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迷子の句読点
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【第三十七話】野望

公開日時: 2024年8月31日(土) 21:00
文字数:2,298

 会議室を後にし、早速任務の準備に取り掛かるプラムとアロー。プラムが運転するランエボは高速道路に乗り、鹿児島に向けて疾走していた。


「えーっと………人工衛星の打ち上げは……」


「約2週間後とかじゃなかったか?」


「あ、ほんとだ書いてある」


 助手席で、ベルに渡された作戦概要資料を読み込むアローは、頭をポリポリと掻きながら、ホッチキスで留られた紙をぺらりとめくった。


「ほえ〜! 壮大ねーアイツら」


「なんて書いてあんの?」


「なんか、人工衛星にチップ? みたいなのを埋め込んでるんだって」


「ちっぷ?」


「そ。ご飯のふりかけの一粒よりも小ちゃいんだけど、すっごい頭のいいコンピュータの頭脳として機能してるんだって」


「すっごい頭のいいコンピュータだぁ?」


「そうそう。もうホンット頭いいんだって」


「ふりかけより小さいのに頭いいのかよ」


「なんか、インターネットをぜ〜んぶ一瞬でハッキングできるんだってさ〜」


「すっげーな。なんかヤバそう」


 2人に詳しいことは理解できないが、どうやら人工衛星に積み込まれたコンピュータチップに、39委員会の野望が秘められていることは確かなようだ。プラムはあくびをすると、サービスエリアに入るために進路変更の合図を出して、ハンドルを少しだけ左に切った。駐車場にランエボを停め、降車する。曇り空の下、昼食のためフードコートに向かう。


「だいたい、ハッキングしてどうすんだ?」


「そりゃあ、自家製ウイルスに感染させてインターネットを我が物にするんでしょ」


「そんなんで世界征服になるのか?」


「なーに言ってんのよ。今の時代、情報が遮断されたらオシマイなのよ? 飛行機は道に迷って墜落、良くても不時着。船は航路を見失って海の上で立ち往生。あんたのランエボのナビも意味不明な道案内を始めて、使い物にならなくなるわ」


「ほお」


「証券ウンヌンではシステム障害で取引が止まるし、銀行ATMがぶっ壊れて給料を引き落とせなくなる。スーパーのセルフレジも、医療関係のシステムもストップ。つまり、ヒト・モノ・カネの流れが止まるってことね」


「なるほど」


「それだけじゃないわよ。テレビもラジオも砂嵐しか流れなくなるし、電話も繋がらない。スマホで動画を見たり音楽を聞いたりすることもできなくなる。インフラが片っ端から死ぬわね〜」


「え?! テレビとスマホ使えなくなんの?!」


「そーよ。あったりまえじゃない」


「朝7時のニュース占い見れなくなっちゃうじゃん!」


「どこ心配してんのよアンタは〜!」


「だって、7時の占いはあたしの楽しみなんだぞ?!」


「知らないわよも〜。それよりもナビが壊れるとかの心配しなさいよぉ」


「いや、ナビは別に。いざって時はアローが助手席でペースノート読んでくれればいいし」


「ラリー選手権じゃないのよ」


 たくさんの客で賑わうフードコート。プラムとアローは丸いテーブルに席を取り、各々好きな食べ物の食券を買って、再び席に戻ってきた。


「けど、39委員会やつらはもっともっと戦争を起こして金儲けしたいんだろ? インターネットを使えなくすることと何の関係があるんだ?」


「さっき言ったことのまんまよ。流通を掌握するってことは、戦争で使われる兵站や兵器、情報の流れを独占できるってこと」


「うんうん」


「管制塔がデクの棒化して、スクランブルの警報が鳴らなくなる。戦闘機に哨戒機、救難機が飛べなくなって、世界中の制空権は消滅する。こうなると、潜水艦なんかは海に潜ることさえできなくなるわね」


「おお〜」


「みんな大好き核ミサイルも打てなくなって、燃えないゴミになる。つまり、アタシ達はみんな、銃を持った原始人になっちゃうってこと」


「へ〜」


「世界中が混乱の嵐に巻き込まれて、約100年ぶりの世界恐慌が開幕。企業が倒産しまくって、失業者で溢れまくって、餓死者が出まくって、暴動が起きまくって、紛争が起きまくって、たくさんの武器が消費される。39委員会の狙いは、世紀末化した世界の武器商人になることじゃないかな」


「武器商人ねぇ」


「そ。死の商人って言ってもイイわね。ガン◯ムの世界でいう、アナハイム・エレクトロニクスなんかがまさにそうじゃん」


「ほぉー」


「もぉ、ちゃんと聞いてんのあんたぁ〜?」






 *********


「ホントに良かったんですか? センパイ」


「ん? 何が?」


 モニターの青白い光が、エマ、ベル、ビットの3人を照らす。ベルの不安げな表情を横目に、エマは資料を読み返している。


「こんな大事な任務に、プラムとアローを起用するなんて……」



 すると、エマは資料を静かにデスクに置いた。



「あら、私の判断に不服でも?」






「い、いえ……! けど、センパイがこんなに大胆になってるところを見てると、なんだか昔を思い出してしまって……」





「ベル。私たちだって、コンビだった頃は失敗ばかり重ねていたでしょ」


「はい……。私のせいで、先輩の顔に……」


「アレは、この傷だけで済んでラッキーだっただけよ。別に、今さら振り返ることでもないわ」


 湿ったような、涼しいような。しんみりとした空気が、ふたりの間に満ちていった。


「ベル」


「はい?」


「上司として、あの子たちをしっかり見ていてあげなさい」


「はい。じきに私も、ビットと一緒に鹿児島に飛びます」


 ベルト共に、エマの視線はビットに移った。


「ふふ、頼もしいわね。ビットくん、いい上司を持ったでしょう」


「はい。恐悦至極に存じます」




「ふふふ、相変わらずマジメね」


 エマは視線をベルに戻すと、不敵な笑みを浮かべた。


「この作戦が無事に終わったら、みんなで飲みに行きましょう。色々と話したいことがあるのよ。あなた達にも、あの子たちにも、次の人生を歩んでもらうことになりそうだし」

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