バンドの良し悪しは、人によって違うのだろう。俺みたいななんでも聴くようなタイプでも理解出来ない時はある。
ただ、ステージで、音楽としてだけでなく、ライブとして魅せようと思わなくなったらそれがそのバンドが終わる時なんだろう。
60歳前後になったロックスターのライブで、体力的に限界近くなっても、限界のパフォーマンスを見せようとする姿勢は、他の人がなんと言おうと凄いと思う。
その姿勢こそがロックスターになれた理由なのだと思う。
昨日俺は、売れなかった理由がわかった気がした。
♦︎
東京でのライブ。
新宿レフト、転生前に何度もライブをした事のあるライブハウス。
だけど、そうじゃない。
俺たちは、ここで初めて"ライブ"をする、そう意気込み、俺はライブハウスに入った。
「ここって結構有名なライブハウスだよね?」
ひなは少し目を輝かせながら言う。
「数々の有名なアーティストが、デビュー前に出演してるところだよ!」
「ひなもまーちゃんも何ゆうてんの? そんな事よりその『有名なアーティストのデビュー前』と一緒に回ってんねんで? 今更緊張することはないやろ」
それもそうだ、今更緊張する必要はないな。
今日も、最高のライブを更新してシュウマイを買ってかえるぞ!
リハが始まり、各パートのゲインをとると、一曲合わせる。
なにやらホールの方で影が動き、リハが止まった。
「すいませーん! 何かトラブルですか?」
すると、スピーカーから風祭さんの声が聞こえてきた。
「ごめん、ごめん。 PA変わります!」
なんだ? PAが変わるなんて、そうそうある事じゃない。 トラブルでもあったんだろうか?
「……演出の確認はこれで大丈夫かな?」
トラブルか? とも思っていたが、スムーズにリハーサルが終わった。
楽屋に戻ると、風祭さんが入って来た。
「お疲れ様! いやー、正直"コネ"だと思って見くびっていたよ」
風祭さんはそういうと、ソファーに座った。
「俺は元々ギターをしていてね、昨日君が"ブリーズヘッド"を見たいと言った理由がわかった……」
風祭さんは見たこと無いくらいしょんぼりすると呟いた。
「昨日はあんなこと言って悪かった。 結構"ブリーズ"の曲、弾き込んでたんだろ?」
もしかして、ファンだと思われてる?
そりゃ誰よりも"ブリーズ"のギターに近いとは思うけど……。
「フォローする感じになっちゃって悪いけど、俺は太郎を否定している訳じゃ無いんだ……」
俺は無言で風祭さんを見つめた。
「俺は長い事見てきている。太郎はギターが大好きで、多分誰よりも練習してきている。本当にギターが好きな奴のギターだよ。君の耳は間違っていないそれだけは伝えておきたい」
俺は涙が溢れて来た。
「ただ、君たちが音楽でしたい事は何か? それを一度考えて見てほしい。 昨日の様子を見てもわかるだろ? あいつは今の環境が好きでやってる。ある意味、無意識で夢が叶ってるんだ」
「それは、どういう……」
「価値観は人それぞれって事さ……俺はもっとあのクオリティを使い何かをしようとしてほしいけどそれは俺のエゴだ」
風祭さんは、そういう風に思っていたのか。
「音楽は企業じゃない。 本人が求めることをしていけばいいと思う。 だってロックは自由だろ?」
ロックは自由、本当の自由か……売れるためや人気を取る為にしたいのはいい。ただ、それを強制するのは違うし、自己満に近いそのスタイルを嫌だとおもうのも自由か……
「重たい話は終わり! リハ見たけど、凄くいいよ! 君たちがなりたい様に出来る努力はしてきていると思うから、自信を持ってやってくれ!」
♦︎
ライブが始まると、俺はどこか雲が晴れた様だった。
俺が今、音楽でやりたい事は沢山ある。
ツアー中一緒のベッドで寝ちゃうくらいに仲のいいメンバーと成長して行きたい。
応援や沢山の期待を寄せてくれる人達に最高の音、最高のステージを作り返したい。
ここまでよくしてくれる西田さんを"サカナ"が居なくなっても食べていける様に恩返ししたい。
迷いの無い俺のギターの振動が指から離れ、アンプからスピーカーへ。
その振動はホールに響いた。
何度も出演したはずのこのライブハウスが、初めて本当の顔を見せた様な気がした。
3人で練った曲に演出。それに応える反応。
偉大な先輩バンド達はきっとこのライブハウスがこんな感じに見えて居たのだろうか?
最後の曲、アウトロのあとの3人の息がぴったりと重なり新宿レフトでのライブの幕は閉じた。
ステージを降りたあともホールに響く歓声が「次は君たちの番だ」そう言っている様に聞こえた。
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