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迷子の句読点
迷子の句読点

【第二話】リーダーの部屋

公開日時: 2024年6月11日(火) 17:00
文字数:804

 地下駐車場に車を停め、車から降りたプラムは、アローと共にすぐ近くのエレベーターに乗り込んだ。5のボタンを押し、そのまま素早くドアを閉じるボタンに指を滑り込ませる。やがて、分厚いスライドドアが閉まり、蛍光灯に照らされた天井から軽い重みが頭と肩にかかってきた。

 アローは、おもむろにポケットから櫛を取り出した。エレベーター内にある大きな鏡と対面し、中に映る自分と向き合った。肩まで伸びる、絹のように艶のある髪を丁寧に整えるアローを横目に、プラムはスマートフォンを取り出し、ゲームアプリを開いた。その様子を鏡越しに見ていたアローは、櫛で髪を解く手を止めずに、呆れた様子でプラムに言った。


「アンタまーだそのゲームやってたのね」


「まだって何だよ。面白いんだぞコレ」


「ただのブロック崩しじゃないの。しかももう5階に着くんだから、やってる暇ないでしょ」


「ログインボーナスで3列まとめて消せるアイテムが貰えんだよ」


 やがて頭と肩にかかっていた軽い重みがスッと消え、一瞬だけフワッと体が浮くような、浮遊感がふたりに伝わった。家のチャイムのような音が鳴り、分厚いスライドドアが開く。目の前に広がる長い廊下の突き当たり。なんの変哲もないドア。少し狭いが、リーダーの部屋だ。ふたりはそこに向かって歩き出した。右手には会議室、左手にはトイレや清掃用具の倉庫。


「なーんも変わってないな」


 プラムのつまらなそうな声が、廊下中に反響する。


「1年ぽっちで何が変わんのよ」


 ずっとスマートフォンをいじり続けるプラムを横目に、アローは胸元のネクタイを正しながら、マイペースに歩く彼女と歩調を合わせた。


 ドアの目の前まで来て、ようやくプラムもスマートフォンポケットにしまい、ネクタイの根元を締め直した。ドアを軽くノックし、数瞬待つ。


「どうぞ」


 部屋の中から聞こえてきたのは女性の声。滑らかでありながら凛とした美声が聞こえてきた。

 ふたりは、ドアを開けて入室した。

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