俺の音楽ここにあります

ギタリストのTS転生ストーリー
竹野こきのこ
竹野こきのこ

波乱は続く

公開日時: 2021年3月4日(木) 00:01
文字数:1,660

かなだけ泊まるのは初めてじゃないか?

 普段のかなとは違いやっぱり落ち込んでる様だ。


 表情の暗いかなを元気付けてやりたいのだけど、何も思い浮かばない。


「まーちゃん、辛い事が同時に来るのってほんまに辛いなぁ」


 かなはベッドの上で体育座りの体勢にになると下を向いた。


 俺はそっとかなの頭を撫でて呟く。

「なんでだろうね」

「うち、もういやや……」


 鋼のハートを持っていると思っていたかながか弱い少女の姿でそこにいた。


「ねぇ、アイス食べよっか?」

「えっ……うん」


 俺は冷蔵庫に入っていたアイスを2つ持って部屋に戻った。


「バニラと、チョコどっちがいい?」

「チョコ……」


 かなにチョコのアイスとスプーンを渡して、アイスを開ける。


「この時期のアイスって美味しいよね?」

「うん、夏にアイスはええなぁ……」


「辛い事はあるけどさ。こうやって、ちっちゃな幸せ集めて行こう? 今はわたしにはアイス出すくらいしか出来ないけど」


 かなは少し無理矢理な笑顔を見せた。


「かなは頑張ってるよ……」

 そう言ってもう一度頭を撫でる。


「今日はもう寝よう?」

 かながうなづいたのを確認して、俺は電気を消した。


 かなは俺に抱きつくと声を殺して泣いた。気づかないフリをして少しだけ抱き寄せた。



 ♦︎



 朝目覚めるとかなが覆い被さりいきなりキスをしてきた。


「えー、どしたん? かな?」

「まーちゃん、おはよう!」


 昨日とはうって変わり笑顔のかながいた。


「うち、悩むのやめた!」

「やめたって……」

「昨日ひたすら悩んでんけど、多分うちの中に答えなんてないねん」


 そう言うと首に手を回した。

「うちには大好きなまーちゃんやひなもいるし、笑ってすごさな損やん!」


 もう一度キスすると、首を傾げて「な?」と言った。


 俺にはかなが無理している様には見えなかった。本当に吹っ切れたんだろうか?


「辛いもんは辛いけど、昨日のひなやまーちゃんはうちの事考えて励ましてくれた……もう2人にそんな心配かけたくないねん」


「わたしは別にいいのだけど……」


 かなは、やっぱり強いな。

 おばあちゃんに似たのかな?


「リクソンさんがあかんならナカノさんもええなぁ。プロポーズされたし……」


 かなはそう言って笑った。

 キャラの系統は一緒な気がするけど気が早すぎないか?



 ♦︎



 その後のツアーは順調に進み、岐阜、豊中、と宣伝とライブをこなし、福岡では約4か月ぶりの姿を店長に見せる事が出来た。


 次は、タキオの住む広島。

 広島に着くと大きな荷物を抱えたタキオが待っていた。


「ようこそ! 久しぶりだね?」

「あれ? タキオさん忙しいんちゃうの?」

「まぁ、今日も仕事の一つだからね!」


 そういうと、タキオは美味しい洋食屋さんに連れて行ってくれた。


「調子はどう?」

「満員とまではいかないですけど、ブッキングだと6〜8割位は入ってくれてます」


「うんうん、サイトも順調にアクセスが伸びてるみたいだね!」

「ところで、その荷物なんなんですか?」


「あー、これ? 動画用の撮影機材だよ。 今日のライブPVにしようかなと」


「PV!?」

「別にライブビデオじゃないよ? 部分的に演奏シーンを入れたいんだ」


 タキオは3台の少し大きなビデオカメラを見せてくれた。


 その後、西田さんも含め雑誌の打ち合わせと撮影に向かう。今回は半ページカラーで特集を組んでくれるようだった。


「ちょっと今から君たちに写真用にメイクするよ!」

「タキオさんメイク出来たんですか? ちょっとマルチすぎます!」


 ひなが驚いていたけど、背景を知る俺としてはそんなに驚きはしない。


 女子歴はこの3人の中じゃ一番長いしね。

 そして取ってある個室のメイクルームで一人づつメイクをおこなうと俺の番になった。


「まひるさん、ちょっとアイライン濃くしますね……」


 淡々とすすめるタキオに、気になっていた事を聞いた。


「タキオさん、後1か月なんじゃない?」


 するとタキオは少し苦笑いを浮かべ黙る。


 え? 無視?

 俺がタキオの目を見るとタキオは言った。


「"魂のカウントダウン"の意味わかりましたよ……」


「えっ? それじゃ……」

「今は閉鎖されているWEBサイトのおまじないみたいなモノなんです」

◯用語補足


・PV

プロモーションビデオの略

宣伝などで利用するイメージ動画です!

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