作曲活動とテスト勉強をはじめた次の日。
俺はいつもの3人で給食を食べ、曲作りについて話していた。
「まーちゃん、曲作りって難しいなぁ。ありきたりなコード進行になってまうわ〜」
「まぁ作り始めは良くある事だよね! かなはコードから作ってるの?」
「うちはベースで作ってるから、コード進行に合わせてメロディを入れるかんじかなぁ」
「メロディが浮かばない場合はその方がいいかもねぇ……」
かなは悩んでいる様だな……そうだなぁ
俺は給食のトマトに目がいき、指をさす。
「かな、これはどう?」
「へ? トマト?」
「これが置かれてるだけで、給食自体が纏まるかんじがしない?」
「うん、確かに……」
「でもまーちゃんトマト嫌いでしょ?」
「うん……だからわたしなら美味しく食べるためにトマトよりナスを入れるんだけど、よく見せるためにはトマトが必要って事!」
「なるほど! ちょっと目立つ展開があれば逆に纏まるんか!」
「そうそう! ちなみにわたしはイチゴよりも梨が好きだけどね!」
「なんの話?」
「曲の話しだよ!」
「なんやそれ! 変なの…でもちょっと出来そうな気がしてきた!」
かなは片方の腕を構えやる気が出てる様だった。
「ひなはどう?」
「うーん、エレクトーンで作ってみたけどこんな感じでいいのかな?って」
そういうとひなはスマホで音を鳴らした。
主線の音のせいか、スマパンみたい? すごく
いい感じだけど闇が深そ……それより……。
「エレクトーンすごい! 曲もいい感じ!」
「ほんと?」
「ひな、これはエレクトーンだけなん?」
「そだよー!」
「エレクトーンってもっとこう、機械的な音のイメージやわ!」
「それ多分大分古いやつだねー、今のエレクトーンは結構リアルな音だよ!」
おれもエレクトーンがここまで出来るとは知らなかった。やっぱり俺の世代だと、学校のアレのイメージが……
複数の鍵盤で様々な楽器を同時に一人でやるかんじか……ひなのドラムのセンスがいい理由がなんとなくわかった。
それにしてもこんな逸材が身近にいるものなのだろうか? いや、俺はただ目を背けて来ていただけなのかもしれないな。
ひなは、エレクトーンを小さな時からやっている。それはイコール楽器歴でもあるわけでさらにドラムまでしっかりやっているとなればいくつもの楽器や曲を聴いて考えて来ていたのだろう。
俺は少しかなが可愛そうな気がした。
♦︎
家に着くと、ドリッパーズのナカノさんから着信がきているのに気づき、掛け直した。
「よぉ! まひるちゃん元気?」
「急にどうしたんですか?」
「そろそろ悩んでる頃かなって」
「えっ?」
「ジュンが言うからさ!」
「ジュンさんがかければ……」
「あいつ意外と恥ずかしがりやなんだよ、あいつが一方的に話すのもそのせいだな!」
マジで? 確かに昔は喋らないキャラだったらしいけど……。
「それでさ、アルバムづくりは順調?」
俺は、印税の事でメンバーに作曲を振った事や、"キラの助"を使う予定なんかをナカノさんに話した。
「なるほどね、でもいいと思うよ、おまえの弱点対策にもなるし」
「弱点?」
「うーん、簡単に言うと上手すぎるんだよ」
「上手過ぎたらダメなんですか?」
少しナカノさんは考えるように間を置いた。
「まひるちゃん、お客さんやファンの人ってどんな時に付くと思う?」
「いい曲聞いた時ですか?」
「半分正解! でもそれは曲のファンなんだよ。若いから売れる理由は可能性なんだ」
「可能性……」
「そう、次のライブはもっとすごい物をというか初めて見た時の感動を期待してる、だからまひるちゃんを最初に見た感動を次も見たいと思って居るんだ」
「でも、次も同じくらいで弾けますよ?」
「ふむ、まひるちゃん10回クイズってしってる?」
「ピザって10回言ってから……」
「そう! あれって2回目やる時のテンション上がらないでしょ?」
「そうですね、他の人に言っていく感じですよね?」
「そう、それが人気の出方。今は中学生のすごい女の子がいるって広まる段階……次は?」
そういうことか……一度見た人が飽きるまでに、それ以上もしくは他の魅力を見せるしかない……。
「曲やバンドで見せて行くしかないって事ですか?」
「ギターは成長しても上手いの知った状態だと慣れちゃったらギター好き位しかテンション上がらないよね?」
「それが弱点……いい曲や他の要素でさらなる感動を与えていかないといけない」
「そういう事! だからあの二人が成長したり新しい試みをする事がまひるちゃんの弱点を補う事にもなるんだよ!」
ナカノさんはこれからも何かあれば連絡してと言って電話を切った。
新しい事に挑戦……今後の課題を心に刻んで"マスたん"を手にとった。
新しい事を考えるなら君だな……。
◯用語補足
・スマパン
スマッシングパンプキンズの略
オルタナティブ、グランジ系のロックバンド。
もっと闇の深い感じのバンドは沢山あります。
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