「こんにちは……」
深くかぶっていたフードをガバッと持ち上げ顔をだす。
「はぁっ!! おどかすんじゃないよ! まったくぅ、寿命が縮むわ。あんたら、一体どこから入ってきたんだぁ」
不思議そうにこちらを見るのは、顔中しわくちゃの老婆だ。
鑑定眼での年齢は117歳となっている。
「えっと、寝室からですけど……」
「え?何?」
「ですらか、寝室です」
「はぁ?筋肉?」
「し! ん! し!つ!」
「デカい声を出すんじゃない。耳がおかしくなるだろが!!」
怒り耐性のある私は、多少の理不尽には動じない。
「隠した扉をわざわざ見つけて来たんかい。余計なことをするんじゃーないよ、まったくぅ。用が無いならさっさと出て行きな!」
「私はケーナと申します。あなたにいくつかお聞きしたいことがありましてこちらに来ました」
「なんだい、まだいたのかい」
仏頂面を維持したままこちらを見る老婆。嫌そうな顔はわざとなのかもしれない。
「なぜここにいるのでしょうか?」
「教えられないねぇ」
「次期魔王が誰だかご存知ですか?」
「知らないよそんなこと」
「シリルという方をご存じないですか?」
「それも、分からないねぇ」
人を馬鹿にするような受け答えに
「あなた! それでは会話になりませんことよ」
痺れを切らしたテッテが前に出てしまった。
止める間もなく魅了を発動してしまったようで完全に老婆の目が虚ろになってしまう。
「名前、ここにいる理由、お母様……シリルという人物について知っていることを言ってみなさいですわ」
「あたしゃ、 マレン・ラフィクロル……。ここが家みたいなものだ……。シリル様ならあたしが大切に持っとるよ」
「シリルはわたしのお母様ですわ。すぐに合わせてくださいませ」
「申し訳ないねぇ…… それはできないねぇ」
テッテの魅了が効いているのに、命令を拒んでいる。
「なぜ、できないのですの?」
「シリル様を今出してしまったら…… 本当に死んでしまうかもしれないねぇ」
「お母様は生きてますの?」
「正確に言えば仮死状態とでもいえばいいかの……」
推測するに、HPは0だけど、完全な死の状態ではなく、行動不能なのだろう。
それを空間収納内で長年維持させていることなのかもしれない。
「テッテ、なんとか言い聞かせてお母さんを出してもらって、そのあと私が何とかする」
「わかったわ」
そこからはテッテの言葉で出してもらうよう説得を続けたが、なかなか言う事を聞かないマレン。
諦めるわけにもいかないテッテが、最後はマレンを極刑にすることも、やむを得ないと告げると使い条件付きで出してもらうことになった。
条件は顔を見たらすぐに収納するというもの。
「1秒でも惜しいんじゃ……、勘弁してくれぇ」
一瞬でも出してもらえるなら、それで十分。
渋々マレンが空間収納スキルを使い、ドンと大きな樽がでてくる。
その蓋を開けると、女性が膝を抱えた状態で入っていた。
更には肩ぐらいまで液体が浸してある。
早速鑑定
シリル・ベルクス
予想通りHPは0 瀕死状態だ。
「ごめんなさい、マレンさん。少し寝ててください」
「なにを……Zzz」
睡眠魔法をかけ、椅子に寝かせておく。
「お母様は様子はいかがですの?」
「このままだと危険な状態、それに病気も持ってる。白石病って知ってる?私はよくわからなのだけど」
鑑定にはそう表示されたが詳しくまでは分からない。困っていたところでヨシエが知恵をか
してくれる。
「それなら知っております。石化病とも言われ体が石のように硬くなる病気です。手足の先から始まり、やがては体の内部まで進行して死に至る病です。治す方法は見つかっておりません」
病気であれば万能薬でどうにかなる
「薬すぐ作るからちょっと待ってて。ヨシエさんはタオルとか着替えを持ってきて」
「はい、かしこまりました」
階段を駆け上がっていくヨシエ
「テッテ、今からお母さん治すけど。この治療方法は誰にでもは使えない。テッテのお母さんだからできるってことよく覚えておいてね。あとこの事は――」
「秘密。ですのよね。わかりましたわ。ケーナ姉様は秘密が多いですものね。でも信じておりますわ」
目の前でDEBUG MASTERを使用しアイテム作製で万能薬を作ると、それをすぐにシリルに使う。
状態から白石病が消え。病歴へと追加される。完治した証拠だ。
続けて完全回復薬を作り出しそれもまたすぐシリルに使う。
HPが0から全快まで回復をするのを見て一安心。
「もう大丈夫! 後は意識が戻るのを待つだけ。危なかったよ、下手したらお迎えが来るところだったし」
「本当にもう大丈夫ですの?」
「大丈夫だよ」
「ありがとうございますわ。ありがとうございますわぁぁ」
緊張の糸が切れたのか涙がこぼれている。
最悪な事態も想定していたのだろう。今のところハッピーなエンドになりそうで良かった。
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