ドランとの食事の約束を守るべく、歩き出す。
しかし、通りの混み具合は先程よりも増えていて、中々前に進めない。
食の町なのでどこの店に入ってもハズレは無い。しかしノーザンにはドランに食べてほいものがあり、なんとかかき分けやっとこのとでたどり着いた。
暖簾には知らない国の文字。
「ドラン、こちらのお店になりますよ」
暖簾をくぐると
「らっしゃい!!」
勢いのいい挨拶にひゃっと驚くドラン。
「ドランは『ラーメン』を食べたことはあるりますか?」
「ない。でもわかるこの場所だけ一段と美味しい匂いに包まれてる。だから、らあめんは美味しい」
嗅覚も人より優れているのでドランには分かるようだ。
「ドランは何でもお見通しですね」
近寄ってくる店主が早速ドランに気づく。
「お、今日は可愛い子を連れてきて旦那も隅に置けないね~」
「こちらは私の護衛ですよ。注文はいつものラーメンを2つ大盛りでおねがいします」
「あいよ!スペシャルボア脂マックスラーメン大盛り2丁!!」
ドランは他の客が食べているラーメンをじっと観察していた。
「このラーメンという料理は異世界から伝わったものだと言われています。きっとドランもこのラーメンを気に入ってくれると思いますよ」
「うん」
観察はもう済んだようで、先程の集会についてドランが質問をしてきた。
「何故ドランが見た奴をエクリプスなんて呼ぶ?」
「人族の中で龍人族に勝てる者を挙げるとするなら、歴代の勇者の中でも最強と言われるエクリプスぐらいしかいないからではないでしょうか。各地で伝承が残っていたり、おとぎ話になっていたり、嘘や誇張された表現はあるでしょうがそれを抜きに考えてもそれだけ強い勇者だったそうですよ」
姿を消す前の偉業は魔王討伐だけでなく、地を割った、海を割ったなどの逸話はいくつもあり、中には不治の病を完治させたり死者を蘇生させたりなど神の様な行いをした話まであるのだ。
「エクリプスはドランの父親と1戦交えてる」
ドランのその一言に目を見開き驚くノーザン。
「それは知りませんでした!エクリプスが実際に龍人族と戦った話は興味深いですね。勝敗はどうなったのですか?」
「教えてくれなかった。ただ良い男だって」
「そうですか、まぁプライドもありますでしょうから。それにしても『良い男』と言われたのですね」
一瞬ノーザンが笑ったように見えた。
ドランは見逃さなったが、すぐにいつもの作り笑顔に戻ってしまった。
「父親はエクリプスと戦ったけど生きてる。でもドランがあの時見たあいつと戦ったら死ぬかもしれない」
「それは実際に戦ってみないことには……」
「戦わなくても分かる。1体1で必敗。時間稼ぎが少しでも出来れば及第点。でも、もしもの時は戦う」
覚悟を秘めたドランの拳にはぎゅっと力が入っていた。
「いいえ戦わなくて大丈夫ですよ。そうならないよう私がいますので。相手が知性ある者である以上感情があり、考えがあり、想いがあります。であるならばコレは私の仕事です。ドランはいつも通り私の後ろにいてください」
「うん」
力の抜けた手を見てホッとするノーザン。
ドランがただの護衛ではない、それはノーザンが一番良く理解していた。
命でさえ差し出す。その重さも理解していた。
「スペシャルボア脂マックスラーメン大盛り!お待ち!」
どん!とテーブルに置かれたラーメンからは脂と旨味の匂いが嗅覚を貫くように刺激してくる。
「さぁ、熱いうちに食べましょう。ドランは箸を使えますか?」
「知らない」
「ちょうどいい機会です。ここで教えておきますので、よく見ててくださいね」
ノーザンの箸使いを見て早速真似てみるものの流石に難しい。しかし、悪戦苦闘しながらも、美味しそうなラーメンを食べるためなら持ちゆるスキルを総動員させ箸の使い方を習得する。
こんなことでも物覚えが早いのは龍人族ならではだ。
数分も経たずにズルズルと麺をすすり始めるドラン。それを見て、たずねるノーザン。
「気に入っていただけましたか?」
口にいっぱいに麺を頬張っているドランは、うんうんと首を縦に振り答える。
「それは良かったです。気に入っていただいたお礼に私のチャーシューを1枚差し上げます」
またうんうんと答えるドラン。
お気に入りのラーメンを美味しそうに食べてくれる。それだけでもここに来た甲斐があったと感じられたのだった。
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