁどちらでも構わないのですが、こちらは予定通り時間になったら兵を全て引き揚げさせていただきなす。よろしいですね」
「わかっとる」
「それとそれと中将さん。約束の物もお忘れなくお願い致しますね」
「念を押さんでもちゃんと用意しとるから、帰りにもってけ」
「はい、ありがうございます」
(くっそ、この狐男め。何もしとらんのに報酬だけは一丁前に高額だ。金で動くが金が掛かり過ぎるのも問題じゃ)
暫くして指令室に書簡が送られてくる。内容は予想通り作戦の失敗、そして。全部隊の行方不明ということだった。町に被害を起こすことは出来たが想定より遥かに小規模でこちらの代償が大きくなってしまった。静まり返った指令室に1人の将官の呟きが響く。
「やはり辺境といえど、神のおひざ元であったか…」
『アヤフローラ教国と戦争でもしようものなら天罰がくだる』おとぎ話の一文でもあるが、アヤフローラ国民はこれに疑いを持ったとこはない。他国の者がそんな世迷言に耳を傾けるわけもないのたが過去にも幾度となく侵略を阻止しされ、今回もよくわからないまま失敗に終わったことを考えるとそんな言葉が出てしまっても誰も何も言えないのだろう。
この一件で得をしたのはノーザンと言う男だけ。カスケード軍の戦力の把握。ナジョト国に手を貸したことで報酬を受け取り。そして軍とは別に部隊を消失させるほどの何かがあることを確認できた。ほぼノーリスクで大きなリターンを得る事ができたのだ。
「それでは私はこれで帰りますね中将さん」
「ああ、気を付けて帰るがいい。ここで見送りとさせていただく」
「また、何かありましたらお呼びくださいね」
「……。」
ノーザンが外に待たせてある竜車に乗り込むが、既にもう一人乗っている。
「速かったですね、ドラン。こちらの人達はダメダメでしたね。最初から当てにしていなかったのですが。そちらの様子はどうでしたか?」
「化物が1人いた」
「化物と言いますとモンスターでしょうか?」
「違う、良く見えなかったが人間だと思う。でも尋常じゃない力を使っていた」
「噂の勇者様でもいたと」
「アレは勇者ではない。あの国の最強と呼ばれている勇者は一度見たことがあるから分かる」
「そもそもあなたの龍眼でも良く見えないなんてことがあるのですか?」
「今回の場合は例外。環境的なこと、距離的なこと、能力的なこと、原因が重なった」
「運が悪かったのでしょうか……勝てそうですか?」
「単独では無理。力の上限が見えない、それだけで脅威」
「あなたがそこまで弱気な事を言うのを初めてみました」
「別に相手を過大評価しているわけじゃない。正直に話している」
「わかっていますよ。ただ、珍しいと思っただけです。ですが問題ありません。負けると分かっているならば戦わなければいいだけす。力だけが強さとは限りませんからね」
「そうなのか?」
「そうですよ。知恵もまた力になります」
ノーザンとドランを乗せた竜車は国境を越えオオイ・マキニド共和国へと帰って行く。その様子を部屋からずっと千里眼で監視していたコピーエーナ。事件が起きてから町の上空を飛ぶ龍人族のドランの事をマークしていた。ケーナの探索範囲には入らないギリギリのところで滞空し何もしてこないので逆に不信に思い追跡していたのだ。先手を打つこともできたのだが、オオイ・マキニド共和国の関与は予想外だったので泳がせることにしたのだった。
「どこの誰だか知らないけど、カスケード家に喧嘩を売ったこと後悔させてあげる」
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