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迷子の句読点
迷子の句読点

【第四十話】情報

公開日時: 2024年9月16日(月) 10:00
文字数:2,230







「言え。誰の差し金だ」


「………」


「隊長、コイツら口を割りません」


「始末しろ。問題ない」


「了解」





******************






 21時40分……種子島西之表港。

 やや荒れた風の中、暗闇に包まれた港に、ランエボは上陸した。

 


「さーてと、任務開始ね」


「ああ。とりあえず集合場所に行くぞ」


「はーい」


 ライトを前照灯にしなければ、一寸先も分からないほどの暗闇の中を進むランエボ。ベルに指示された通り、港からは離れたコンテナターミナルの付近の地点に到着したふたりは、周りを確認しながらランエボを降りた。

 その手には銃が握られている。すでに敵地へと侵入したのだ。事前にこちらの動きを察知されていたら、39委員会の私兵が待ち伏せしている可能性もある。

 細心の注意を払い、定められた集合地点に足を運んだプラムとアローは、周りに敵が潜んでいないことを確認すると、銃を懐にしまった。


「大丈夫みたいね」


「だな」


 アローはスマートフォンを取り出すと、電話のマークを押して耳に当てた。電話の呼び出し音が、荒れた風にかき消されていく。


「もしもし、リーダー。お疲れ様でーす! ハイ、予定通り集合地点に到着しました。ハイ、ハイ、了解でーす!」


 短い会話を済ませ、アローは耳からスマートフォンを下ろした。


「すぐ来るってさ」


 数分後、連なるコンテナの陰から、ベルがビットと共に姿を現した。


「あ、お疲れ様でーす!」


「お疲れッス」


「うん。ふたりも長旅ご苦労様」


 ベルは何の変哲もない、いくつも置かれたコンテナの内、少し大きめのコンテナの中にふたりを招き入れた。そのコンテナの中身はガランとしていて何もなく、あるのは暗闇を照らしてくれる小さなライトだけだった。


「谷山港まで車で行くの、キツかったでしょ」


「いえ、全然」


 キッパリと答えるプラム。ベルは一瞬、安堵の表情を浮かべたが、それはすぐに曇った。


「来たばかりで悪いんだけど、悪いしらせがあるわ」


「なんですかー?」


 アローが聞くと、ベルではなくビットが応えた。


「工作班がやられた」


 まるで稲妻のような衝撃が、プラムとアローを襲った。


「……何人やられたんスか?」


「全員よ」


 連絡が途絶えたことと、隠しGPSの反応が消えたことが証拠となったと、ベルは言った。重苦しい空気が、薄暗いコンテナに充満していく。

 

「状況は深刻よ。39委員会やつら、宇宙センター付近にかなり厳重な警備を敷いてるわ。内部チェックも厳しくて、工作班の活動もすぐにバレた」


「連中も本気ッスね」


人工衛星『はばたき』を打ち上げが成功すれば、天下が取れるもの。本気にもなるわよ」


 ベルによると、工作班の工作活動は全て失敗に終わった。成果といえば、彼らが収集したふたつの情報くらいだった。ふたつしかないとはいえ、今はこれが最大の手がかりだ。

 そのふたつの情報を、ベルはゆっくりと説明し始めた。


「ひとつ目は、宇宙センターの警備員が、39委員会に雇われた傭兵部隊であることよ」


「傭兵部隊? どこのですか?」


「メープル・コープよ」


「……!」


 ベルが発した組織名に、思わずプラムとアローは固まった。鳥肌が立つアローは、いつの間にかベルに聞き返していた。


「それって、アレですか?!」


「Maple Corporation。アローの想像してる通りよ」


「メープル・コープまで出てきたんスか……」


 より一層重苦しくなる空気。それも無理はない。

 Maple Corporation……通称『メープル・コープ』はアメリカ、フランス、カナダに拠点を置く民間軍事会社である。

 その強さは一国の軍隊をも凌ぐと言われており、任務に対する冷酷なまでの徹底ぶりは、陰で『狂人集団』と言われるほどである。


「ヤツらが相手じゃ、ウチの部隊でも部が悪い」


 腕を組み、唸るベル。コンテナの外では依然、風が吹いている。風はコンテナに降りかかり、コンテナ内で重い音に変わって4人に伝わる。その音が、さらに空気を重くしていく。

 しかし、そんな悲痛な雰囲気など気にも溜めていないのか……埃を風で吹き飛ばすかのごとく、プラムが口を開いた。


「で? ベル姉。2つ目は?」


「え?」


「2つ目の情報ッスよ。工作班が頑張って2つ集めてくれたんでしょ?」


「あ、あぁそうだったわね」


 ハッとしたベルは、2つ目の情報を説明し始めた。


「これは情報というより報告よ。工作班は最後まで口を割らなかった。それだけよ」


 簡潔な言葉。しかし、プラムもアローも、冷静なビットでさえも、眉をひそめていた。ベルは、静かな哀しみに満ちた声で続けた。


「メープル・コープの拷問が残忍なことで有名なのは知ってるでしょ? そんな仕打ちの中、工作班は誰ひとりとして口を割らなかった。これがいかに偉大なことか……」


 ビットが静かに目を閉じた。切なささえ見て取れるその表情を、アローは黙って見つめていた。そして、いま一度、ベルの目を見る。


「ベル姉。残ってるのはアタシたちと実行部隊だけなんですよね?」


「ええ」


「どうするんスか?」






 …………………。






 風が止んだ。

 ベルは、いつの間にか鬼のような形相に変貌していた。


「もはや穏便な手は使えないわ」


 ベルの冷たい声。ビットが、わずかに口角を吊り上げた。


「戦争ですか。リーダー」


「散々やられておいて、今さら静かに済ませる気なんて毛頭ないわよ」


 

 ビットがさらに微笑んだ。不敵な笑みだ。



「残った部隊で突撃するわよ。目標は『はばたき』の破壊のみ。邪魔する者はすべて蹴散らす。プラム、アロー」


「はーい!」


「ウッス」


「あなたたちも作戦変更よ。よく聞きなさい」







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