「サヤ……東京に来ていたの?」
「合わせてもらった」
相変わらずのデュオジェット。
前回のツアー中、俺が初めて危機感を覚えたberry smoke《ベリースモーク》のギタリストだ。
サヤは俺のTシャツの裾を引っ張る。
「早弾き、練習した!」
「サヤ、早弾き練習したの?」
サヤは無言でギターを取り出すと弾き始める……速い、マジかよ。
「どう?」
サヤは笑顔で俺を見た。
「サヤ凄いよ!」
「でも……」
「どうしたの?」
「なんか違う……」
サヤのフレーズは速く弾くために同じ弦の移動が多い。俺自身も最速で弾くならそうするのだけど、音階に差をつけた無機質なフレーズはそれだとタッピングでもしない限り出来ないだろう。
実際俺も殆どそういうフレーズはタッピングを使う。
「もしかして、これ?」
俺はタッピングをしてみせた。バッキングとソロを混ぜるようなサヤはタッピングをしていない。
「それ!」
「サヤの曲には合わない気がするけど……」
「ピック消えた!」
「親指ではさむの、やめるときだす!」
これ結構練習したなぁ……。
「タッピングじゃなくてピックの事?」
サヤは頷いた。
「でもこれは結構練習いるかも……」
そういうと、サヤはタッピングしてみせた。
って出来るのかよ!
その瞬間、ピックを落とした。
でも、なんでこいつこんなに上手いんだろ?
持ってるギター的に親がミュージシャンとかなのか?
「サヤはギターいつからやってるの?」
「20年前」
「嘘つけ!」
「嘘じゃない。生まれた時にはギター有ったから生まれる前からギターはじめてる」
胎教?でギターか……それでも一年ちょっと足りない気がするけどまぁいいか。
ギター歴結構長いんだな。色々な要素でこいつには勝てない気がするんだよな……。
ただ、今日の衝撃はそれだけじゃなかった。
ライブが始まり、berry smoke《ベリースモーク》のライブが始まると、曲の途中でサヤはギターを持ち替えた。
アイバニーズ。ピックアップがディマジオが搭載されている。
バッキングギターとしては俺としては正解だけど、berry smoke《ベリースモーク》の音じゃないだろ。
サヤのバッキング、コードの音がはっきりすると更によくわかるセンス。
やっぱり化け物じゃねーか。
どんな表現力だよ。
所々俺のギターに似てるが、アレンジが勝てる気がしない。俺はサヤのギターに心を奪われてライブが終わるまで立ち尽くした。
「まーちゃん、つぎだよ!」
「う、うん」
ひなの声が少し遠くに聞こえ、さっきの音がまだ頭に残っている。
「ライブ、切り替えないと」
自分に言い聞かせると、ステージに向かい、集中した。
俺の音、ダメなのか?
いや、この曲では最善をつくしている。
負けるはずは無い、その瞬間いつもより強くクラッシュが鳴る。そしてベースのリズムも腰に響く。
ひな……そうだな。俺には2人も凄いメンバーがいるんだ。
"キラの助"のピッキングハーモニクスもいつもより響いた気がした。
そうだな、お前も居る。
こうして俺は全力を出し尽くした。
♦︎
ステージを降りると、サヤが駆け寄り俺たちに言った。
「よかった!」
サヤらしく、1言だけだった。だけど、この無関心ガールは本当にいいと思ってくれたのがわかった。
CDも売れご満悦の様子で西田さんも声をかけてくれる。
「今日のライブはハラハラしたよ……でも、凄くいいライブだった」
「やったやん! うちらの成長やな!」
「大分しっかりまとまったよねー」
西田さんは、真剣な顔で言った。
「一つ君たちに相談が有るんだけど良いかな?」
「はい、どうしたんですか?」
「正直、今のままだとGUN WITH A MISSION《ガンウィズアミッション》とするのはかなり厳しいと思う……」
「それは……わかってます。"サカナ"とは違いわたしが薄くなるからですよね?」
「そう、音の完成度でインパクトを与えるバンドでもあるから差別化されずお客さんに2番手感が出てしまうだろうね……」
まぁ、対バンしてこれからのを印象づけるのがほぼ目的になってしまっているから、仕方の無い事かもしれない。
「そこで、サヤちゃんにその日サポートしてもらおうとおもうんだけどどうかな?」
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