いつでもダンジョンに潜れるように、グラフ助言のもと物資を買いそろえた。
ちょっとしたサバイバルキャンプをする気分になれる。
グラフは量を気にせずポンポン買っては、空間収納に入れている姿を見て
「あと、どれくらいはいるのでしょうか?」
と、しきりに気にしていたが、
「店1つや2つは余裕だよ」
の言葉に呆れていた。
通常、ダンジョンに潜る際は数日分の水や食料、テントや火おこし用具などなど必須とされる物だけでもかなりの重量になり、3人で手分けしても1人の持ち分は5、6キロの重さになる。
空間収納のおかげで荷物の重さを一切気にせず手ぶらで行けるのは、数人運び屋を雇うぐらい贅沢なことになるそうだ。
夕食の時間になり、パーティー結成祝いをするため、ゼンちゃんとハクレイを空間収納から呼び出した。
空間収納から出てくる1人と1匹を見て更に驚いたグラフに、「内緒だからね」と口止めしておく。
スキル空間収納持ちでも十分珍しいのに、そこに人が入れる事実が衝撃を加速させるからだ。
グラフに紹介しつつ、グラフを紹介した。
ハクレイの様子は、もう限界といった表情をしていた。
ゼンちゃん曰く、タイムに頼んで空間内の経過を一時的に10倍まで早めてもらったそうだ。
なので実質約5日間の特訓を受けたことになる。
「ハクレイは、ジーンさんの料理を食べられるだけでも幸せです。タイムさんはその、あまり料理が得意じゃないみたいで。あ、ハクレイも料理は得意ではないので、人の事を言える立場ではないのですが」
特訓期間中の食事はさぞ厳しかったのだろう、並べられている料理から目が離せないみたいだ。
「これから私が教えてあげるよ」
「はい、よろしくお願いします」
「ではでは、今日はキャットテール結成を祝いまして乾杯をしましょう。これからの皆の活躍を願って、かんぱい!」
「「乾杯!」」
ジーンの料理に美味さに驚くグラフ。今日一日は驚かされてばかりで、参ったと言いつつ早速おかわりをしていた。
グラフは別の宿に泊まっているとのことで夕食後解散。
食べ過ぎて倒れそうなハクレイに肩を貸しながら、部屋へと戻りベットに横にして、生活魔法のクリーンをかけ鑑定してみる。
Lvは24まで上がっていた。駆け出しの冒険者としては上々のステータスだ。
ハクレイは疲労が溜まっていたのだろうが、いつの間にかスースーと寝息を立てて寝てしまっていた。ゼンちゃんもベットの上で微動だにしてないので寝てるのかもしれない。
仲間が増えてダンジョンへ潜る準備もして、やっと異世界らしくなってきた。
そんなことでもちょっと興奮して、眠気などは無かった。
パーティー結成の後は拠点が必要になってくる。
いつまでも別々の宿に泊まっているわけにもいかない。
何処かに拠点を作るか、家を借りてそこを拠点にするか。
色々考えた結果、
(物件持ってるかも)
と気づいた。
あの浮島だ。浮いてる島であればその上に城ぐらいあってもいい。最悪小屋でもいい。後々改築して大きくしていけばいのだから。
先に内見をするため、空間収納にこっそりと入っていく。
入るとタイムがお出迎え
「お帰りなさいませ、ケーナ様」
「ただいまー。どう? ここ世界でも生活は」
「楽しく過ごしております。こちらのコピーのエーナ様もとてもお優しくしてくれるので、私には勿体ないぐらいです」
「実家のコピーエーナはこっちに来たかな」
「まだいらっしゃっておりません」
それならいっそのこと、カスケードの町にいるので直接会いに行こうかとも思った。
「前来たとき、上に浮かんでたでっかい島。真上に持ってきて」
「かしこまりました」
パチンと指を鳴らすと真上に現れる。ここにあると収納空間の入口付近が影で暗くなるので、すこし移動させていたらしい。
改めて見てもやっぱりでかい。上に城が絶対ある。と、思う。
「あの上見てみた?」
「いえ、時間を止めただけで他には何もしておりません」
「一緒に上に行ってみようよ」
「是非ご一緒させてください」
タイムにも浮遊の魔法をかけふわふわと上がっていく。ぎこちない動きでバランスを取りながらなんとか崖際までたどり着いた。
「ふぅ。慣れない魔法で逆に疲れた。タイム抱えてジャンプした方が早かったかもしれないなぁ」
「では、次回は是非そうしてください。お姫様抱っこを所望いたします」
浮島の上部は見渡す限り更地のような状態で、所々に真っ赤な大きな支柱が立っている。そして中央付近には真っ赤な半円球状の大きな塊だ。
まず鑑定で調べてみて分かったことは、真っ赤な支柱も塊も人工魔石ということだった。
しかも1本の支柱で10億を超える魔力量。中央の塊にいたっては1000億を超えていた。
浮島の正体、巨大な人工魔石の集合体だった。
タイムはこの浮島が攻撃しようとしたから時間を止めたと言っていた。
これだけの魔石による攻撃など想像もしたくない。
なので城探しより先にアブソーブで浮島にある人工魔石の魔力を吸収しておくことにした。
だが、あまりの魔力量のせいなのか、なかなか終わらない。
仕方ないのでスキルレベルを最大迄引き上げサクッと終わらせた。
そもそも、この浮島がここにあるのはカスケードの上空にこれがあったからだろう。
それを実家のエーナが空間収納に詰め込んだから、町は攻撃を受けずに済んだのかもしれない。
全部魔力を吸い上げても浮かんでられるのは、タイムが時間を止めているからだろう。
なので時間を元に戻す時はエーナの世界とは干渉しない場所に降ろしてほしいと、タイムに伝えておいた。
塊を目印に、しばらく歩いてまわってみるも城も家も見当たらない。
「城無いかぁ」
「お城を探していたのですか?」
「ありそうな予感だったけど。赤い柱ばっかり。今日はここまででいいや。もう戻ることにするよ」
「かいしこまりました。それでは」
と、近寄ってくる。目の前で立ち止まり両手を首に回して
「お姫様抱っこ。お願いします」
明らかにアンバランス。こっちは少女の体だから、大人の女性を背負うのですら大変なのに
「私が甘えられる存在ってケーナ様しかいませんので」
誰に何を吹き込まれたのか、自発的な成長の成果なのか。仕方ないのでお姫様抱っこで浮島から飛び降りた。
自由落下初体験なのだろう「キャー」と叫んで着地したら「アハハ!」と笑って
「ケーナ様! これ楽しいです。もう1回お願いします!」
と言ってきたので、我慢も躾の内だと思うので空間収納から出ることにした。
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