俺の音楽ここにあります

ギタリストのTS転生ストーリー
竹野こきのこ
竹野こきのこ

もう一人の天才

公開日時: 2020年10月26日(月) 16:56
文字数:2,189

 待ち合わせの時間になり、西田さんたちやかなと合流した。


 "江坂ムーサ"俺たちの今日のステージだ。

 俺は今日の出演者に書いている別のバンドがあることにきづいた。


「あれ?  西田さん、今日は対バンいるんですか?」


「ちょっとムーサのオーナーに頼まれてしまって、でも結構すごいバンドみたいだよ?」


 俺たちと同じく前座で出るバンドとして、参加している様だった。


 berry smoke(ベリースモーク)洋楽に居そうなバンド名だな。


「なんでもギターの子だけが、高校生なんだけどすごいらしいんだよ、まぁまひるちゃんを超える事はないだろうがね!」


 ギターがすごいのか……

 出演順は俺たちの後、結構自信があるみたいだな。


 サカナのリハが終わると、"berry smoke"のリハの準備が始まろうとした時、そこに置かれたギターに目を奪われた。


 グレッチのデュオジェット、しかもあれはヴィンテージ?  いやいや高校生が持ってるギターじゃないだろ。


 そこに立った、制服を着た黒髪の女の子は、グレッチを手にとると、アンプにスイッチを入れた。


 俺はその、荒削りかつ耳に残るサウンドに目を奪われ立ち尽くした。


 マジかよ。

 俺は西田さんを見ると目があった、西田さんさんも少し苦笑いを浮かべた。


 他のメンバーは"サカナ"と同じくらいの歳の男性、安定感の有る詰められたハイクオリティのサウンド。


 そのメンバーを持ってしても有り余る存在感、あのギターのせい?  いやいやあんなクセものギターを弾きこなしてる時点で化け物だ。


「こんなのが高校生でいるのか……」


 俺は、交代のため楽屋でギターをだすと、"berry smoke"が戻って来たので、テンションが上がり話しかけた。


「今日はよろしくお願いします!  ギター、すごいですねっ!」


「どーも……」

 無表情でそう言うとギターを置いた。


 ……あれっ?  それだけ?


「すいません、サヤはいつもあんな感じなんです」


 メンバーの人がフォローした。

 なんとなく、俺は火がついた。グレッチ?  確かにすごいかもしれないが、俺には"マスたん"がいる……。


 リハーサルはいつも以上に気合が入り、最高の音だ。


「まーちゃん、今日はめっちゃ弾くやん!  さっきのギターの人が気になったん?」


「あはは、ばれた?」


 リハが終わると、サヤは壁にもたれかかり地面に座ってスマホをいじっている。


 制服のミニスカートから、パンツがみえる。

 こんなにテンションあがらない女子高生のパンチラがあるのかと思うくらい一人の世界に入っている様だった。


 俺が出ようとするとサヤはつぶやいた。


「あの子いい音ね……」


「ギターの事?」


 俺の問いを無視して、サヤはまたスマホを弄りだした。


 なんなんだよっ!

 無視かよ!


 ちょっとイラッとしながらホールに戻ると、時子さんがいた。


「今日はギターが上手い子ばっかり!  練習しなきゃなぁ」

 時子さんが珍しくぼやく。


「いやいや、時子さん充分上手いですよ!」


「ところで、その子ともう仲良くなったの?」


 えっ?っと思って振り向くとすぐ後ろにサヤが居た。


「いや、仲良くなってないですよ……イテテ」

 サヤは無表情のまま俺をつねった。

 なんでつねるの?  この子謎すぎてつらい!


 その後も、サヤは俺について来た。


 "berry smoke"のメンバーがそれをみると

「サヤ、その子が気に入ったの?」


「別に……」


 どこかの女優ですか?

 俺は意を決して、直接話しかけた。


「サヤさん、何か用なんですか?」


 サヤは、意表を突かれたのか目が泳いでいる。俺は追い討ちをかけた。


「話すなら話してください!」


「一緒にバンド…したい」


 ???


「楽しそう」


 うちのバンドに入りたいの?

 サヤはコクリと頷いた。


「サヤさん上手いし面白そうだけどむりだよ?」


「ギター弾ける」

 慌てた様に言う。


 そこじゃない!  確かにめちゃ上手いけど!

 あーっなんだ?!  会話にならんぞ!


「わたしら名古屋から来てるから、大阪のサヤさんと一緒にするのは難しいと思う」


「しょんぼり」


 いや、それセリフじゃないから!と思いつつ、

「また、一緒にライブしよ!」

 そう言うと、サヤはちょっと目を見開いた。


 サヤは悪意があったわけじゃないんだな。


 それから俺はライブまでの間、サヤと話した。相変わらずカタコトみたいな感じだったが、少しうちとけた気がした。



 スタートの時間になり、ライブに向かう途中、相変わらず無表情だったが、サヤは俺に手を振ると、俺も振り返した。



 江坂ムーサ、キャパはいつもより少し広く、ステージが高い。


 曲がはじまりギターをかき鳴らし、歓声が返る。

 ライブが進むにつれ、大阪での思い出が蘇ってきた。


 これから先、何人と出会い、何人に届くだろうか?  そして俺は1つのメッセージをギターや声に乗せた。


 サヤ、きっとまた、どこかで一緒にしよう、君のギターには、人を虜にする力があるとおもう。


 この気持ちに"マスたん"が答えてくれた気がした。



 ライブが終わり汗まみれの俺にサヤは笑って手を差し出した。


 なんだよサヤ、ちゃんと笑えるじゃん。


「サヤは笑顔の方がいいよ!」


 楽屋にまで聞こえるサヤのギターが、その日はずっと響いていた。



 ♦︎



 ライブを終え、外にでるとハードケースを持ったサヤが待っていた。


 よく見ると、口をもごもごさせている。


「サヤ、またね!」


 俺がそういうと、

「な、名古屋行くから。またライブ、しよう!」


 サヤは笑顔でそう言った。

 サムズアップして別れを告げると、俺たちは、かなのおばあちゃんの家に帰った。

◯用語補足

・グレッチ

ギターのメーカー。かのブランキージェットシティーのベンジーが使ってるのもグレッチ。

椎名林檎の歌ででてくるグレッチもこれ!


・デュオジェット

ビートルズのジョージハリスンが使って他のがこれ!個人的には相性がいいエフェクターがあんまりないイメージです!※偏見込み


・キャパ

ライブハウスに入る人の量


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