聖魔大金貨は国と国が支払いをする際に、金貨では量が多くなり持ち運びや偽造通貨の紛れ込みを防ぐため使用される特別な金貨である。
価値は1枚10億メルク、金貨10万枚分だ。
「お願いです。ミスト・キャティ魔導士、特別なジュースをお持ちしますのでその人形をこちらに」
「嫌よ。これはミストが貰ったものよ」
エクレールが使用した雷魔法を同じ魔力量の雷魔法で完全相殺しならがら断る。
瞬時に相手と同じ魔力量の魔法を使い相殺させるのは高度な技術なので、それを隙とみたノマギが空間魔法でミストの背後を取り捕まえようとするも、手は背中をすり抜けてしまった。
「幻影魔法!?」
「もう、ミストちゃんはこの部屋にいませんよ。わたしの授業をサボって逃げた時を思い出しますね」
この猫人形にそれだけの価値があると学園長に言わせたのであれば、それを国の厳重な金庫にでも入れておくのが当然なのだが、ミストの懐の方がそれ以上に安全なのかも知れないと納得するしかなかった。
「エクレール先生。ちょっと一言いいかしら?」
「はい、何でしょう学園長」
「あなた最近魔法使ってますか?先ほどの雷魔法は無詠唱にしてはちょっと時間がかかり過ぎてましたよ。あれではミストちゃんに魔力の流れを読まれて相殺されしまって当然です」
「はい……申し訳ありません」
「それとノマギさん? 所属はどちらなのかしら?」
「は、はい! 国家魔導士局、空間魔法管理科魔導士長でございます」
「立派な肩書をお持ちなのですから、空間転移の一瞬の隙を忘れてはダメですよ。そこで相手を見失っているようでは話になりません。使うタイミングは相手の魔力の流れを見て先手を打てる状態を作ってからです」
「は、はい……申し訳ありません」
2人とも普段は上の立場であるので自分の魔法に自信があったのかも知れない。
だが、ミストに手玉にとられ過信であったことに気づかされダメ出しまで食らってしまうとは思いもよらなかった。
ミストの家は国から支給されている。
一応有事の際には大きな国家戦力なるため確保しておく意味もある。
特別待遇にはなるが、実際は質素なものでミストにとってはただ寝る場所でしかなかった。
眠い目をこすりながら、苦手な報告書を書き上げ、今日もベットにダイブしたのだった。
「早く、ねこたんに会いたいな」
ギュッと猫人形を抱きしめたとき、無意識に魔力を流してしまい、中にある魔石を使用してしまったのだ。
『もしもーし、あれ? 聞えてないかな? もしもーーーし』
猫人形から声がしていることに気づく。
「ねこたんの声だ! ねこたん!!」
『ミストの声だぁ。どうしたの? もしかして近くにいる?』
「ミストは今お家にいるよ。ねこたんは?」
『私もお家にいるけど、ミストのお家ってカスケードの町じゃないよね?』
「ミストのお家はインテルシア魔導国国防魔導特区特別新設居住3番塔にあるよ」
『あれれーおかしいぞ。ここからだと距離的に無理だと思うのだけど』
「ミストも驚いたわ。カスケードの町でしか使えないと言っていたのでここからじゃ無理だと思っていたの」
『まぁ、適当に作った試作機だからちゃんと性能を確かめてなかったのよね。ハハハ』
「それでもいい。ミストはねこたんとお話できて嬉しい」
『私もまたミストの声が聞けて嬉しいよ』
「今日、オババにこの人形を自慢したの。そしたら凄く褒めていたわ」
『そ、そう? そんな人に自慢できるほど(の人形)じゃないよー』
「そんなことないわ、同じ物(魔石)を作るのに10年かかるとも言っていたもの」
『おおげさだよ。ミストだってこれくらいの(人形)ならすぐ作れるようになるわ』
「(魔石の作り方)教えてくれるの?」
『(この程度の人形なら)勿論いいよ!』
「じゃ今度遊びに来てよ」
『たぶん行けると思う。いつにしようか』
「えーーっとね。ミストのお休みが明後日だから」
『明後日ね。たぶん行けると思う』
「2日でカスケードからここまで来れるの?」
『それくらいの距離なら問題無いよ。今使ってる魔法石って元々は私の魔力を凝縮させて作ってるのよ。その魔力の残滓をたどれば空間魔法で――』
「え、え? これモンスターから取った魔石とは違うものなの?」
『そうだよ。私が作ったの』
「魔石の生成ができるなんて初めてしったわ。これも魔法なの?」
『そうね、スキルで作ってるのだけど、魔法でもできなくはないかも』
「ミストはスキルダメダメだから魔法での作り方教えてほしい」
『ミストは魔法好きだもんね。前会った時、魔法の交換しようって約束したものね』
「それ覚えてる。ミストもオリジナルの魔法あるよ。すっごいの」
『期待してるね』
「それとね、えっとね――」
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距離的な試験をしていなかった猫人形通信機は、予想を遥かに超える性能をみせ、エーナとミストの仲と夜更かしを加速させていったのだった。
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