次期魔王の座。
そんなテッテの術中にはまった形にはなってしまったが、冷静に考えれば、現魔王やその部下たちがテッテのそんな我儘を許すわけがない。
ましてや人族である者が、魔族の王になどなれるわけがない。
冷静になればなんてことはない。
(大丈夫、きっと大丈夫)
そう言い聞かせ冷静さを保つしかなかった。
特別室を出て、カジノを出てたところでテッテが話掛けてくる。
「ケーナ姉様のご予定は、この後あるのかしら?」
「内緒」
「では、明日のご予定はいかがかしら?」
「秘密」
「かしこまりました。黙ってついてこい。ってことでございますわね。ヨシエ、今後予定を全て変更いたしますわ。ケーナ姉様に同行いたしますことよ」
「その心構え見事。ルクセンブルク王国までの同行許可いたします」
「ルクセンブルクに行かれて何をなさいますの?」
またマトンが先手を打ってしまい、詳細をテッテに話してしまう。
「妹様であれば、ケーナ様の晴れ舞台見届けることは当然かと思います」
「このテッテ、ケーナ姉様の優志えを見届けさせていただきますわ」
ここまでが予定調和のように進んでしまったが、たぶんツッコミを入れても何かと理由をつけてついてくる気だったのだろうと。諦めるしかないのかもしれない。
翌日、竜車は用意され一日遅れで出発となった。
昨夜はまたハイドの屋敷にお世話になったのだが、テッテの我儘も威力を増して一緒の部屋、一緒にお風呂、一緒のベット、そして朝までおしゃべりという感じで常時べったりの状態。
ため息しか出なくなってしまった。
でも単純に姉という存在が嬉しかったのだろう。
今まで魔王の娘という立場で、対等な立場の者がいない状態だったのだ。
気を許せる間柄なんて貴重なのかもしれない。
(でもヨシエは我儘テッテをコよくントロールできるもんだ……ハッ)
と感心したのと同時に、カジノでの事件はヨシエの演技なのではないかと疑いをも持ってしまった。
ハイドは一足早く極楽怪鳥という空の運び屋を使って空路で向かったそうだ。
金がかかるそうで婚約者程度だとガタゴト揺れる竜車だ。
でも私には振動耐性のおかげでこの程度の揺れは伝わらない。
それを知ってか知らずか、竜車に乗る前から眠そうだったテッテは私の膝の上に頭をおいて眠り始めてしまった。きっと安定していていいのだろう。
ヨシエが起こそうとしたが、こっちの方が静かなのでそのままにしてもらった。
ここからは暫く静かなので瞑想タイムだ。
ステータスのINTが100000を超えた時に取得したスキルの1つに並列思考があった。
このスキルはガイドブックの有能なスキルランキングにもあるとっておきだ。
一度に複数の事を考えて、それを行うことができるといっても体は1つなので使いみちが無いように一見思える。
しかし、多くのスキルを同時に発動できるという点においてはとても有効活用しやすいスキルだ。
今までは保険のために常時アブソーブ(攻撃吸収)を発動させていたので他のスキルを発動する枠が狭かった感じだ。それが一気に倍になり発動可能数が増え、予め指定しておけばいちいち考えなくて済むというとうことになる。
今回この竜車の旅で発動させるスキルはもう決めてある。
探索・感知・空間収納・解体上手・アブソーブ(変換)の5つだ。
この5つを無意識で使えるのはかなり嬉しい。
【ビックホーンラビットを補足しました】
【収納しました】
【解体を完了、換金不可部位をエネルギーに変換しました】
【経験値、魔石、毛皮、生肉、角、を獲得しました】
(凄く快適!)
脳裏に表示を眺めるだけで戦闘が終わる。これが私流のモンスターとの戦い方だ。名づけて『〔た〕くさん倒せて、〔す〕ごく快適モード』略して『たすモード』だ。
戦闘が苦手な人向けにガイドブックに載せてもいいレベルかもしれない。
ただし探索スキルによる補足範囲を結構控えめにしておかないと、どっかの森のようにゴーストフォレスト化してしまうので気をつけている。
【ポイズンスネークを補足しました】
【収納しました】
【解体を完了、換金不可部位をエネルギーに変換しました】
【経験値、生肉、毒袋、牙を獲得しました】
もちろん対象はモンスターだけではない。
【オドリタケを補足】
【収納しました】
感知スキルのおかげで薬草や食料になりそうな物などのおまけもある。
基本的に人族や亜人族対象から外しているので収納されることは無いが、希に森で迷子になってそうな子供だったり、HPの少ない者の場合は収納するかどうか思考がこちらに一旦返されることになっている。
ちょっとした人助けができるかと思って。
【ドスボアを補足しました】
【収納しました】
【解体を完了、換金不可部位をエネルギーに変換しました】
【経験値、毛皮、生肉、牙、を獲得しました】
出発前、御者のおじさんが私の事を見て
「そんな装備で大丈夫か?」
と心配してきた。
見た目はお嬢ちゃん。ギルドでも知らない受付嬢やお節介な同業者に同じようなことをよく言われていた。
猫目亭のアテシアから貰った防具と武器から買い替え、買い足しはしていないので、立派な剣や頑丈そうな盾などは持っていない。
アテシアは狩人だったので、狙った対象によって最低限の道具があればいい。
だけど冒険者は予想外の相手と戦う事の方が多い。
だからこそダガーナイフ1本で冒険者など心配しない方がおかしいのだろう。
しかし、それは相手と”戦闘”を前提とした話。
モンスターと対峙するまでに至らず、解体まで自動化であればダガーナイフすら必要無いと言い切れる。
おかげでモンスター出会う心配も無くなり、危険度も断然下がってくれる。
まるで複数のチームが周りを護衛と狩りをしてくれいるのと遜色ないぐらい。
何事もないのが一番だ。
【人族を補足しました】
【収納しますか?】
一度千里眼で補足地点の様子を見てみると、倒れている女性とそれに寄り添っている子供が見える。
収納して時間を止めた後で鑑定して見て大丈夫そうなら解放しようと思った。
とりあえず鑑定してみる。
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ノルク・ステビア 男 6歳 幸運の勇者
LV4 HP6 MP5
STR 2 VIT 3 MND 3
SPD 1 DEX 1 INT 2
LUK 999
スキル
福音の恩寵A+ 起死回生A+
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「はひゃ!」
「きゃー!!!」
竜車のなかで思わず声をあげてしまった。
それにつられたテッテが飛び起き抱きついてきた。
マトンとヨシエは周囲を警戒しているが、竜車は止まることなくゴトゴト進んでいる。
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