樹海に落下した火球は、地面をえぐり木々を同心円状になぎ倒していく。
半径が数百メートルはあるクレーターのようになっていた。
それが3つ。
落下の後、音と衝撃波が魔法障壁を貫いて届いてきた。
鼓膜を破るような破裂音に驚く軍人達。オリミラは目を輝かせている。
「やはり、本当の次期魔王だったか」
「これが証明する方法だったのですか?」
「発動はおまけだ。魔族とかかわりがあれば何の言葉が分かると思ったのだ。まさか本当に発動するとは思っていなかったが。因みに意味までわかるか?」
「単語の羅列だけだから意味まではちょっと……」
(はぁ、呆れた)
おまけのせいで気を失いかけたこっちの身にもなって欲しい。
「私の祖父は、トラーゼン・アルバトロス。この国最強の勇者だからな。その祖父が魔王から教えてもらった ”天の火” の詠唱だそうだ。祖父でも発動出来なかったのにまさかケーナが使えるとはな。ついでだ、もう少し森を耕すぞ、それ! もう一発だ」
オリミラは勇者の孫だったようだ。カリスマ性などはそのせいかもしれない。
もう一発といわれたが、環境を無計画に破壊していくのは賛成出来ないし、魔力の消費も激しいのでこれ以上はお断りした。
「次期魔王だと証明できたいま、今後私はどうなるの?」
「こちらで保護する」
「保護ですか? 手配書がどうこういってませんでしたか」
「あの手配書は裏の奴らのものだ。善良なる国民を守るのも国の役目だ。ケーナは自分にいくらの賞金がかかっているのか知らないのだろう」
「はい、見たことないので」
「生け捕りで金貨30000枚だ。そんな額だ、皆が血眼になって探しているだろうよ」
「そんなに一体だれがお金をだしたのですか?」
「それは分からない。だが、国がケーナを保護したとなれば迂闊に手を出せないだろうし、物分かりのいい賞金稼ぎは諦めるだろうな」
捕まって投獄されるのかと思っていたので少し安心した。
「だが、まだ保護したことを発表できない。この裏手配書の黒幕を引きずり出したいからな」
金貨30000枚も用意する奴だ。国が保護したからといって諦めるとは考えづらいという。
ならばと申し出ることにした。
「私、囮になりましょうか?」
「肝が座っているな。怖くないのか?」
「怖いですけど、勝手に賞金首されることの方がムカつくので。それに私強いんで簡単には負けませんよ」
「心強い言葉だな。いいだろう、作戦に加わってもらう」
飛び入り参加を認めてもらい、本人が囮役ということになった。
後は手筈通り、木箱に詰められ、裏の情報屋に持ち込まれる。
強力な睡眠魔法でなんとか眠らせているので絶対に起こすな、起こしたら殺されるかもしれないと念を押しておく。
更にそこから依頼主を分からなくさせるためだろうか運び屋のバトンリレーになり、ようやく金を出す者との取引となった。
「こいつが例の娘だ。顔確認するか?」
「もちのろんなーのね」
「息はしている、強力な魔法で眠らせてあるらしい。こいつを捕まえた奴は腕を失くし、仲間を1人殺されたそうだ」
いつの間にか話が盛られている。
「見た目によらず物騒なーのね。さすが次期魔王ってことなのーね。こいつで間違いないのーね、こちらの情報とも一致するのーね」
本人なので間違いない。
「じゃ、さよならなーのね」
「なっ、ぐ、わぁぁあ!」
何かで刺されたのだろうか、運び屋が叫び、ドサッと倒れる音がする。
「モノを運んだだけで金貨をせびるなんて、なんて汚い人間なーのね。そんな奴はお掃除なのーね。それじゃぁあ僕のお嫁さん、大切に運ぶのーね」
(ん?)
お嫁さんと聞こえ反応しそうになったがグッと堪えた。
更にそこから運ばれ、到着したときに両腕と首に何をはめられる。
まだ目を閉じて眠っているフリをしていた。
するといつも通り脳裏に情報が流れる。
【奴隷化の効果をレジストしました】
【口封じの効果をレジストしました】
【魔力封じの効果をレジストしました】
奴隷化は洗脳系のアビリティなので耐性でレジストした。
口封じと魔力封じの封印系は行動制限耐性でレジストできた。
耐性系のスキルを多く取得しておいてよかったと改めて思う。
ただ、これだけのアイテムを揃えるだけでもお金がかなり必要だろう。
金貨30000枚の手配書を依頼するぐらいだから、お金には困っていないのだろうがいい趣味とは言えない。
「これで完璧なのーね! 僕のお嫁さんは魔王なのーね!! 一人前の男になったのーね!!」
「まだ気が早いのではないのでしょうか? 一人前の男になるのは今夜ですよ」
「そう、だったのーーーね!」
「とりあえずは、おめでとうございます!」
「おめでとうございます」
「おめでとうございますわ」
「お喜び申し上げます」
パチパチパチ
と、メイドや執事たちから達から祝福の言葉を送られているが、何一つめでたくない。
人をさらって勝手に嫁にするなんて、どんな顔なのか拝んでやろうと少し目を開けた時
「んーーーーーーーー」
と、つき出す唇とでかい顔が目の前にあっのだ。
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