男の圧倒的な握力で首を掴まれるアロー。何度も痛みつけられるも、プラムの居場所を吐かない。もはや満身創痍。微かな余力で、口に溜まった血を男に吐き出し、ニヤリと笑って見せた。
「死ね」
男の冷たい声。突きつけられたピストルが、アローのこめかみに食い込む。
「ゥブッ……。ヘッ………」
意識朦朧。光を失いかけた目で、アローは男を睨み続ける。その目を、男もじっと睨み返す。
男が、引き金に指を置いた。
そっと、指を引く………。
その時だった。
「フッ………プ……ッ……」
意識を失いかけたアローが、口を開いたのだ。
「………」
「プッ………プラム……ッ……は…………」
引き金に置いた指が止まる。
「プラムは…………アッ」
その瞬間、アローから笑みが消えた。
「あんたの背後よ」
「!!!!!!!!!!!!」
アローのこめかみに向けたピストル………脊髄反射で真後ろに──。
二発の激音が、同時に炸裂した。
「定刻を過ぎました」
「……プラムとアローは?」
「…………確認できません」
そう告げたビット。その背後には、ライフルと防弾服に身を包んだベルの部下が並んでいる。
その数、およそ30名。皆、ここにきて表情は穏やか。これから起ころうとしていることを悟り、ベルの指示を待っている。
ベルは目を閉じた。 そして、すぐに力強く目を開ける。
「作戦を変更。我々はこれより種子島宇宙センターに突入し、人工衛星『はばたき』の直接破壊を敢行する。総員戦闘準備」
隊員全員が足を揃え、敬礼。素早く整った動きで車両に乗り込む。ベルもハイエースに乗り、イヤホンを装着する。後部座席、ベルの隣に座るビットが無線機を構えた。
「各班発進せよ」
外見は一般車両と何ら変わりのない車が、砂埃を立てて猛スピードで走り出した。
「散開」
無線を挟んだビットの指示で、5台の車が散り散りに分かれていく。その様子を車内から見守るベルは、どこにも焦点を合わせずに呟いた。
「頼むわよ……」
その時、ひとつの無線が入った。
「こちら3班! 敵の待ち伏せに遭った!」
「なんですって?!」
その瞬間、ベルとビットが乗るハイエースにも鉄と鉄がぶつかり合う衝撃が走った。前を見ると、防弾仕様のフロントガラスに生々しい弾痕が。そして……真正面から軍隊車両が1台、機関銃を乱射しながら突進してきている。
「メープル・コープです!」
ハンドルを切り、辛うじて機関銃の射線から逸れたハイエース。蛇のような動きで、ハイエースの背後をメープル・コープの車両が猛追する。
「まだ制限区域外なのに! 気づかれたの?!」
「リーダー! 頭を下げて!」
ビットはすかさずライフルを取り出すと、バックドアガラスの向こうに見えるメープル・コープの車両に向けて発砲を始めた。粉砕される窓ガラス。激音が鳴り響く。
ビットの的確な射撃により、敵車両の勢いが弱まる。やがて弾が尽きると、ビットは頭を下げつつ、素早い動きで弾倉を装填した。再び後方に迫る敵車に向けてライフルを連射し、運転手に大声で指示を送る。
「先にある茂みまで行け!」
「了解!」
その傍ら、ベルは伏せた状態でイヤホンと無線機を構えて叫んでいた。
「各班状況を報告して!」
「こちら1班! 2班は全滅! 現在3班と合流して応戦中!」
「耐えるのよ! すぐ行く!」
その時、大きな音と共に、ベルの体が大きく傾いた。
…………?!
「タイヤをやられました!」
制御不能に陥ったハイエースは、そのまま急ブレーキ。車体を敵車両に対して横向きに停め、5名全員が車外に飛び出した。
ハイエースを盾に、敵車両に向けて銃弾の雨を降らせる。これにはメープル・コープも怯んだのか、車を大きく旋回させてすぐ近くの茂みに突っ込んで行った。
しかし、茂みの中から、負けじとベルたちを狙い撃ちしてくる。
「くそ……! 進めない!」
どれくらい時間が経ったのだろう。
少し、夢を見ていた気がする。
かすかな息遣い。
誰のだ……?
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