「何かありましたかい?」
悲鳴に心配したのか、御者が小窓から声をかけてきてくれる。
「いえ、大丈夫です。気のせいでした……」
「ははは、それでしたらいいのですが。今日は珍しく平和でして、ボアっこ1匹見てんないんだな。この調子なら目的の村までもう少しだ」
「そうですか。ありがとうございます」
ペコペコとお礼をしているとグッと腕を引っ張られる。
「もう、ケーナ姉様は何て声をだしているのですか?」
「えーーっと、何かいた気がしたのだけど、見間違いだったかなぁ」
「驚かさないでくださいまし」
一番大きく叫んだのはテッテだし。
まさか勇者を拾うとは思っていなかった。
しかもまだ年齢は6歳の男の子。
本物の勇者を見たのは初めて。
勇者といえばガイドブックの最強の勇者トラーゼン・アルバトロスの紹介を読んだぐらいだ。
子どもでも「幸運の」と付くぐらいなのでステータスのLUK値が
異常ともいえるぐらい高い。
私が今582なので約2倍だ。運だけとはいえこんなに高いステータスを見るのも初めてだった。
(さすが勇者様だな)
厄介と言えば厄介だが、拾ってしまった以上むやみにリリースするわけにもいかない。
もう一人の方は母親で間違いないだろう。
子を守ったのか。何かでえぐられたような跡がある。そこからの出血が酷い。取りあえず鑑定してみるが勇者の母とはいえ凄いステータスと言うわけではなかった。
状態は死。
完全蘇生薬を使用すれば肉体の復元から魂の再構成までできるので母親復活となるが、魂体験をした身としては元の魂が既に死神に連れていかれた場合、あくまでコピー版の魂となってしまうのではないかと推測した。
そうだとしたら本当の母親なのか分からない。
賭けではあるがゼンちゃんにも使っている完全回復薬で蘇生を後で試みようと思った。
こちらであれば魂が肉体の中に残っていれば元の状態に戻すことができるからだ。
(保留だ保留!後でゆっくり考えよう。今ここに次期魔王と子ども勇者の顔を合わせさせる必要はない)
だが今は勇者も亡骸もとりあえず停止した空間に収納して置くことにした。
「どうなさいました? 難しい顔をしていますわよ」
「あ、いえ何でもないよ」
「何か隠しごとですわね!?先ほども様子が変でしたし言ってごらんなさい!」
「だから何も無いって」
「嘘つくの下手ですわね。姉妹になったのですから隠し事は無しですわよ」
「夫婦になったみたいな感じでいわないでよもー」
「まったく、わたしの魅了と色欲が効かないケーナはこうゆうとき面倒ですわね」
「そんなこと言ってたら理想の旦那なんて一生現れません」
「何て酷いことを……冗談でも言わないでくださいまし」
怒った顔も可愛かったが、そんなことは絶対に言わない。
勇者をここで出すわけにいかないので後回し、もうすぐ村につくとの事だし、村で美味しものでも探してみるのもいいかも知れない。
その後じっくり考えよう。
【魔人を補足しました】
【どうしますか?】
おっと、魔人はモンスターにならないのか。
千里で確かめようとしていると、猛スピードにこちらに飛んで近づいてくるのが分かる。
「竜車を一度止めてください!! 何かがこちらに向かってきます」
「とても嫌な気配ですわ」
こちらが止まったせいなのか、魔人も道の先で立って待っている。
一度降りて、話を聞きたい。
御者とヨシエを残し、三人で近づく。
真っ黒な羽、真っ黒な角、そして真っ黒な目。
亜人族とも一線を画すような見た目は恐怖をかきたてる。
「6j5o q@;q@ ]ok iy:@yt?」
「そんな古い言葉使わないでくださいまし、こいつ古の魔人ですわよ」
「gxj j64k]r/t up@bbie. hiit5Zw iy:@ys@ms 3cyw@e;f@ee>90ejd@y vz94ue iy:@yskf|2 at@:t@;qjd@y>6;qaf tuor@ slms@r 6;qak 2[oes@ cdw qjde」
「あなたにそんな事を言われる筋合いはございません!!」
テッテは怒っているので分かっているようだったが、私は全くもって聞き取れなかった。人族でも亜人族でも無い言葉は異世界言語Aをもってしても聞き取れないということなのか。
急いで異世界言語のスキルレベルをSSS+まで上げる。
「ホカノ ヤツラ ムラノ ニンゲンカ? キイテイル コタエナイ アヤシイ コロス」
片言に聞こえるが意味は分かる
「私達はオオイマキニドから来ました。この先の村に行く予定です」
「ムラニ イクノカ?」
「村に行きます」
「メンドウ ヤッパリ コロス」
そんな、直ぐにコロス、コロスで済ませないでほしい。もっと情報を引き出したかったが運悪く飛び掛かってきてしまった。
「シネ! ジャクシャドモ!!!」
魔人がどの程度の強さなのか先に調べておけばよかったと。粉々になった魔人を見て後悔していた。
両手に魔力をまとわせ無詠唱で魔法を使ってこようとしたので、全身を凍らせ動きを止めようとしたのだけど、凍らせた直後にマトンが鋭い蹴りを入れてしまったので、衝撃で砕けてしまったのだ。
「テッテに任せて懐柔して色々聞きだせばよかったね」
「嫌ですわ、あんな身分も力量の差も分からない古の魔人に魅了を使いたくないですわ」
「申し訳ありません。あの魔人の顔が受け付けなかったので、思わず蹴りを入れてしまいました。しかしケーナ様の魔法、初めて拝見いたしましたが、あんなに綺麗な魔力を見るのは初めてです」
「そうですわ! 魔力はとても純粋で綺麗でしたわ。まるで澄んだ水の様にキラキラと。こんなのを見せられたら、ますます魔力を合わせてみたくなりましたわ」
(隙あれば子供の話か)
「もう見せてあげない。魔法は使わない。これからはダガーしか使わない」
「そんなぁ。いくらなんでもあんまりですわ。これは、人族の男どもが胸や尻の大きな女体を見た時の感想みたいな物ですわ。いちいち気にしていたら魔族の中で生きていけません事よ」
「そんな発情してますみたいな台詞ますます聞きたくないよ」
魔力を合わせるってなんか想像と全然違う意味にもなりえることがわかったのでこの言葉は使わない様にしようと決めた。
「でも不思議ですわね。こんな場所に魔人がいるなんて」
テッテの疑問には私も思っていたこと。
先ほどの勇者とその母親。村から逃げてきたのだろうか?
「村に急ごう、何か分かるかもしれない」
竜車に戻り、先を急いでもらった。
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