似たような事はセバステと出会った時にもあった。セバステの後ろから出てきた3人のメイド達である。
どのメイドも目鼻立ちが整っていてお人形のような雰囲気。
こちらのメイドも雰囲気が同じ感じがしたので念のため鑑定してみると
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マトン 疑似生命体 万能メイド
疑似生命生成スキル 使用者:セバステ・カガバン
LV50 HP722 MP290
STR69 VIT34 MND74
SPD21 DEX13 INT100 LUK -20
スキル 影渡りA 料理上手C 暗殺の心得C 隠蔽D 隠密D 体術の心得E 剣術の心得E
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疑似生命体というモノをこちらの世界にきて初めて見た。最初にあった3人のメイドも疑似生命体ということかもしれない。
スキルによる生命体ということは使用者の意思で突然現れることができるのだろうか、探索にかからず近寄れてしまうのは素直に驚いたし、危険だとも感じた。
「少々ご休憩なさいますか?」
「……あ、はい」
「お部屋までご案内いたします。こちらへ……何か気になりますか?」
言葉も立ち振る舞いも表情も人そのもの。
鑑定していて疑似生命体と分かっていても違和感を感じさせないほどだ。
「あ、その普通だなと思いまして」
「普通、でございますか?」
「黙っていたら人間って思われちゃいますよね?」
その瞬間、ハッと慌てた表情になるマトン。
「申し訳ございません。何か至らない点がございましたでしょうか」
「いえいえ、そんな事は何一つありません。むしろ出来過ぎているというか」
「では、どうして人ではないと思われたのでしょうか?」
もしかしたらマトンの隠蔽突破して秘密にしておきたいことに触れてしまった感じだろうか、ちょっと気まずくなってしまう。
「あ、その、気配無く突然後ろから現れた気がして、何かダンジョンの罠人形見たいな感じで、その、勘だったのですか、逆になんかごめんなさい」
ダンジョンにはまだ行ったことすらないのに、言い訳しようと頭を下げ必死に取り繕った。
「頭をお上げください。私がまだ人としての振る舞いが至らなかっただけのことです。ただこのことは御内密にお願い申し上げます」
「はい、秘密にします」
「しかし、冒険者の勘というものは恐ろしいですね。それともケーナ様が特別なのでしょうか?どちらにせよ、ハイド様お会いになるぐらいですから特別なのは間違いありませんね」
「そんなことないですよ」
「御謙遜なさらなくてもよろしいかと。では、お部屋に参りましょう」
客室まで案内される中、マトンの背中の空いたメイド服から露出する艶やか肌を見つめてふと思う。
人の姿をして、人の言葉を喋り、人の心を持つ、人でない物。それでも秘密の約束をし、お互いに気を使い合う。
ちゃんとした人間であったはずのゲスな野郎どもは、躊躇なく首を消したけど、ゴキブリに殺虫スプレーをかけるのと大差ない。
対して人でない、ましてや虫ですらないマトンには気を使っている。
これが自分なりの理性というものなのだろうか少々考えてしまった。
「ケーナ様、夕飯はいかがいたしますか?」
「え、いいのですか?」
「せっかくいらっしゃったのですから是非とも。ハイド様とご一緒になさいますか?」
「いやいやいや、恐れ多いと言いますか、そこまではちょっと」
「かしこまりました。こちらにお運びいたしますのでお待ちください」
「ありがとうございます」
マトンが部屋を出て行くと自然とソファに座り項垂れた。
王位継承権の獲得上手くいくかなとか。
また結婚の話されたらどうしようかなとか。
疑似生命体ってほとんど生命そのものだよなとか。
グルグル頭の中を巡っていた。
多少心配もしたのだが、出された夕食の美しさに度肝を抜かれ全て吹っ飛んでいた。
猫目亭の料理ももちろん美味いが、美しさでは比較にならない。
出された料理に一品ずつ名前も付いていて、その名前も長かった。
「こちら自家製モンサンのマリエ 大地の恵み赤魔石の輝き仕立て 日の出前取れたてのフルーク地方産グリーンリーフと黒玉胡椒を添えて でございます」
器の形、食材の配置、ソースや香辛料、全体の彩に至るまで繊細さが伝わってくる
「おいしい!」
と言葉が漏れるたび料理を運んできてくれたマトンがほほ笑んでいた。
デザートまできっちり堪能した後、今後の予定について話してくれた。
王位継承は5日後の昼に執り行われるので、それまでにここからルクセンブルク国に移動しなければならないが、竜車を手配してくれているので心配はないとの事。
移動は2日程、途中小さな町によって一泊するが十分に間に合う。
到着するまでマトンが護衛をしてくれる。護衛という名の監視だろうなと思った。
マトンの強さは鑑定眼でLV50だと知っている。
冒険者なら成りたての白銀級と言った感じだ。ただ戦闘に特化したスキルは持っていないようなので肉弾戦は不向きかもしれない。それでも護衛程度なら過剰戦力だ。
だが監視役としても実際には足りていない。本気で逃げようと思えばいつでも逃げれるのだから。
しかし、その日は図々しくも風呂まで入り1泊させてもらった。
マトンに背中も流してもらった。
擬似生命体ってどーなってるのか凄く気になってたし。
その方が護衛兼監視もやりやすいと思って。
ただベットに横になるまで、マトンがずーっと頭の上で寝ていたゼンちゃんを珍しい髪飾りだと思っていたのには笑ってしまった。
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