丁度正午になると大聖堂の鐘が鳴る。
鐘が鳴りやむとまずは大司教が民衆の前に出てきて今回の経緯を話し始めた。
「これから、この度の経緯について話を始めるが、途中で口を挟む者は全て共犯者と見なし騎士に捕らえてもらう。その様なことがないよう、静かに聞いていただきたい。当然だが尋問中でも同様に願う」
この場にはブハッサが心配で、カスケードからの教徒達も駆けつけてはいたが、真実を叫んだところで捕らえらるだけだと分かっていたので、せめて見届けようと堪えていた。
大司教が話した経緯としては、
神に会ったと偽り、おこがましくも聖人を名乗った罪。
そして神から貰ったとされる偽の聖水で傷を治したように見せかけ、治療費として金を巻き上げた罪。
神への冒涜と詐欺の容疑ということになっていた。
これからその真偽を確認する為に、大聖堂という神の前で公開尋問を始めるというもの。
一段高くなっている舞台のような場所に椅子とテーブルが用意される。
まずはブハッサが現れ、椅子に座ると両手両足、腰、首を拘束さる。逃げられないようにするためだ。
大司教の経緯を鵜呑みにしている民衆は当然のように罵声を浴びせ、物を投げつける者もいた。
「静粛に! 気持ちは分かるが耐えていただきたい」
大司教の言葉に落ち着きを取り戻す者たち。
その後にリーフの姿が見えると、歓喜の声と拍手がたちまち沸き起こった。
リーフの手には天秤が1つ。
その天秤を掲げ話を始めた。
「この度は集まっていただきありがとうございます。尋問官を務めますリーフでございます。今手にあるこの天秤は真実と嘘を見抜く天秤の魔道具でございます。嘘の言葉は軽く、その者の天秤側が何もなくても上がるとされております」
そういってリーフは天秤をテーブルの中央に置くとブハッサと向かい合うように座るのだった。
「では早速始めていきましょう。質問してもよろしいでしょうか?」
「はい、答えられることは全てお答えいたします」
民衆の注目が集まる中、公開尋問は始まったのだ。
「まず、最初の質問です。女神と会ったというのは本当ですか?」
「はい、本当でございます」
これを嘘だと確信しているリーフは天秤が動くのを待つ。
しかし、天秤は動かない。
動くと思っていた民衆たちも微動だにしない天秤にザワつく。
初手から思惑が外れたが、その内ボロが出るだろうと様子を見ることにした。
「こちらの天秤は本物の様で安心しました」
「勝手な発言はやめていただきたい。質問を続けますよ。女神とは最初にどこでお会いになりましたか?」
「どこなのかは存じておりません。女神様の元へと連れていかれました。そこで会ったのが最初になります」
「女神はどのような姿をしていましたか?」
「女神様は世を忍ぶ仮の姿でお会いしてくださいました。そのためここで詳しくは申し上げることができません」
やはり動かない天秤。天秤自体が壊れているのではともリーフは思い始めていた。
「何故その者が女神様だと分かったのですか?」
「私では到底想像の付かない力を見せつけられました。魔導士や結界士達が扱う空間魔法では比較にならないほどの大きな亜空間を作り出すのは、神の御業というほか説明がつきません。地平線の先まで何もないのですから、この世界とは別の世界といってもいいかもしれません。それとも、リーフ猊下はこれと同等の亜空間を作り出すのは、人にも可能だとお思いですか?」
動かない天秤にイライラし始めるリーフ。
実際はこの魔道具が真実を知っているわけでも、嘘を見抜くわけでもない。
発する言葉に迷いや疑問が多いと動く仕組みになっている。なので間違っていたとしても自信を持っている発言には反応できないのだ。
ただその事を知るのは、この魔道具を作った魔術士だけ。
今なお使い方を正しく理解されずに使われ続けているのだ。
このままだと、ブハッサを聖人であることの証明になりかねないと思い次の手にでた。
「次の質問です。こちらに見覚えはありますか?」
取り出したのは没収した瓶だ。
「はい。女神様から頂いた聖水の入っていた瓶です」
「この瓶の中身は聖水なのですね」
「はい。聖水が入っておりました」
中身はただの水を入れてある。
今度はリーフの思惑通り、天秤が傾き始めた。ブハッサの方が上がり、嘘をついたように見える形になってしまった。
「おっと天秤が傾きましたが、今の発言は嘘なのではないですか?」
「……訂正をよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「神は瓶を渡すとき ”ポーションの瓶” と仰っておりまた。ただ、傷や病、欠損部位までもを瞬時に治すポーションなど聞いたことがありませんでしたので、聖水と勝手に呼ばせていただきました。なので正確にはポーションなのかもしれません」
ブハッサを見守る者たちは気が気では無かった。天秤が傾いたままでは詐欺師として成立してしまうからだ。それでも見届けるしかできなかった。
民衆たちはやはり詐欺師だったかと話し始めている。
「この中身はポーションなのですね?」
返事をしようとしたとき、瓶をよく見てみると、空だった瓶に僅かながら液体が入っているのが分かった。
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