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盗まれた召喚魔法結晶③

公開日時: 2022年3月11日(金) 18:18
文字数:3,367

「勤務中に居眠りねー。で、他には?」


「もふ、おあいあせん(もう、ございません)」


「取りあえず手紙を私にも見せて頂戴」


「はひ(はい)」


 首から上が真っ赤に腫れ上がり痛々しくもプクプフにふくらんだせいで、まともに喋ることができないでいた。


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 カスケード領内のカエデ街道にて


 重要物資護送の竜車が賊に襲われたとの連絡あり


 直ちに緊急依頼を掲示


 周囲の捜索を行い、賊の殲滅すべし


 全ての木箱でカジノブルースカイの模様が印字されており


 数は計50箱


 木箱の模様の確認のみで内容物の確認不要


 荷物発見後速やかに回収・ギルド金庫内で厳重に保管


 この件については関わった者全てに緘口令を発令すべし


 なお今回に限り、緊急依頼の報酬の70%を本部が負担することとする


 荷物内容一覧


 金貨約48000枚

 レア級召喚魔法結晶 47個

 エピック級召喚魔法結晶 2個

 ミシクル級召喚魔法結晶 1個


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 手紙を見たマナの顔が青ざめる。


「これだけの品、偶然というより狙ったとしか思えない」


「ふぉうおもひまう(そう思います)」


「それにこれだけの品よ。運ぶのに腕利きの護衛がいないわけがない」


「ふぉうおもひまう(そう思います)」


「召喚魔法結晶の詳細は?」


「ほこまでは、わかひまへん(そこまでは、わかりません)」


「いつまでふざけた喋り方してるのよ!」


 ピシャン!!!!!


 理不尽だと思いつつも、引き出しからハイポーションを取り出し腫れを治す。


「現状はどうなってるの?」


「それが、その奪われたと思われる荷物が、昼頃にウチのギルドに届いてるんだよ」


「え?」


「対応した受付嬢に聞いたんだけど50個の木箱を入口付近に積んでもらったそうだ」


「今は?」


「金庫で保管してる」


「荷物は無事なのね。よかったわー、エピック級の召喚魔石なんか町で使われたらどれだけの被害が出ていたか想像もしたくないわ」


「でもね」


「やだ、聞きたくない」


「2箱足りない」


「聞きたくないって言ったのに。……もーそれ盗まれてるか、元から48個だったかじゃない」


「あなたがちゃんと仕事してれば最悪の事態は防げたかもしれないのに」


「申し開きの言葉もございません。あとね、箱を開けられないから、何が足りてないのかも把握できていない……。金貨なら後でどうにでもなるんだけど」


「取り合えず、集められるだけ人集めて緊急依頼よ」


「一応もう緊急は出してる。でも人が集まらないし、緘口令あるから町中で大っぴらにはできない」


「もう、どうしたらいいの……」


 今できることを最大限やっている。

 それでもどこか足りてない感がマナを不安に駆り立てていた。



「緊急!緊急!」


 ギルドに駆け込んできた1人の冒険者に周りの目が集まる。


「こちらで対応します!!どうされましたか?」


「町の南に特級モンスター、ブラックベヒーモス2体を確認。大至急白銀以上を集めてください」


 ブラックベヒーモスの名前が出た瞬間、ロビーにたむろっていたの冒険者達にも緊張が走る。

 ブラックベヒーモスは全身が筋肉の鎧で覆われた巨体で、2足歩行も可能な強靭な四肢と太い尾持ち、頭には大きな角を2本ある獰猛なモンスターだ。大きい個体だと体長が10mを超えるものもいる。

 受付嬢の1人はギルマスへ伝達に走り、他の受付嬢達もカスケードを拠点とする白銀パーティーへの要請を走らせていた。

 事情を知ったギルマスとマナは直ぐに住民の避難誘導の指示をだし、立ち向かえる勇敢な冒険者を集ってはみたが残念ながらここにはいなかった。


「まさか……召喚魔法結晶が使われたの……?」


「まだそうと決まったわけじゃない、少しでも被害を食い止めないと」


 2体という数が、リストにあったエピック級召喚魔法結晶と同じ数と言うことから推測した。そして召喚魔法結晶はこれだけじゃない。最悪のシナリオも視野に入れないといけなくなってきた。


 2体のブラックベヒーモスが並ぶ姿は人々に絶望を与え、猛る雄叫びは人々の悲鳴すら掻き消した。


 盗んだもう1箱をウキウキで開けようとしていた2人組の冒険者も外の状況に気づき、部屋の窓から自分たちの方に向かってくるブラックベヒーモスを注視していのだった。


「あんなのが、どうして町中にいるんだ?」


「やべっすね、町がぐちゃぐちゃだ」


「ここも安全じゃないな、早く逃げろって猫娘に言って来い」


「兄貴はどうするんです?」


「ちょっと試し切りだ」


「あいつ倒したら昇格できるっすかね?」


「分からんが、高くは売れそうだな」


「そうっすね!」


 1人は避難誘導、もう1人は窓から飛び出しブラックベヒーモスに立ち向かっていった。


「試し切りには持って来いだ。20万メルクした刀の切れ味存分に味わわせてやる」


 建物の屋根をつたい、ブラックベヒーモスに近づいていく。

 あと数メートルで間合いといったところで、ブラックベヒーモスの鋭い爪のが振りかぶってきた。

 それを受け流し、肉質のやわらかい部位へ一太刀。

 が、相手も察したのか太刀筋をズラされ浅くなってしまう。


「はーやってくれるな。その腕切り落とすつもりで切ったが、でかい図体な割には器用じゃねーか。次行くぞぉ」


 先ほどより速い踏み込み。ブラックベヒーモスは男を完全に見失い背後を取られていた。


【身体強化・脚力強化・心眼】


「剣技・霞返し」


 一太刀の間に2つの斬撃を重ね合わせる高等剣技。時間魔法を使用せず剣技のみで時間を遅らせ太刀の威力と剣速を上げている。


 ブラックベヒーモスが気づいて、振り向こうとした時は既に刀は鞘の中。

 真横真っ二つに切られた上部胴体だけがズルリと反転し後ろを向くが、もう半分は前を向いたまま。

 激しい唸り声も切れ切れになり、


 ズドオオオオン!!


 と真っ二つになった体は音を上げて倒れ、息絶えたのだった。それを見ていた住人たちから歓声があがり、もう一体も倒してくれとの声も上がる。


「やってやりたいのはやまやまなんだが……」


 もう一体がこっちに向かってくるのが分かり、構えてはみたものの、刀が既に限界に達していた。

 高等剣技に耐えることのできる刀でなければ一太刀で刃がこぼれ、使い物にならなくなってしまう。


「あーーーにーーーきーーー!!」


「おう!一体は終わった」


「あっちもやっちゃうすかー?」


「もう刀がボロボロだ時間稼ぎもできない」


「俺がいっくす、多分大丈夫っす」


 そういうと後から来た男も屋根の上まで飛び上がり、ブラックベヒーモスと対峙する。


「おーー凄い勢いっすねーー」


「意外と賢いぞ。先手を取れ」


「了解っす!」


【エネルギー変換、身体強化、鉄拳、剛腕、金剛体】


「っしゃ!」


 気合を入れると全身から蒸気が湧き出て肌が赤くなり体温が上がっている。

 襲い掛かるブラックベヒーモスの懐に潜り、振り下ろされた腕をかわして膝に拳をねじり込む。鈍く破壊される音が響き、片足が崩れ体制が起き上がり一瞬怯んだ。

 その隙を逃すはずもなく脇腹めがけ気の入った拳を入れる。

 破裂音と共にくの字に曲がった胴体。一振りでブラックベヒーモスが浮くほどの威力だ。

 さらに体勢は崩れ四つん這い状態。

 頭が垂れ、ご丁寧にも角を突き出してくれていたので、両手でつかみ首からねじ切った。

 体は完全に崩れ、ちぎれた頭を掲げると


「とったどーーーーー!!!」


 噴出した鮮血を浴びながらの勝どきをあけたのだが、あまりの返り血で、半分は歓声が半分は悲鳴が沸き起こった。


「おい、他の奴が来る前に角と牙と目は取っておけ」


「おうっす!!」


 とりあえず決着を付けたところに、ギルドの回し者がやってきたのだ。


「君たちが倒したのか!?」


「まぁそうだが」


「2人で!?」


「正確には1対1づつだが」


「見事なもんだな白銀、いやそれ以上か!?」


「そんなんじゃねーよ。串刺しだ」


「これってよ。昇格の評価に入るっすか?」


「特級モンスターを2体、被害の拡大を防いだ十分な評価だと思うぞ。よくやってくれた。俺は報告ため一旦戻るが、後できちんと報告してくれ」


「期待してよさそうだな」


「やったっすね兄貴」


 そんな勝利の余韻にずっと浸っていたいと思うタイミングで、辺りが急に暗くなる。

 太陽そして空を覆い尽くす巨大な影が浮いていた。


「兄貴、あれは無理っす」


「バカいえ、刀が有っても、無理だわ」

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