かなだけ泊まるのは初めてじゃないか?
普段のかなとは違いやっぱり落ち込んでる様だ。
表情の暗いかなを元気付けてやりたいのだけど、何も思い浮かばない。
「まーちゃん、辛い事が同時に来るのってほんまに辛いなぁ」
かなはベッドの上で体育座りの体勢にになると下を向いた。
俺はそっとかなの頭を撫でて呟く。
「なんでだろうね」
「うち、もういやや……」
鋼のハートを持っていると思っていたかながか弱い少女の姿でそこにいた。
「ねぇ、アイス食べよっか?」
「えっ……うん」
俺は冷蔵庫に入っていたアイスを2つ持って部屋に戻った。
「バニラと、チョコどっちがいい?」
「チョコ……」
かなにチョコのアイスとスプーンを渡して、アイスを開ける。
「この時期のアイスって美味しいよね?」
「うん、夏にアイスはええなぁ……」
「辛い事はあるけどさ。こうやって、ちっちゃな幸せ集めて行こう? 今はわたしにはアイス出すくらいしか出来ないけど」
かなは少し無理矢理な笑顔を見せた。
「かなは頑張ってるよ……」
そう言ってもう一度頭を撫でる。
「今日はもう寝よう?」
かながうなづいたのを確認して、俺は電気を消した。
かなは俺に抱きつくと声を殺して泣いた。気づかないフリをして少しだけ抱き寄せた。
♦︎
朝目覚めるとかなが覆い被さりいきなりキスをしてきた。
「えー、どしたん? かな?」
「まーちゃん、おはよう!」
昨日とはうって変わり笑顔のかながいた。
「うち、悩むのやめた!」
「やめたって……」
「昨日ひたすら悩んでんけど、多分うちの中に答えなんてないねん」
そう言うと首に手を回した。
「うちには大好きなまーちゃんやひなもいるし、笑ってすごさな損やん!」
もう一度キスすると、首を傾げて「な?」と言った。
俺にはかなが無理している様には見えなかった。本当に吹っ切れたんだろうか?
「辛いもんは辛いけど、昨日のひなやまーちゃんはうちの事考えて励ましてくれた……もう2人にそんな心配かけたくないねん」
「わたしは別にいいのだけど……」
かなは、やっぱり強いな。
おばあちゃんに似たのかな?
「リクソンさんがあかんならナカノさんもええなぁ。プロポーズされたし……」
かなはそう言って笑った。
キャラの系統は一緒な気がするけど気が早すぎないか?
♦︎
その後のツアーは順調に進み、岐阜、豊中、と宣伝とライブをこなし、福岡では約4か月ぶりの姿を店長に見せる事が出来た。
次は、タキオの住む広島。
広島に着くと大きな荷物を抱えたタキオが待っていた。
「ようこそ! 久しぶりだね?」
「あれ? タキオさん忙しいんちゃうの?」
「まぁ、今日も仕事の一つだからね!」
そういうと、タキオは美味しい洋食屋さんに連れて行ってくれた。
「調子はどう?」
「満員とまではいかないですけど、ブッキングだと6〜8割位は入ってくれてます」
「うんうん、サイトも順調にアクセスが伸びてるみたいだね!」
「ところで、その荷物なんなんですか?」
「あー、これ? 動画用の撮影機材だよ。 今日のライブPVにしようかなと」
「PV!?」
「別にライブビデオじゃないよ? 部分的に演奏シーンを入れたいんだ」
タキオは3台の少し大きなビデオカメラを見せてくれた。
その後、西田さんも含め雑誌の打ち合わせと撮影に向かう。今回は半ページカラーで特集を組んでくれるようだった。
「ちょっと今から君たちに写真用にメイクするよ!」
「タキオさんメイク出来たんですか? ちょっとマルチすぎます!」
ひなが驚いていたけど、背景を知る俺としてはそんなに驚きはしない。
女子歴はこの3人の中じゃ一番長いしね。
そして取ってある個室のメイクルームで一人づつメイクをおこなうと俺の番になった。
「まひるさん、ちょっとアイライン濃くしますね……」
淡々とすすめるタキオに、気になっていた事を聞いた。
「タキオさん、後1か月なんじゃない?」
するとタキオは少し苦笑いを浮かべ黙る。
え? 無視?
俺がタキオの目を見るとタキオは言った。
「"魂のカウントダウン"の意味わかりましたよ……」
「えっ? それじゃ……」
「今は閉鎖されているWEBサイトのおまじないみたいなモノなんです」
◯用語補足
・PV
プロモーションビデオの略
宣伝などで利用するイメージ動画です!
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