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冒険者を諦めた実家のエーナ(冒険しないとは言っていない)

公開日時: 2022年2月12日(土) 18:18
文字数:3,723

 コピーエーナはオリジナルのエーナと別れてから、カスケード家の三女として勉強に励み磨きをかけていた。父親やロットに冒険者を諦めたのかと訊かれたことがあったが、「もう未練はありませんわ」と返しておいた。

 それならばと教会へ行こうと薦められたのだが、修道女になるつもりもないのでお断りをしておいた。

 

 大人しくしている事にも三日で飽きはじめうずうずしてくる。

 自分の存在価値はオリジナルの為、家族の為ここにいるのは理解しているが、何かできないかと思考を巡らせる。ガイドブックに書いてあったきぐるみ士について思い出し、そして思いつく。


(中に入ってる人がいなくても大丈夫な気がする)


 ナナスキル発動

 ”スキルフリー Cat0” 

 現在確認されているスキルを自由に取得できます。発動条件があるスキルは条件は無効化され効果のみ強制的に発動することも可能です”


 スキル、マリオネット、千里眼、裁縫の達人を取得


 ”スキルアップ・スキルダウン Cat0” 

 ”対象の持つスキルを任意のSLに変更できます”


 によりマリオネット、千里眼、をSSS+に変更


 ラルンテに縫いぐるみを作ってみたいとお願いしたら、裁縫に興味を持ってもらえたと思ったらしく大量の布と綿を用意してもらえた。

 ラルンテは教えたがっていたが、どんなものを作るのかをあまり言いたくなかったので1人で作ることにした。


 大きさは自分と同じぐらいで、大きな猫のぬいぐるみだ。柄は白黒のハチワレっぽくしてみた。スキルマリオネットで二足歩行させてみるとこれまた可愛い。このままだと本当にただのぬいぐるみなので戦闘できる程度に補強してみることにした。


 まず胴体の中央に自分の魔力を元に作った疑似魔石を、綿を固定させる糸で作った術式に反応するように埋め込む。これで遠隔で動かしながら魔法も少々使える優れものになった。


 布表面を守るように魔法シールドを常時展開させるので何もしなくても三日で疑似魔石は蒸発してしまうかもしれない。それでもこのぬいぐるみ、名前は猫君1号が自分の日常に刺激を与えてくれると信じていた。


 日が沈み夜になるのを待つ。窓の外には誰もいないことを確認するとぬいぐるみを放り投げる。自分はベットに横になり千里眼とマリオネットを発動させる。千里眼の視点を猫君1号に合わせる。そしてマリオネットで歩かせるとまるでゲームだ。


 リアルワールドをゲーム感覚で楽しめる。ある程度操作に慣れるため庭をでて町の外まで移動する。視点は自由に変えられるので上空からの視点に変えれば周囲を見渡すことができるのもいい。人と出会わないようにするのにも役に立つ。


 町を出ると、はぐれゴブリンを見つけたので戦闘を試してみる。さすがのゴブリンも見たことない物体に驚き、じりじりと後ずさりしながら警戒している。

 逃げられては面倒なので一気に近づき殴りかかる。中身は綿だが、表面はシールドで強化されているおかげで硬い拳になるので1発OKとなった。

 ゴブリンをそのままにもしておけないので空間収納を試しに使ったら問題なくしまえたので猫君1号を十分に運用をしていけると確信が持てた。


 後は家の裏口まで移動させ、そこからは自分で回収に向かうだけ。家の中で大きなぬいぐるみを持ち歩く姿を侍女に見られたが、


「あら可愛いですね」


とか


「お気に入りですか?」


などと言われるだけで怪しまれていない事から十分な成果だと言えるかもしれない。


「これで私も操りきぐるみ士として冒険者デビューだわ!」


 次の日は昼には習い事が終わりそれからは自由時間となったので、庭で読書と見せかけ視点は猫君1号をメインとしていた。

 昼の町をきぐるみが歩いていると、大人たちからは妙な視線を向けられ、こども達は好奇心を向け寄ってくる。こどもが寄ってきたときだけはシールドを一時的に解除してふわふわのぬいぐるみで包んであげるのだ。


「おい、なんか喋れよ」


「誰が入ってるんだ?出て来いよ」


「チャック無いな。破ればいいのか」


 中には、乱暴な子供もいるが、そんな子にはちょっとお仕置きをしてきぐるみ士の力を分からせるしかない。

 ただ喋る事ができたら便利だなとは思ったので今後改善を使用と思う。


 そんな子供達との和気あいあいのふれ合いをしていたらいつしかガキ大将的ポジションへと昇格していた。そんなある日1人の女の子が駆け寄ってくる。泣いている所みると虐められたのかと想像していたが今回は違っていた


「ねこたん、助けて!バルが森へ入ったまま帰って来ないの!」


 喋れないので空中に魔法で文字を書く。まるでチャットみたいだが慣れれば十分コミュケーションが取れる。


 〔何で森行ったの?〕


「私の妹が熱出しちゃって、それで薬草とってくるっていって」


 〔衛兵には言った?〕


「どうせ、私じゃ相手にしてもらえないよ」


 ここでは孤児の扱いは、あまり良いとは言えない。子供同士で身を寄せ合い何とか暮らしているといってもいい。本当に小さい幼児などは教会に保護される事もあるが、そこも資金や人手の問題が山積みだ。

 そんな邪魔者扱いされている孤児をわざわざ探す衛兵などいるはずがない。


 〔わかった。任せて。必ず見つけるよ。向かった森は分かるかな?〕


「分からない」


 〔何か持って行ったりしてた?〕


「薬草入れる用の皮の袋持ってったよ」


 〔ここを出てからどれくらい経つかな〕


「朝出て行ったきり……」


 〔ありがとう、もう大丈夫だから〕


「ねこたん!お願い!」


 女の子を抱き、頭を撫で落ち着かせる。それと同時に千里眼の視界を広げる。


 東の森が一番近くにあったので重点的に見通すとバルがせっせと袋に薬草を入れている姿を捉える事ができた。


 〔見つけた〕


「え?もう?」


 〔東の森にいた。これから迎えに行ってくるよ。家で待ってて。それと妹にはこれで何か栄養のあるものを買ってあげて〕


「いいの?ありがと」


 〔それじゃ行ってくるね〕


 銀貨を1枚渡し、走り出す。自由に動けるこの猫君1号の真価は人では到底出せないスピードでも難なく超えることができ、普通のぬいぐるみでは耐えられない衝撃でもシールドで強化されたボディは跳躍と着地の衝撃に見事に耐え抜いた。


 歩いて3時間程度の距離なら1分もあれば到着する。

 だがバルを発見した時、バルはピカピカ光るスライムと戦闘になっていた。


「なんだこいつ。殴っても殴っても効いてないじゃんかよ。いい加減にしろよ」


 随分と好戦的なスライムを相手にしているらしく、執拗に追いかけ回されているみたいだ。

 試しに一発殴ってみるが衝撃を完全に吸収されポヨンと弾んだだけだった。


「ねこ!お前いつの間に来たんだ」


 〔こいつ倒すから離れて〕


「殴っても殴ってもダメなんだ」


 〔分かってる〕


 次は魔法、水魔法で閉じ込めようとするがスルリの抜け出してくる。


「おい!何やってんだよ」


 〔真面目にやってるって〕


 更に風魔法で切り裂いてみようとするが打ち消されているようでこちらも効果が無かった。

 魔法への完全耐性の可能性があると見て時空魔法に変更する。

 右手に魔力を集中させ拳を振り上げ飛び込んでくるタイミングで一気に振り下ろす。当たる直前に魔法を発動させ拳周辺の時間と空間を圧縮させ時空間ごと胴体をネジ切ってやろうと思ったのだが、ピカピカスライムが程よい緩衝材になってしまい、大きくバウンドしただけになってしまった。このままだと打つ手がない。逃げようかと考えていたとき聞き覚えのある声がこだまする。


「ゼーーーーーンチャーーーーーン。来ーーーーーーたよーーーーーー!!」


 その声に動きを止めるピカピカスライム。声の主がこちらに近づくのが分かった。


「ゼンちゃんここにいたのか。で、あなたとそのぬいぐるみは何の用?」


(やっぱりオリジナルのエーナだった)


 バレると厄介そうだったのでバルを抱え急いで逃げる。


「ちょっと待ちなさいよーーって、逃げ足速っ!」


 唖然としているうちに見えなくなってしまった。


 ⦅あの男がなぁ、薬草とっちまったんだ⦆


「あーそーだったのか。仕方ないね」


 ⦅あとあの変な奴。めっちゃくちゃ強かったぞぉ⦆


「あのぬいぐるみが?ほんとだゼンちゃん体力減ってるじゃん。何されたの?」


 ⦅殴られた?だけなんだけんど……。おら、またあいつと戦ってみてぇ⦆


「魔法・物理完全耐性を無視する拳か、確かに気になるわね。でも無理しないでね。すぐ回復してあげるから」


 ⦅おう!⦆



 一気に町まで逃げてきた。抱えたバルはスピードに目を回し一瞬気を失っていたのでふらふらしている。女の子の家は知っている。家と言っても、橋の下に作ったテントのような所だ。


猫君1号が中に入ると狭くなってしまうので声をかけて外で待っていると中から女の子が出てきてくれた。


「バル!!!」


「ごめん薬草取ってたら迷った」


「無事で良かった。ねこたんに私がお願いしたの」

「そう、みたいだな。おかげで助かったよ」


 〔無事でよかった〕


「ありがとね、ねこたん」


 妹の具合は良くなっているようで安心した。薬草もあるのでなんとかなるだろう。今日はやたらと魔力を使ってしまったので早々と家に戻し、裏口に置いて回収しようと思ったのだが。

 裏口を開けるとそこにはオリジナルのエーナが猫君1号を抱えて待っていた。


「ただいまー」


「あ、お、おかえり…」

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