俺たちはツアーの最終日を迎える。
地元名古屋。中学の同級生達や、"スターリン"のメンバーも来てくれる事になった。
「それでは最終日、頑張って行こう!」
西田さんは"サカナ"と俺たちに声をかけた。
気づけばこの身体になってからのこの半年、長い様で短かった。
思い出が沢山出来た分、まだ半年しか経っていないのかとも思うけど、過ぎてみるとあっという間にも感じる。
リハーサルが終わり、ライブハウスがオープンして人が次々と入って来た。
「あー! 雅人! ヒロタカさん!」
「おぅ! 今日はツアーでの成長を楽しみにしてるぞ!」
「集客ヤバイっすね! 4月またよろしくお願いします!」
その後もゆきちゃん、吉田くん、拓也、田中さん、リクソンさんと次々と関係のあった人が来ている。
ひなは物販ブースから手を振って迎えた。
俺は見たことのある、大人の男性を見つけ、誰だったかな?と考えていると、ひなが驚いた。
「……パパ……」
ひなのお父さんだ。
俺はひなパパは活動をあんまり良く思っていない印象だったから来てる事が意外だった。
そりゃ、こんな可愛い娘がいたら反対したくもなるだろう。
「パパ、来てくれたんだ……」
「娘が真剣にやっている事なんだ。理解は出来るかわからないけど、一度見ておきたいと思ってな……」
ひなパパはちゃんとひなの事を見ようとしている。些細な事なのかも知れないけど、凄く大事な事なんだと思う。
すると、ひなパパは続けた。
「木下さんも、山本さんも来るみたいだよ」
えーっ!!
まさかの家族大集合となってしまった。
でもこの年の親と仲がいいのって女の子ならではの様な気もするな。
まぁ雅人の家みたいな特殊な感じなら話は別なんだろうけどね。
それから俺たちは、出演の準備の為にバックステージに向かった。
♦︎
俺たちは上着を脱ぎ、ステージに向かう。
先に出るかなの白いスニーカーが、ステージへの道しるべにみえた。
後ろを向き、ひながパンプスを脱ぐのを確認すると、PAに向け合図を送る。
SEの音が、フェードアウトした。
(ひな、かな、行くよ!)
カウントを数えて、1曲めが始まると、歓声が聞こえ走馬灯の様に今までの練習が巡った。
俺がギターをかき鳴らすと、かなもひなも答える様にキレを増した。
そのやりとりは、音で会話しているかの様に感じ、音の世界に入り込んだ。
「かな、そのフレーズ始めは苦手だったよね」
「どうや? まーちゃん? 結構上手くなったやろ?」
「ひなも、いつのまにかフィルインに色が着いてる」
「この曲のフィル叩くと楽しい! そういうまーちゃんも、何か楽しそうだよ?」
「うん、すっごくたのしい!」
いつも以上にバンドの音が、一つの線となって、Tシャツに汗が吸い込まれていくように熱くなってる。
ステージには見たことある顔が沢山。
みんなそれぞれ、俺たちを応援してくれた人。
沢山の想いからのきっかけが重なって、今の音楽やステージに魅力が出て来ているんだ。
一つ一つの演出に、気持ちが入って行くのがわかる。
"恩返しできるくらい楽しんでもらいたい"
スポットライトの明かりが、ライブの最後の曲を告げる。
アルペジオを弾く、1つ一つのピックの感触が、カウントダウンしている様にさえ感じた。
ライブを終えた俺たちはホールに向かった。
汗で髪が顔に引っ付く。Tシャツだけでなく下着すらも変えたいくらいだが、今はみんなのところへ行きたい。
「ステージの進化がヤバいっすね!」
「俺も頑張らないとな!」
ヒロタカさんや雅人も声をかけてくれた。
「まひるー! ライブよかったぞ!」
「かな、ええ感じに演奏しとるやないか!」
おれやかなの家族も笑顔でそう言った。
よかった……その後ろにひなパパの姿がみえた。ひなパパはひなに近づき、落ち着いた口調で言った。
「ひなのやりたい事が本気だというのは伝わったよ……とりあえず服を着替えてきなさい」
わかりにくいけど、応援してくれているのだろう。
ここからが、本当の戦いの始まり。
だけど、俺はこの目に見える笑顔たちを沢山作り出せる曲やライブにしていきたいと思う。
みんなの期待に応えていける様に、これからも俺の、俺たちの音楽はここにあります!
鳴り止まないバンドの音を歓声が俺の中で今日もずっと響いていた。
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