注意! とにもかくにも長いです! 気になった箇所だけお読みいただくことを強くオススメします!
The Manuel Ⅱ
《目次》
8. 重要人物ほど登場回数が少ない
よくある演出ですが、悪役ほど素顔を見せないというものがあります。
例えば……。
『機動戦士ガンダム』に登場するシャア・アズナブル。彼は本質的にはアムロやカイと並ぶ主人公ですが、ストーリーの構成的には悪役の位置にいます。
さて、悪役のシャアはどんな容姿だったでしょう? そうです。マスクを付けていますね。素顔……特に目線が分かりません(最後の方でようやく素顔を見せますが)。思惑が読めないのです。
(※私はガンダムにうるさいので付け足しますが、シャアは悪役じゃないです。なんなら正義の味方でもないです。彼はどちらにもなれなかった男です。語りだすと止まらないので詳細は省きますが、シャアとはナヨナヨロ◯コン非リアおじさんなのです)
続いて、現在連載中の『ONE PIECE』。イム様という敵なのか味方なのか見当もつかないキャラクターがいます。彼は、現在もその姿を黒く塗りつぶされています。全容が把握できません。
スタジオジブリ作品の『ハウルの動く城』も見てみましょう。
サリマン先生という、ジブリ作品の中でもトップクラスに怖い人が出てきます。
彼女がソフィーと対話する際、画面はサリマンの持つ杖が彼女の顔を覆い隠すようにして映し出されています。かなり怖い人物であることを示す演出です。
さて、本作は……?
素顔が不明な登場人物はさすがにいません。Aの顔が少しだけ分かりづらいですよ〜くらいです。
では、登場回数的にはどうでしょう。
実は、ストーリー進行に重要な影響を与える人物ほど登場していません。
例えば黒川一博。黒川翔斗の父で、Group Emma日本支部に翔斗の護衛を依頼した政治家です。
彼は、作中で一度も登場しません。出てくる時は他の人物の話題の中か、状況を説明する文の中だけです。ご覧のように、非常に影が薄いですね。
しかしどうでしょう。黒川一博は権力欲しさにALPHABETと接触し、Group Emma日本支部を裏切っています。この裏切り行為が、後に両組織の衝突を生みだす原因のひとつとなったことは言うまでもないでしょう。
次に梅おじさん。序盤で早々に殺されてしまった自動車整備場(武器調達屋)のおじさんです。
彼も登場回数が極端に少ない。しかし、プラムとアローが土壇場で使用した91式携帯地対空誘導弾……アレは梅のお節介と遊び心で調達した代物です。
この武器がなければ、プラムとアローは人工衛星『はばたき』の打ち上げを阻止できなかったでしょう。
更に土井さん。ベルやプラム、アローから『ツッチー』の愛称で親しまれた人物で、その正体は警視庁公安部。Group Emma日本支部と警視庁の仲を取り持つ存在でした。
作中では数回しか登場しませんが、そのどれも超重要な働きをしています。
大きな出来事といえば2つ。
・プラムのランエボ vs BのFDが繰り広げたカーチェイス
タイヤに銃弾を撃ち込まれ、コントロール不能となったFDは山道のガードレールに激突し、グシャグシャになってしまいます。
現場には銃弾が残っており、目撃者もいました。ここで土井さん登場です。状況をいち早く察知し、すでに取り調べを始めていた警察官に対して自身を「刑事である」と偽ります。
そこからは描かれていませんが、彼がこの事件に裏があることを隠滅したのです。
・Group Emma日本支部ビル爆発倒壊事件を事故として処理させた
ストーリー前半を締めくくる大きな事件です。本格的な抗争に突入したGroup Emma日本支部と39委員会大阪支部。
リーダーであるベルは、送り込まれてくる39委員会の私兵を拠点であるビルにおびき寄せ、ビルごと爆破することでこれを殲滅しました。
こうすれば敵を一掃できますし、自分たちの居場所も眩ませることができて一石二鳥ですしね。
さあ、ここで土井さんの登場です。
事情を知る警視庁上層部と警察庁上層部と交渉し、メディアに対して強烈な圧力をかけてもらいます。
お陰でこの一件は事故として片付きましたが、詰めが甘くかったようでベルはご立腹でしたね笑
9. 翔斗は家政婦を姉と位置付け、プラムを母にしたかった
読む方によっては少し気味の悪いお話しかもしれません。ご注意を笑
黒川翔斗には本質的な母がいません。
もちろん生物的には母がいます。しかも、現在も存命です。病弱でも何でもなく、普通の健康なおばさんです。彼女の不倫が原因で、夫である黒川一博と離婚し、家を追い出されたのです。
そんな人、誰も尊敬するはずがありません。
彼に降りかかる災難は重なります。
父であり、政治家でもある黒川一博が、裏社会の人間と関わりを持っているというのです。しかも、敵対する派閥とは言え、同僚である白山派の偉い人を殺してしまう始末。
両親ともどもクズなんです。そんな翔斗に『親がいない』と言っても、過言ではありませんね。
さて、そんな翔斗ですが、運命的な出会いを果たします。そう……プラムとアローです。
この出会いが翔斗の人生を大きく動かすことになりますが、ここでは省略。
2人と出会った当初、翔斗はアローからひっきりなしに質問攻めを喰らいます。
「彼女いるの?」「趣味はあるの?」「好きな食べ物は?」などです。しかし、翔斗は「知らない」のひと言。まともに答えようとしません。アローが少し可哀想でしたね笑
翔斗は別に内気な性格ではありませんし、コミュニケーション力に劣っていたわけでもありません。なのな、彼はアローのしつこいくらいの質問に答えなかった。何故か……? 原因は、彼が反抗期だったからではありません。
この時すでに、翔斗はアローの『異常性』に気づいていたのです。
アローの冷酷な性格を瞬時に、完璧に見抜いたわけではありません。とても漠然として、確かな根拠も何も無いです。しかし、彼の第六感が「アローは危険だ」と叫んだんですね。
この『嫌な予感』は的中し、アローは長年の付き合いがあった古着屋の店長をサクッと射殺してきます。殺す前も殺した後も、ずっとニコニコしたままのアロー。とてもじゃないけど、信用できませんよね笑
さて、翔斗にとってキ◯ガイにしか見えないアロー……。そのそばにいる無愛想なプラムが、翔斗の目にはどう映るでしょうか。
無口で眠たそうな女の人。無駄なことは話さないけど、最低限の受け答えはしっかりしている。
アローの貼り付けたような笑顔とは違って、眠たそうな顔を見せるプラムの方が、まだ自然体ですよね。
翔斗からしても、プラムはアローよりも人間味に溢れていたのです。
本題です。「プラムが危険ではない」ことが分かった翔斗は、プラムにたくさんの質問と自身の考えを投げかけます。無駄話が嫌いなプラムにとって、これは中々に苦痛だったでしょう笑
なぜ、翔斗はプラムに自身の考えを語り出したのでしょうか……?
これはとても単純です。翔斗は、無意識のうちにプラムをお母さんにしていたのです。
「ねえねえ聞いてお母さん! 今日ね〜〜」
「お母さん! 僕、大きくなったらね〜〜」
学校での出来事や、将来の夢を母親に一生懸命話す子どもの姿、想像つきますよね。翔斗がやっているのは、それとまったく一緒です。
彼には、今までそんな経験ありません。溜まっていたものが爆発したのでしょう。
それと同じで、翔斗は家政婦に対して非常に無愛想な態度をとっています。年頃の男の子に、過保護とも言えるお世話をし続ける家政婦……。
翔斗にとっては余計なお世話だったのでしょうね。いつしか、彼は家政婦のことを『過保護で目障りな姉』と位置付けていたようです。
10. 翔斗と銃。翔斗と包丁
本作において、銃と包丁は翔斗に対して重要な役割を果たしています。
普段から、翔斗は世界平和だの政治だのと騒いでいました。すると、プラムに「じゃあ私の銃を譲るから、悪い奴を殺してこい」と言われます。
そして、翔斗は銃を渡された途端に怖気付いてしまいます。
いざ銃を目の当たりにしたとき、翔斗は「自分が何もできない人間だ」ということを思い知りました。
翔斗は死に対して畏怖の念を持っていますので、自分が死ぬのも、自分が他人を殺すのもゴメンなんですよね。
話が進むにつれ、なんと翔斗はプラムに「銃をくれ」と頼むようになります。自分なりに、裏社会に足を踏み入れようとした意思の表れです。
それに対して、プラムはこれを拒否しています。なぜでしょうか。以前は翔斗に銃をあげようとしていたのに……。プラムの気分がそうさせなかったのか……? 違います。
もちろん、ちゃんとした理由があります。
プラムは、一度目で翔斗が銃を持つことに恐怖心を抱いた時点で、彼が裏社会に相応しくない存在であると断定したのです。
だから、二度目に翔斗が「銃が欲しい」と頼んだ時は拒否したのです。判断や思考力にブレも躊躇いも許される世界ではありませんからね。
さて、ここからがメインです。
銃と包丁には視野という要素があります。
どういうことか?
銃と包丁には、用途の選択肢の幅に僅かな差があるんです。
それでは、この2つの用途を見てみましょう。
銃
包丁
ほとんど一緒ですが、包丁には、銃にはない用途「料理ができる(生産)」があります。
この「料理ができる」という点が、銃と包丁の間にある唯一無二の決定的な差です。
銃はどこまで行っても人を殺す道具でしかありません。殺さずとも人を傷つけますし、持っているだけで恐怖心や権力、抑止力のようなものさえ与えます。
対して、包丁は人を殺しもするし生かしもする。使い方を極めれば、料理を作るための道具として、不特定多数の人に対して幸福を生産することができます。
翔斗は、プラムとアローが家に訪れるまで、まともに料理をしたことがありません。それどころか、家政婦が料理している姿すら、まともに観察したことがないのです。
銃を手にしたとき、翔斗は怖気付くだけで考えに変化がありませんでした。
対して、包丁を手に取ったとき、彼は料理(生産)を始めた。その最中で、指を軽く切ってしまいます。生産の過程で、意図せず自分を傷つけてしまったのです。しかし、翔斗は応急処置をした後、料理を作り続けます。
初めて、彼の視野(生き方の幅)が広がった瞬間です。
11. 子どもでいたい大人と大人でいたい子ども
作中に登場する翔斗以外の主要人物のすべては大人です。逆に、翔斗のみが子どもです。
プラムもアローも、ベルも梅おじさんも。どことなく子どもっぽさを感じさせる言動が見受けられます。彼らは皆、どうにかして無邪気になろうとしているんです。仕事が忙しくて辛い。子どもみたいに、責任を負わなくていい立場に戻りたい。せめて一瞬でも、子どもでありたいという気持ちが、無意識のうちに行動に現れています。
翔斗はその逆です。少しでも早く大人になりたい。どうにかして賢くなろうとしています。
子どもが抱く、大人という生き物の理想像に近づきたがっているんですね。だから、どことなく頭のいいような、難しい質問をプラムにぽいぽい投げつけていたのです。
12. 全てを捨て切った大人と、全てを捨て切った気でいる子ども
11のつづきになります。
実は本作、黒川翔斗と黒川一博以外、全員偽名です。
プラムとアロー、ベル、ビットなどは言うまでもないでしょう。敵として登場したAとB、そしてCも同じです。コードネームってやつですね。
なんなら、エマさんも偽名です。本名を出して生きていける世界ではありませんしね。自動車整備場の梅さんも偽名。もっと言うなら、公安警察の土井さん。彼も偽名です。
このように、大人たちは皆、偽名を使って活動しています。
偽名ばっかり! なぜ……?
偽名……すなわち、名前を捨てているのです。これは『千と千尋の神隠し』に強烈な影響を受けています。
名前は個々人の固有性を象徴しています。
つまり、名前を失うことは自分自身という個人を失うということ。加えて、偽名を使うということは、自分自身という個人とは全く別の存在として、第二・第三者から規定されるということになります。
偽名(自分を捨てた人たち)には、帰る場所がありません。永遠に、偽名の名付け親の支配下として動く運命にあります。彼らは皆、自分を捨てて戦っていたのです。
逆に、翔斗やその父である一博は本名です。
もう簡単ですね。
翔斗は「自分は本気で世界を平和にしたい!」と理想論ばかり並べておきながら、実際は家にこもって携帯をいじっているだけ。帰る場所があるし、安全な立場にある。そんな人が、自分を捨て切っているとは言えません。
黒川一博はまた別の意味で、自分を捨てきれませんでした。
そう、権力になびいてしまったのです。自身の意思が暴走してしまったことで、欲にしがみつき、彼はGroup Emmaを裏切ります。
自分をもっと安全な場所に移したいと考えてしまった結果ですね。
本日はここまで! な、長い……!!
まだだ、まだ終わらんよ!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!