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東の魔法使い①

公開日時: 2022年2月17日(木) 18:18
文字数:2,723

 猫目亭の宿で朝を迎える。窓を開けると昨日の出来事を思い出させるかのように焼けた臭いが入ってきた。


 そしてもう1つ思い出すは2000人近くの捕虜達の事。


「しゃーない、出してあげるか」


 元々いた場所には転移できるようにしていたので部屋から移動する。


 ドレスに着替えまずは空間収納内に自分が入る。こちらの姿をみるとすぐダン大佐が飛んできた。


「探しましたぞ」


「いいえ、私はずっと近くに居ましたよ」


「あ、ああ……それでだな、3人の者以外は外に出ることを望む。もちろん誓いも立てる。よいだろうか?」


「わかりました。それでは残る3人はこちらに、出る方はこちらに」


 約2000人を一気に外に出す。元々待機していた場所だ。本当に出ることができて喜ぶ者や怯える者などの声が森にこだまする。スキルの探索範囲には敵の捜索隊が捉えられていた。


「ダン大佐、あちらの方角にお迎えが近くまで来ていますよ」


「そうか……やはりあなたは神なのでは?」


「お好きに呼んでください。私はあの3人と話があるので戻りますね」


「承知した」


 別れはあっさりしていたがそれでいい。ダン大佐も最後には神だと信じたのだろうか、少し怯えているようにも見えた。


 収納空間に戻ると3人が跪いている。


「ちょっと、立ってくださいよ」


 首を振り下を向いたまま話し始めたのは、一番最初に声をかけた中隊隊長のブハッサだった。


「やはりあなたはアヤフローラ神だと確信いたしました。私はナジョトの者ですが、アヤフローラ教の信者でございます。祖国では神を崇拝することは禁じられていましたが、それでも密に信仰しておりました。こちら2人も同様の立場でございます」


「あ……そうなの」


 真面目な信者を騙しているようで罪悪感が込み上げてくる。でも勝手に向こうが思い込んでるだけで私は一度も神だとは言っていない。


「私は私、周りが勝手に呼んでいるだけであなたの求めているのものと違うかもしれませんよ」


「いえ、私は確信しておりますのでご安心を」


 人並外れたスキルせいで一気に神にまで成り上がってしまった。


「分かりました。もう何も言いません。好きにしてください。そして面を上げてください。いつまでも下を向いたままではちゃんとお話できませんよ」


「なんとお優しい……」


 残りの二人は嬉しいのだろうか涙ぐんでいる。


「「「一生ついていきます」」」


 敵国から寝返えった3人兵士がケーナの子分となった。


 一度外に出て色々話をした。


 ケーナの事を神が世を忍ぶ仮の姿だと思っているらしいのだが、この誤解は解くのが難解そうなので諦めた。


 ブハッサは叩き上げの兵士。入隊当初から戦場で鍛えられてきた兵士だ。残りの2人はどちらも一般兵のベロアとボックスと言うらしい。


 国に家族がいるのに大丈夫なのだろうかとか、勝手に国を出て大丈夫なのだろうかと色々聞いてみたのだけれど、神にお仕えできることが何よりも嬉しいなどと抜かしていたのでちょっと説教をしておいた。


 国に帰り、後腐れないようにして来れば正式に迎え入れると約束し、一度ここで分かれることになった。



 猫目亭に戻った時にはもう夜になっていて、空間収納内にいたせいもあり1日があっという間に過ぎて行った気がする。




 カスケード領への奇襲を東の大国インテルシア魔導国では別視点から捉えていた。


「学院長、国家魔導士局からお手紙が届きました」


「エクレール先生、わざわざ届けてくださりありがとぉね」


「いえいえ、魔力で封をされていた物でしたので早めにお渡しした方がよろしいかと思いまして」


 魔力で封をされた特殊な手紙は、受取人の魔力でしか開けることのできない特殊な物。

 無理に開けようとすれば燃えてしまい灰も残らない。

 正規の受取相手なら指先の僅かな魔力で簡単に封は崩れ中の手紙が出てくる。


「いい歳だし、今回の悪い予感は勘違いであってほしかったんだけどね」


「学院長はまだまだお若いですよ」


「あらお上手フフフッ」


「生徒達には内緒にしてほしいのだけど、あたしは生まれつき空間魔法の適性が高かったせいでね、空間の歪みにとにかく敏感なのよ。今回の歪みは遠い場所で起きたことなのにも関わらず直ぐ分かったわ。それだけ強大で大地を飲み込むような力だったから、どこかで大きな災害が起こっていてもおかしくはないわね。せっかく注いだお酒も飲めなくなるくらいよ」


「でも一体誰が?」


「そう、そこなのよ。誰かかもしれないし、何かかもしれない。自然現象であったとしても原因を調べないとね。だから国家魔導士にお手紙を書いたの」


「その返事なのですね」


 指でなでながら手紙にスッと目を通す。


「そうね、教え子のミストちゃんが引き受けてくれたみたいでよかったわ。彼女とても優秀だから」


「ミストちゃんって、六大魔導士の1人ミスト・キャティ魔導士のことですか……?」


「あら、ご存知なのね」


「12歳で学院を卒業したので話題になりましたよ。この国の国民でしたら知らない方が不思議かと」


「あらら、有名人に頼んじゃ不味かったかしら、どうしましょ」


「私も含め、学院長の教え子でしたらいくつになっても皆同じですよ」


「ほんとねぇ~。あたしの時間だけ止めちゃおうかしら、そうすれば追いつかれますからね」


「あの冗談ですよね?」


「フフフッ」



 国家魔導局にはインテルシア魔導国が保有する魔道具の1つ空間歪計があり、それが異常値を示したが計測不可能の領域に達していた為、誤作動ということで処理されていた。


 しかし学院長からの手紙を受けた国家魔導局は事態を見直し緊急調査を行うにしたのだった。

 その調査の調査員を選ぶ過程で是が非でもと申し出たのが、国家魔導士が誇る六大魔導士の1人ミスト・キャティだった。その申し出を断る理由などない魔導局は付き人を1人付け送り出す事にしたのだ。


「大魔導士様、今回付き人としてご一緒させていただく――」


「誰?」


「あ、あの、付き人のノマギと申します」


「……嫌」


「え、えーっと?」


「1人でいい。帰って」


「そのように仰られましても、これも学院長様からのお達しがありまして……」


「え?」


「その、『1人じゃ危ないから誰か付いていってあげて』と空間転移魔法を使用してわざわざそれだけを言うために魔導局にいらしゃいました」


「あのオババ。そんなことに大魔法使っちゃって」


「お言葉ですがとても美しい方でし――」


「昔からずっとオババ。何歳か分からない」


「それですと……いささか若作りが過ぎますね」


「でも、オババの言いつけなら我慢するわ」


「よろしくお願い致します。大魔導士様」


「大魔導士様はやめて」


「え、何か不満でも?」


「ミストでいい。誇り高い名前」


「承知いたしました。ミスト様とお呼びいたします」


「行くわよ。ノマヂ」


「ノマギでございます」


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