子供とはいえ勇者を甘く見過ぎていたのか、まさかの事態に焦る。スキルの中でもカテゴリー6に属するアブソーブをレジストするとなると特別な強さを持つスキルの発動になる。
身の危険を感じたので、DEBUG MASTERを使用しとりあえず”無敵化”を発動。
「おかあさん。お願い、目を開けて!!!」
直ぐには何も行らなかった。
諦めたのか、失敗してしまったのかまた泣き始めてしまうノルク。
ただ警告は消えていないのでスキルの発動には成功していたようだ。
泣き叫ぶ声が止まり、空気の流れすら止まった。自分以外の誰かが時を止める。
「はぁーまったくまったく。こーゆーことは通る道なんだから我慢してくれよー」
現れたのはこの異世界に来るときにお世話になった死神のテトに似た感じの子だ。こちらも同じくピンクのパーカーを着ている。
たぶん死神で間違いないだろう。
他人の収納空間という特殊な場所なのにも関わらず、時空を超越し、因果を捻じ曲げ、死神をも引きずり出す力。
勇者の固有スキル起死回生だ。
そして死神の手のひらにはふわふわと光り輝く魂。
それをそっと母親の体に戻していく。
「ねぇ、きみ。ぼくのこと見えてるよね?声もきこえてるよね?」
その死神の言葉は勇者にではなくこちらに向けての言葉だった。
「はい。見えてますし、聞こえてます」
「あのさー。このちびっこに言っておいてくれない?次同じことやったら君の魂持ってくよって。だからちょこちょこ使わないでねって」
「で、でも、どうやって?」
「ちょちょいと封印とか制限かけたりとかできるでしょ?」
「え?」
「今、こうやってキミとボクが話できるのって異常なことなんだよ。神の影響を受けてないしさ、時止まってるのに普通に動いてるしさ。それができるのに、これしきの事できないとか、ボクのことおちょくってるの?」
なんかスミマセン。
ナナスキル無敵化のおかげと言えばいいのか。元々神から貰ったスキルだから神の影響も受けないと言うことなのか。
「なんとかします」
「よろしくね。ほんと頼むよ。こっちだって暇じゃないんだからさ。あ、あと、キミの事は見なかったことにするから。これ以上事態をややこしくしたくないからさ」
「わかりました」
「じゃあっねぇーー」
ぱっと消えて時間の流れが戻る。
母親の状態が死から正常に変化している。これぞ神の奇跡というものなのか。
結構文句言いながらの奇跡だったように思えるけど。
ゆっくり目を開けた母親は泣き続ける勇者の頭をそっと撫でる。
母親の胸に顔をうずめて泣いていた勇者もその優しい手に気づいた。
「ふぁ、お母……さん」
「ノルク……良かった……無事、だったのね」
「お母さん! 生きてる! お母さん!」
「ノルク!」
母親がギュッと子供を抱きしめ、共に生きている喜びを分ちあう。
もうこっちまで嬉しくなって泣きそうになっていた。
奇跡の再会。幸せな時間。
ホント、これで、めでたしめでたしにしたい。
だが、そうも言ってられないので、まず死神との約束から進めていく。
とりあえず2人を再び時間停止。
ノルクのステータスを鑑定眼で確認しつつマインドプロンプトを発動
起死回生のクールタイムを20年に変更した。
これで次発動するのは早くても20年後だ。
封印したり、削除したりしては勇者として成長できないかもしれないのでまた使える方向で考えた結果だ。
停止を解除してまずは自己紹介。その後、母親とノルクにどうして倒れていたのかを聞いてみた。
経緯としては生き残りの親子とほとんど一緒だった。
だがノルクの母親は魔人の姿を見ていた。全身が黒い魔人が3体もいたそうだ。
それに恐怖し、森へ逃げる途中で攻撃を受けてしまい気絶してしまったとのこと。
(気絶してそのまま死神にエスコートされてたんだけどね)
気がついた時はここにいたということだ。
「ケーナさんには助けていただきありがとうございます」
「いえいえいホント気にしないで。ただ問題が……村がめちゃくちゃになって、お二人を暫くここで匿えないかと思ってるんですけど」
「それはこちらとしては願ってもない事です。お邪魔でなければよろしくお願いします」
「ここにいる間は、あの家自由に使ってもらって。元々宿屋なので部屋はいくつかあるのでご心配なく。分からないことがあればタイムって子か、私のそっくりさんに聞けば教えてくれるので大丈夫なはず」
ノルクの取り扱いはさっさとハイドを王にさせて、押し付けようと思う。
私が面倒見つづけるのはちょっと荷が重い。
ただ、今回の魔人の襲撃が勇者を狙ったものだとしたら、勇者が生き残ったのがバレた場合また襲い掛かってくるかもしれないということ。
預けた先がまた惨劇になってしまうかもしれない。
(考え過ぎかな……)
それでも念のため勇者であることは伝えようと思う。
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