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迷子の句読点
迷子の句読点

【第四十四話】決戦

公開日時: 2024年10月12日(土) 17:00
文字数:1,575

 男の圧倒的な握力で首を掴まれるアロー。何度も痛みつけられるも、プラムの居場所を吐かない。もはや満身創痍。微かな余力で、口に溜まった血を男に吐き出し、ニヤリと笑って見せた。


「死ね」


 男の冷たい声。突きつけられたピストルが、アローのこめかみに食い込む。


「ゥブッ……。ヘッ………」


 意識朦朧。光を失いかけた目で、アローは男を睨み続ける。その目を、男もじっと睨み返す。

 男が、引き金に指を置いた。

 そっと、指を引く………。


 



 その時だった。




「フッ………プ……ッ……」





 意識を失いかけたアローが、口を開いたのだ。


「………」


「プッ………プラム……ッ……は…………」


 引き金に置いた指が止まる。


「プラムは…………アッ」











 その瞬間、アローから笑みが消えた。











「あんたの背後うしろよ」





「!!!!!!!!!!!!」












 アローのこめかみに向けたピストル………脊髄反射で真後ろに──。




 二発の激音が、同時に炸裂した。









「定刻を過ぎました」


「……プラムとアローは?」


「…………確認できません」


 そう告げたビット。その背後には、ライフルと防弾服に身を包んだベルの部下が並んでいる。

 その数、およそ30名。皆、ここにきて表情は穏やか。これから起ころうとしていることを悟り、ベルの指示を待っている。

 ベルは目を閉じた。 そして、すぐに力強く目を開ける。


「作戦を変更。我々はこれより種子島宇宙センターに突入し、人工衛星『はばたき』の直接破壊を敢行する。総員戦闘準備」


 隊員全員が足を揃え、敬礼。素早く整った動きで車両に乗り込む。ベルもハイエースに乗り、イヤホンを装着する。後部座席、ベルの隣に座るビットが無線機を構えた。


「各班発進せよ」


 外見は一般車両と何ら変わりのない車が、砂埃を立てて猛スピードで走り出した。


「散開」


 無線を挟んだビットの指示で、5台の車が散り散りに分かれていく。その様子を車内から見守るベルは、どこにも焦点を合わせずに呟いた。


「頼むわよ……」


 その時、ひとつの無線が入った。


「こちら3班! 敵の待ち伏せに遭った!」


「なんですって?!」


 その瞬間、ベルとビットが乗るハイエースにも鉄と鉄がぶつかり合う衝撃が走った。前を見ると、防弾仕様のフロントガラスに生々しい弾痕が。そして……真正面から軍隊車両が1台、機関銃を乱射しながら突進してきている。


「メープル・コープです!」


 ハンドルを切り、辛うじて機関銃の射線から逸れたハイエース。蛇のような動きで、ハイエースの背後をメープル・コープの車両が猛追する。


「まだ制限区域外なのに! 気づかれたの?!」


「リーダー! 頭を下げて!」


 ビットはすかさずライフルを取り出すと、バックドアガラスの向こうに見えるメープル・コープの車両に向けて発砲を始めた。粉砕される窓ガラス。激音が鳴り響く。

 ビットの的確な射撃により、敵車両の勢いが弱まる。やがて弾が尽きると、ビットは頭を下げつつ、素早い動きで弾倉を装填した。再び後方に迫る敵車に向けてライフルを連射し、運転手に大声で指示を送る。


「先にある茂みまで行け!」


「了解!」


 その傍ら、ベルは伏せた状態でイヤホンと無線機を構えて叫んでいた。


「各班状況を報告して!」


「こちら1班! 2班は全滅! 現在3班と合流して応戦中!」


「耐えるのよ! すぐ行く!」


 その時、大きな音と共に、ベルの体が大きく傾いた。


 …………?! 


「タイヤをやられました!」


 制御不能に陥ったハイエースは、そのまま急ブレーキ。車体を敵車両に対して横向きに停め、5名全員が車外に飛び出した。

 ハイエースを盾に、敵車両に向けて銃弾の雨を降らせる。これにはメープル・コープも怯んだのか、車を大きく旋回させてすぐ近くの茂みに突っ込んで行った。

 しかし、茂みの中から、負けじとベルたちを狙い撃ちしてくる。


「くそ……! 進めない!」

 
















 どれくらい時間が経ったのだろう。

 少し、夢を見ていた気がする。

 

 


 かすかな息遣い。


誰のだ……?

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