外のザワつきが耳に入り、目を開けるがまだ眠い。まだ日の出も未だな時間帯。それなのにジーンが一部屋一部屋ノックして客を起こしているようだった。異様な様子を感じ取ったので体を起こすと、ドアが鈍く響く
ドッドッドッド!
「ケーニャ!!ケーニャ!!起きてにゃ!!ケーニャ!!」
ドアを開けてると寝間着のままのミーニャが慌てていた。
「ケーニャ!逃げるニャ!町が燃えてるニャ!」
(ん?火事?)
「ミーニャと一緒に逃げるニャ」
「わ、分かったよ。直ぐ準備するからミーニャも準備して待ってて」
「すぐ来るニャ!」
窓を開けると町の北西の空が赤々としている。ただの火事じゃない。風もないのに火の範囲が広過ぎる。
意図的に起こさないと到底できない。
スキル千里眼で様子を確認すると既に広範囲に火事が起きているのと何者かが至る所に侵入している。見た目からすると兵とより賊といった感じだ。
スキルで見えるだけでは鑑定はできないので確かめることはができない。カスケード家も一応確認したところ家の者は皆起きている。コピーエーナと猫君1号がいるのでどこよりも安全だろう。兄と父の姿だけ確認できなかった。
ミーニャが呼ぶ声が聞こえる。このまま逃げていいのだろうか?兵と兵の戦いにおいては政治が絡んでくるため冒険者は手を出すことができない。冒険者は国と国を自由に行き来できることが決められているので逆にどこかの国に肩入れする事できないのある。しかし、今回襲ってきているのが賊であるなら政治は関係ないことになる。
長い間平和な日々を暮らしてきたので忘れかけていたが、このような事は記憶を辿ると過去にも何度かあった。敵国や賊などに襲われることは十分あり得る世界だと再認識させられた。
「私が行かないと……ミーニャに話さなきゃ」
ミーニャとジーンも待っていてくれた。
「ケーニャ遅いニャ!」
「荷物はそれだけか?ここも無事とは限らないぞ」
「アテシアさんはどちらに?」
「アテシアは昨日から森にいる。ここよりは安全だ」
「そうですか、ジーンさん。ミーニャ。今から言うことは他言無用でお願いします。そしてこれからも今まで通り接してくれると助かります」
「な、なんだ急に」
「私はカスケード家、三女。本当の名はエーナ・カスケードと申します。いままで黙っていて申し訳ありません。カスケード家の人間としてこの領土の民を守る義務があります。もちろん父、ベンドラ・カスケードが筆頭ではありますが私が無視していいことでもありません。一度ギルドに行って状況を確認してきます。なので一旦ここでお別れです」
「いや、いやニャー。一緒に行くニャー!!」
「ごめんね、ミーニャ。でも信じて必ず、戻ってくるから」
「ずるいニャ、そんなのじゅるいニャー!!」
「本当にあのエーナお嬢様なのか……疑ってる訳じゃねーんだ。元々どこかいいとこ出のお嬢さんが冒険者やってんだろうなとは思ってたんだがな。まさかカスケード家だったとは。家の誇りや立場ってもんがあるんだろ。……だが無理はするな、いいな」
「ありがとうございます。ミーニャ、キラキラ石は持ってきてる?」
「持ってる、ニャ」
「それお守りになるから肌身離さず持っててね」
「ケーニャがくれた宝物ニャもん、絶対なくさないニャ!」
「絶対戻ってくるからね」
猫目亭を出てギルドに向かう。かっこいいことを言ったけど実際はただの我が儘だ。せっかく生活しやすい環境を手に入れたのに、わけの分からない輩にそれを邪魔されて黙っているほどお人好しではない。害する者は全てご退場願おう。
ギルドには冒険者だけじゃなく、町の人達もあつまっていた。入り口に受付嬢が数人立っていて、冒険者だけ中に通している様子。町の男が受付嬢に詰め寄る
「賊が襲ってきてるんだろ?討伐隊はまだ作らないのか!?」
「申し訳ありません。ただ今確認中です」
「確認なんかしてたら町が焼けちまう。水魔法使える者はいないのか?」
「現状ではギルド側は非戦闘員の避難誘導しかできることはありません」
「子供だけでも中にいれてくれぇ!」
「申し訳ありません。ここは冒険者のみとなります」
冒険者ギルドが中立なのはどこの国でも同じ。そしてギルドを攻撃する事は冒険者全てを敵に回す事と同じ事になる。他国にあるギルドであってもそれは変わらないので敵国から侵略されてもギルドだけは無事なのだ。国と国との争いではギルドが一番安全でもある。
まだギルドが動いていないとなると、ギルドに動いてほしくないの誰かの思惑があり秘密裏にギルド側にだけ事前通達があったかも知れない。そこから考えられるのは見た目は賊で中身が国の兵士の可能性、そんな最悪の状況も加味しつつギルドに入る事をやめ火の手の上がる戦場へと走った。
(相手が国でもすることは一緒)
建前上、冒険者としてではなく、カスケード家の者として動けばいいだけ。
アヤフローラ教国カスケード領から近い国としては、西のオオイ・マキニド共和国、北のドボックス帝国あと小国のウェーンとナジョトぐらい。
大国が動けばもっと何かしら情報が流れるはず。夜明け前の奇襲、兵を賊に仕立てるやり方のような狡い戦術は小国の強みと言ってもいい。だとするとどちらかだ。父親と親交のあるウェーン国は可能性が低いと見ているので残るはナジョト国だけ。
(正々堂々と戦うこともできないなんて…)
戦場が近づき炎の熱が伝わってくる。色々な物そして人が焼ける臭いも濃くなってくる。この状況をこれ以上悪化させない為に、スキルの探索範囲に捉えた人をとりあえずどんどん収納していく。この方法なら人命救助と敵戦力の無力化を同時に行えるので効率的だ。
収納され、ステータスのアイテムボックスに表示されたのは【山賊】の表記だったが一度取り出し、マリオネットで拘束する。
「な、なんだ!あ、う、動かない」
「時間が無いので手短にお聞きします。あなたの所属はどこですか?」
「体が動かないのはお前の仕業か?大人を舐めるなよ」
「虚勢も結構ですが、答えることができない。そう受け取りますね」
鑑定眼の結果、やはりナジョト国の兵士だった。しかも隠蔽SL.Dのスキルを使用していたのだ。そこまでして隠そうとしていたのだから質が悪い。
「やっぱりナジョトですか」
「お前一体なんなんだ」
「ただの我儘なお嬢様ってとこですかね……では戻ってください」
空間収納に戻し、作業を進める。火災は見える範囲でアブソーブで熱源ごと吸収して被害を最小限に抑えようと努力した。
ある程度落ち着いたところでステータスを確認すると、空間収納の賊の数は約200人になっている。一応捕虜として取っておく。
探索には突入してきたと思われる方角のさらに奥に2000人程の部隊を捉えていた。あとから侵攻するための部隊なのか、探索の範囲に入ったのが運のつき、丸ごと収納させていただいた。
警戒はまだ解けない。逃げた賊がいないか探索による確認、逃げ遅れた人の捜索、火災の沈静化。被害状況の確認などもできる限り行う。
衛兵達の戦闘跡が生々しく残り、すぐにでも弔ってやりたかったができなかった。
日の出に気づくころ、カスケード領の兵士が到着する。率いるはヨルガルド兄様、数は騎兵と兵士合わせて500人程。
遅すぎた。
でも、2000人の部隊と衝突していた可能性もあったので遅くてよかったとも思えた。
兄様と鉢合わせになるのは避けたかったので到着する前にここを離れることにした。
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