マトンの口らの突然の暴言のせいで、フリーズしたのは自分だけでなくこの場だったかもしれない。
それでも最初に反応したのは、小さな狐の霊獣だった。
テッテの懐から飛び出し、マトンに対し精一杯威嚇をしている。
殺気に反応して主を守るため身を挺してきたのかのもしれない。
膠着しているところにヨシエが助太刀をする。
「あなた、一体なんのつもりですか?あなたにそんな事をいわれる筋合いはございません」
それに続いてテッテがフリーズから解除される。
「突然、失せろとはいくら何でもあんまりですわ。嫌ならあなたが出て行ってくださいませ。それとゲドーって……、何ですの意味わかりませんわ!」
半分しか伝わっていなかったみたいだ。
マトンがこんな言葉を使うとは意外だったが、人に近づくため学習でズレたところがあったのかもしれない。
そんなことより、フォローしないとと、
「マトン!いきなりいくら何でも失礼だよ。それに庇うタイミングはもっと前にいくらでもあったでしょーが」
「ですがケーナ様、この破廉恥が本気でケーナ様との子供を今すぐにでも産もうと考えております。この目を見れば鈍感な私でもさすがに分かります。そこに愛が芽生え始めていてもおかしくありません。ケーナ様は今やハイド様の婚約者。そのケーナ様に手を出すものは全て敵です!」
鼻息粗く立ちはだかるマトンはまるで姫を守る騎士のようだと感心した。だが、自称ダンディーなオジ様達のときは全く庇わなかったことを考えると愛が無く、子もつくる気が無ければそれは浮気にはならないといっているようにも聞こえるので、ちょっと私とは違うかなと。
「マトン落ち着いて。ほらこっちに座って。いい?よく聞くのよ。私もテッテも女の子。それでも愛が芽生えることはあるかもしれない。別にそれはそれでいいじゃない。もしかして嫉妬してくれているの?そうじゃないみたいだけど、仲が深まることは悪いことではないでしょう」
「あぁ!ケーナ!わたしはとても嬉しゅうございますわ」
「テッテはちょっと待ってて。それにね、私とテッテではどんなに仲が深まっても子供はできないものよ」
特別な医療技術があれば可能かもしれない。ただこの世界にそんな医療技術はない。病気や怪我を治す治癒魔法が限界だ。
「あら?ケーナ。そんなことはありませんわ」
「そう、そんなことは…… え?」
今日は調子が良くないのか、ちょいちょい思考が止まってしまう。
スキルの思考加速が機能していないかもしれない。
「まだお伝えしていませんでしたっけ?わたし半分は立派な高位魔族の血が流れておりますのよ。人族のように孕まなくても、魔族式で子を生せますわ」
こっちの世界はあっちの世界の医療をどうやら凌駕していたみたいだ。
それよりも半分はってことは魔族との人のハーフってことなのか。確認のためヨシエに視線を向ける。
察してくれたのだろうか説明してくれた。
「テッテお嬢様の父上は魔王トット・ベルクス。母上は人族のシリル様です。テッテお嬢様の耳の上には小さな角がございますそれが魔族の血が流れている立派な証拠でございます」
テッテが髪をかき上げると確かに右耳の上に半透明の小さな角が見てとれた。
普段は髪に埋もれて見ることなどできないだろう。これならどこから見ても人族の子だと見れてしまうので勘違いも仕方ない。
ここまでくると確かめるため鑑定眼を使う気もなかった。
「お父さんが魔王って……、テッテはもしかしてお姫様なの?」
「その通りですわ」
ス――――ハ――――
と、と、とりあえず深呼吸で心を落ち着かせる。
昨日は王子に嫁になれと言われ、今はお姫様に子供をつくろうといわれ。
折角の並列思考も役立たずになってきた今日この頃。
「私の為に争わないで―!」なんて台詞が頭を横切ったが、この場合の争いは国と国との戦争を意味する可能性が出てくる。
はは、冗談でも言えない。
こっちが必死に頭の整理をしている隙にテッテが、魔族式の為の魔力の密度や量の話、お互いの血の相性の話やら、どうしてもというのなら低級魔族のように孕んでも構わないなどと、幸せ子づくりプランの提案をしてくれているが全然入ってくるわけがない。
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