このCD……。
そこには、ハードコアやメタルのCDが30枚程並んでいる。
ドリームシアター
イングヴェイマルムスティーン
ポールギルバート
スリップノット
ストラトバリウス
……ブリーズベッド??
なんで、俺の前世のバンドまであるんだ?
「ひな? このCD……」
「あー。みちゃダメー」
ひなはCDを隠し、俺は色々な事が頭を過る。
「ひな? もしかして……」
「まーちゃんの好きなもの知っておきたいんだ……」
確かに、俺がコピーしたアーティストや、新宿の風祭さんに例えられたアーティストだ。
だけど……
「ブリーズベッドは?」
「昔……CD屋さんで眺めてたよね?」
「そんなものまで?」
「うん……」
「それで……どうだった?」
「ギターはまーちゃんに似てる。だけど……」
「だけど?」
「やっぱりまーちゃんのギターは、あたしにとっては特別だよ。一緒に見てきた世界がこのCDにはなかった」
「一緒に見てきた世界?」
「フレーズを聞くたびに思い出すんだよ。文化祭や、合宿、一緒に泊まったホテルなんかもぜーんぶ。だから……」
そう言うと、ひなは少し黙った。
そう、ひなは俺が転生してからいつもそばにいた。それを言うとかなもだけど、ひなはずっと俺を見てくれていたんだ。
だから、少しの変化でも声をかけてくれて、そのおかげで俺はやって来れたのかもしれない。
「まーちゃんは、サヤさんの事気にしているかも知れないけど、あたしにとってはまーちゃんが一番だし、サヤさんをメンバーに出来て、世にだしたのもまーちゃんの力だと思うよ?」
「ひな……」
俺はその後、今まで話した事が無いような、不安や普段の事、音楽や学校の事なんかをひなに話した。
ひなはただ頷き、時々優しい言葉で返してくれた。
ずっと、俺の半分の年の彼女たちを俺は引っ張って行かないといけないと思っていたんだろう。同じ場所で成長し、同じ新しい環境を共にしてきた彼女たちは俺と同じように今を見ている。
俺はその晩、家に電話をかけてひなの家に泊まる事にした。
「ねぇ、まーちゃん。あたしら二人で曲作って見ない?」
「曲? いいけど……」
「まーちゃんが思いっきり出来る重く激しいのつくろ?」
「ハードコア、メタル?」
「うん、もっとまーちゃんの事教えてよ。まーちゃんはすごいんだぞって」
「あはは! それいいかも!」
あぁ、そうだな。
俺は何を考えていたんだ。
別に世界一のギタリストでもなければ、何者でも無い。ただのインディーズバンドのギターボーカルじゃ無いか!
俺にはそれしか無い。誰も真似出来ない俺の音楽。俺たちの音楽を作ってここに俺がいる事を。いや、ここにいた事を残そう。
それで、みんなの中に残ってくれたらいい。
♦︎
チュンチュン……。
「おはよ……まーちゃん」
「おはよ……ひな」
ん?
なんかあったかい。
「ちょっと、なんで裸?」
「なんでって、まーちゃんが……」
えっ?
まさか、俺、
ジリリリ……
「うわっ!」
「どうしたのまーちゃん?」
あー、あれ?
服着ている。
夢か……なんか生々しい夢だったな……。
「まーちゃん、着替えに行かないと!」
そういえば昨日泊まったんだ。
俺は自分の音楽を作る覚悟を決め、今日から本気でハードコア、メタル、いや俺たちの音を作る!
不安が無くなって安心したんだろうか?
変な夢を見たせいで少しひなの顔を見るのが恥ずかしくなった。
そんな中、俺たちの知らないところで、また新しい出来事が動こうとしていた。
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