年に一度の大きなイベント。アヤフローラ神生誕祭。
襲撃から日はあまり経っていないのだが、町の人が元気を取り戻すため、少しでも心が安らげばという意見が多くあったため、ここカスケードの町でも行われることとなった。
とはいえ、貴族令嬢であるコピーエーナが簡単に外に出してもらえる訳でもなく。寧ろ危険だからと言われ外出は厳禁。
しかし、そんな事態は既に織り込み済み。改良に改良を重ねたもふもふ猫君2号で今日もウキウキしながらお屋敷を抜け出すのであった。
渾身の改良ポイントとしては、魔力を通して思念を音声に変換することで声を出せるようになったことだ。世界に眠る古の魔導書を千里眼で読み漁った結果それが可能になったのだ。
おまけでたくさんの魔法も覚えることができたのが良かったが、おいそれと使えるようなものは1つも無かった。
「捕まえた」
急に進まなくなるもふもふ猫君2号。
「なにこれ! ミストこのもふもふ好き」
普段人の通らない見晴らしの良い道だったので探索などのスキルを発動していなかった。それが仇となり背中から抱つかれる。隙を突かれて焦ったが、振り向くと謎の少女がもふもふに顔を埋めて動かないでいる。
「あなたはどこの子かしら? 初めましてでしょうか?」
「ミストはミスト、誇り高き名前。このモフモフは正義ー」
「気に入ってくれて嬉しいわ。この名前はもふもふ猫君2号。町の子達は”ねこたん”とか”猫君”と呼んでくれてるの」
「わかったわ。ミストもねこたんと呼ぶわ」
後から2人も追いつき、軽く自己紹介をした。とりあえず3人も町に行くとのことだったので途中まで一緒に行くことに。
ミストとは友達になれたのだが、ノマギとレインはこちらを警戒しているようで距離を置かれてしまった。
ミストは小さい時から魔法が使えるとの事で色々自慢してもらった。身なりがしっかりしていて高級そうなローブを羽織っていたので、それとなく聞いてみたのだ。
「ねこたんは魔法使える?」
「使えますよ。私も色々使えます。この声を出す方法も実は魔法なんですよ」
「ミストの知らない魔法。今度教えて」
「ええ、もちろん」
「ミストもとっておきの魔法教えてあげるね」
魔法の交換、どちらも得しかない。攻撃系にしても防御系にしても特殊系にしても1つでも増えれば応用しだいで何通りにも使い道が出てくるのだから。
少し離れた所からでもお祭りの雰囲気が伝わってくる。浮かれる人達の声、楽器の音、まだ日が傾き始めたころだというのに乾杯の音頭など。エーナが守った町ちょっと誇りに思えた。
町に入るといつもの町の子供たちが待っていてくれた。ここで別れることとなったのだが、ミストが少々駄々をこねていたのでノマギが必死に抑えていた。
せめて何か思い出になればと思い空間収納から小さなもふもふ猫君2号を取り出す。本体を作るとき、見本として作ったものだ。
中に魔石を忍ばせてあり、特殊な古の魔術式加えることにより魔力をかえして共鳴する魔石があれば声を届け合う事ができる通話魔石といった品物だ。
試作段階で距離に問題があるが町にいる間なら大丈夫だろうと思うので使い方を簡単に説明してミストにあげたのだ。
「これ可愛いだけじゃないとても凄い! またミストの知らない魔法」
「どちらかと言うと魔道具かしら。この町にいる間こまったことがあったら教えてね」
「困ってなくても使う」
そんなこんなで別れるととなり。私は町の子達と見回り兼お祭り盛り上げ隊として楽しむことにしたのだった。
何とか得体のしれない者と別れることができたのだが、ミストが町のお祭り騒ぎに乗じ始めていた。
「レイン、見て! これ可愛い」
「得体の知れない奴から得体のしれない物貰ってんじゃないないわよ」
「これすごく可愛い!」
「可愛いのは分かってる。そうじゃないのその中身よ」
「中モフモフ」
「あなたね、その中魔石入ってるわよ」
「知ってる。そのおかげでねこたんとお話できる」
「何よそれ、魔道具なの?」
「ミスト様に万が一の事があってはなりませんのでノマギがお預かりさせていただきます」
「嫌! ミストが貰ったの!」
「しかし、どんな仕掛けが施されているか分かりません」
「仕掛けなんてない。ねこたんそんなことしない」
「ですが……」
「諦めなノノジ。私らが警戒しとけばいいだけだし。そもそも魔道具程度で傷なんか付けれれないよ」
「ノマギでございます。しかたありませんね」
「あ!」
2人の心配をよそにまた走り出すミスト。向かう先は何やら人だかりができていた。
本当はお祭りを楽しんでいる場合ではない。猫のきぐるみから聞いた話で、ここがカスケードの町だという事は分かっていた。ミストの調査の最終目的地でもありレインの目的地でもあった。
レインもミスト達と同様に空間の歪について調べようとしていたのだ。祭りの雰囲気のおかげで余所者が町を徘徊してても怪しまれない、絶好の機会でもあった。
しかし、ミストにとって調査よりも初めてのお祭りに興奮が抑えられていなかった。人だかりがあれば駆け寄り、首をツッコみ、わけの分からないものを買っていた。ミストにとって初めてのお祭りがワクワクしないわけがない。
そんな我儘をミストの過去を知る2人は少しぐらいはと見守っていた。
ミストはとある貴族の妾の子であり、母親はミストを育てることなく教会前に捨てて行った。
5歳のときに教会にある書物を全て暗記していることが分かり、天才の片鱗を見せる。あわてたシスターがステータス検査を受けさせ、高い魔力もある事が判明し7歳の時に特例を受け魔法学院に入学。
9歳で普通の魔導士の指導では足りなくなり、学院長が直々に教えると言う事態になった。
学院長が教えられる全ての事を3年で吸収し12歳で卒業。
国家魔導士への道へ進んだのだが、そこで待っていたのは妬みや僻み。
しかし、実力でねじ伏せ六大魔導士へと推されていったのである。ここでやっとレインなどの対等な相手と会うことが出来た。
毎日大人しく勉強することが当たり前で遊ぶことを知らないミストが、子供らしくはしゃぐ姿を2人は止められなかった。
「私は仕事じゃないしお酒でも飲もっかなー」
「ここらのお酒など高が知れています。大魔導士様ともあろう御方が安酒など」
「私はね全てのお酒を平等に愛すると決めているんだ。値段で愛は変わらないんだよオノジ君!」
「ノマギでござます。しかしそれだと、私はどうしたら……」
「君は仕事だろ? しっかり頑張んなさい。じゃ、ちょっと飲んでくるねー」
ミストの事を見ていないといけないノマジはグッと耐え。この仕事が終わったらいい酒を飲むと誓ったのである。
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