「お父様、わたしと目を合わせることすらできな者ばかりでは、この国はダメになりますわよ」
「言わんとすることは分かるが、テッテは国の現状を把握しておらんだろう。今この国は降伏中なのだ」
「降伏? いったいなぜですの?」
「他国だとは思うのだが、圧倒的戦力を見せつけられたのだ。その矛先が我が国に向く前に降伏したのだよ」
「国防の為に色々していたではありませでしたか? なのに、なぜですの」
「アデバルディアだ。アデバルディアがこの世界に復活したのだ。皆の命を守るにはそれしかない」
「それは聞いたことのあるような名前ですわね。おとぎ話ではなくて?」
「ああ、おとぎ話の元になったものだ。実際はおとぎ話のような優しい話ではない、人を焼き、町を焼き、国を焼く驚異の空中要塞だ。だからこそ被害がないうちに降伏をして、損害を最小限に抑えることが今なすべきことなのだ」
ちょっと考え込むテッテ。
理解してくれたかと思った魔王。我が儘な娘も知らぬ間に成長あったのだろうとしみじみ感じていた。
「お父様、そのアデなんとかはいくつもありますの?」
「あんなものがいくつもあっては、この世界は大昔に終焉を迎えておる。1つだけだったからこそ、多くは使われずに抑止力となりえたのであろう」
「でしたら、そのアデなんとかを持ってる方知っていますわよ」
その一言に全員の目が向けられる。
国家の精鋭諜報員達が必死になって探しているのに尻尾も掴めていない状況。なのにもかかわらずそれを知ってる。それだけで大事だ。
「誰なんだ! テッテ、教えてくれ」
「その前に確認しておきたのですが」
「確認? なにをだ?」
「もし、その方が本物のアデなんとかを持っていたら、その方に降伏するのですか?」
「そうするしかあるまい。それで国民の全ての命が助かるかもしれないのだ。逆鱗に触れて国が蒸発するより遥かにマシだと考えておる」
「そしたら、その方が国王になりますの?」
「その方がそれを望むのであればそうなるだろう。で、誰なんだ」
部屋の全員が聞き耳をたてている。
テッテ以外でただ一人、ヨシエはテッテとケーナの食事した時の会話を聞いているので、浮島の持ち主が誰かがわかっていた。だが誰も信じないだろうとも感じていた。
「今お父様がお持ちの手紙の人物ですわ」
「なにを、冗談を言うな、人族が扱えるようなものではないぞ」
「わたしは冗談など言いませんわ。それにわたしが認めたお姉様ともあろう方が、ただの人族だとお思いですの?」
「アデバルディアのが所有する魔力量は、最低でも7000億超えるのだぞ」
「その程度の魔力量、わたしでもコントロールできますわ、たぶん……。お姉様の魔力コントロールはわたし以上ですのよ」
「そこまで言うのであればこちらに連れてまいれ。皆も聞いてくれ。テッテの姉となる人族がアデバルディアを所有しているという。もし本当であればその者をテッテの姉、そして私の娘と認めよう」
ざわつく家臣たち。
降伏宣言が取り消されるかもしれないからだ。
魔王の継承と王位の継承が行われるだけなら、今いるもの達の地位も安泰。内政などは直接王があれこれするわけではない、これまで通り飾り役をしてもらえればいい。
それに何よりアデバルディアが我が国の物になる。国の戦力増強、各国への抑止力にもなり平和的解決をしやすくなる。これ以上のいい落としどころがない。期待も膨らむのだ。
「ヨシエ、極楽怪鳥を使って空路で行きますわよ」
「待て、テッテ。せっかく帰ってきたのにもう行くのか。今日くらいゆっくりしてきなさい」
「何を言ってますの? 国の一大事ですもの1秒でも早く動かないといけませんわ」
颯爽と会議室を出て行くテッテと、それについて行くヨシエ。
魔王トットもすぐに暗部を呼びつけ、手紙の人物の詳細について調べ上げるよう命令したのだ。
「あーーーよかったですわ。ケーナ姉様に会いに行く口実ができましたわ」
「それより我が国が降伏などという状況にあったなんて驚きです」
「無能な家来ばかりが集まっていれば仕方ありませんことよ」
「そんなことばかり言っているから嫌われてしまうのです」
「いちいち相手をするほどのことでもありませんわ。文句1つ直接言えないのですから」
極楽怪鳥の到着を待つ間も愚痴が止まらないテッテ。
空路での移動は数百万メルクとなり値が張るが、大きなバスケットのような物の中に入るためとても快適で安全だ。
極楽怪鳥は大きい部類のモンスターになるので襲ってくる他のモンスターも限られてくる。
夜目も利くので時間帯に縛られず移動できる数少ない移動方法になる。
空の旅は、家臣達の態度でご機嫌斜めだったテッテを、上機嫌に戻すのに時間はかからなかった。
空から見る夕焼けは、嫌なことも全部オレンジ色に包むように優しくテッテを照らしてくれたからだ。
それでもケーナの事だけは頭から離れず
「カスケードの町まではあとどれくらいですの?」
「ご安心ください、夜には着きますよ」
と、はやる気持ちを抑えていたのだ。
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