静岡に入ると海の上を走る道が印象的なところがある。
静岡と一言言うと同じの様だが、西側と東側ではもう別の県くらい接点がない。それほどまでに大きな県なのだ。
かなはスマホを嬉しそうにいじっており、ひなは今にも寝そうな顔をしている。
♦︎
浜松に着くと、気になることががあった。
街はビルも多く、都会感は名古屋に匹敵する、ただ……人がいないのだ。
「浜松、人が全然いなくないですか?」
目をこすりちょっと心配したひなが西田さんに言う。
「浜松は工業都市だから平日の昼間はほとんど居ないんだ。でも夕方や、土日はそれなりに人がいるよ」
「そっか! みんな朝から夕方の仕事の人がおおいのですね!」
ひなは、「なるほど」と言った様に頷いた。
ライブハウスに着き、荷物の積み下ろしをはじめる。なんだろう? さっきまで嬉しそうにスマホをいじっていたかなが、暗い。
「かな、どうしたの?」
「な、なんでもないで!!」
ちょっと怪しいと思いながらも、みんなで機材を運び楽屋のラックに並べる。
すると俺のスマホに着信が来た。
ブーン、ブーン。
「はい、もしもし? リクソンさん?」
「あ、まひる? おまえらシーサイドで出すんだって?」
「ちょっと!誰からきいたんです? もう西田さん打診したんですか?」
「ちげーよ、それなら電話しねーから。 おまえんとこのかなだよ!」
もしかして、かなが暗くなってたのって
「えっ? かなから連絡したんですか?」
「そーだよ。俺はエンジニアだから、レコーディング検討という事にしといてやるから、他にも言ってるならヤバいぞ? 俺からもかなには言っといたけど、一応ドラムの子には説明しとけよ?」
「ありがとうございます、一応レコーディングでの約束の話はしているので、あとは西田さん判断になってます」
「まぁ、話がでてきて良かったな。 聞かなかった事にして西田さんからの連絡まっとくわ!」
「ありがとうございます!」
「それじゃーな!」……プチッ!
ちょっとかなさん? どうゆうことかな?
さてはリクソンさんに怒られてシュンとしていたんだろう。
俺はかなのもとに向かうと、早速といただした。
「かな? リクソンさんに怒られたでしょ?」
かなはギクッとして、苦笑いで俺を見た。
「もしかして……電話あったん?」
「うん、一応ひなにも西田さんが発表するまで誰にも言ったらダメなのと、西田さんにリクソンさんに言っちゃった事言っておくね?」
「えっ、西田さんにも言わなあかん?」
「うん。わたしらはまだ契約はしてないし、リクソンに頼むかは西田さんが最終的に決めることだよ。 だから、西田さんがリクソンさんに話す時、しらなかったら?」
「困る……わな。ほんまごめん……」
「まぁ、知らなかったらしかたないよ!」
その後、ひなに話すと、やっぱり知らなかった様でホッとした。 西田さんには逆に伝えなかった事を謝られてしまった。
そりゃそうだろう、次の契約内容決める時に普通は説明する。 まさか雑談状態で誰かに話すとは思わなかったのは仕方がない。
♦︎
問題は解決したと思っていた。
だけど、その話以降のかなが拗ねているのか、落ち込んでるのかよくわからない感じなのだがとりあえず雰囲気が悪い。
「かな? 何か怒ってるの?」
「怒ってへんよ……」
それは、リハーサルでも続いた。
雰囲気を察した時子さんが、心配してくれる。
「かなちゃん? どうしたん?」
「時子さん、大丈夫です!」
「いつも通りしっかり盛り上げてね!」
「はい!」
そうして、俺は少し不安なまま、浜松でのライブが始まる事になった。
♦︎
ライブが始まると、イントロの入りから今日もギターが鳴っている、いいかんじ……
おいっ!かな!
かなのベースのいつものグルーヴが全然出ていない。
くそっ、俺はギターでかなを煽る。
本番だ! それだけはだめだろ!
ところどころ戻りはしたが、俺たちのライブとしては最悪だ。
ミスしてる訳じゃないから初めて見る人はそんなもんだとは思うだろう。
でも……。
西田さんは静かに怒っていた。
内心激おこだと思う。
「今日のライブの原因と理由をメンバーに確認して、今日中に俺に話してくれる? 正直契約を考えるレベルの事なのはわかってるよね?」
サッと俺の血の気が引いていくのがわかった。
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