トリプルギター、ハードコアメタルバンドのマイニングそれぞれがリードでもできるくらいのギタリストが3人。
バンドは勝ち負けじゃない。風祭さんはそう言っていたけれど意識せずにはいられなかった。
トリプルギターのメリットはレコーディングの音をほぼ再現出来るだけじゃなく、俺とサヤの様に得意なプレイに分けてそれぞれの実力が発揮出来る点にもある。
まぁ、その分纏めるのは難しいのだけど、"マイニング"クラスは最低でもしっかりと纏めてきている。
弱点はほぼないと言ってもいいだろう。
「まーちゃん、このバンド気にしてるみたいやけど、なんかあるん?」
「うん、このギターがわたしのギターに一番近いと思う」
「高速速弾き系なん?」
「そこまで速くはないけど、入れ方とかかなぁ……」
「そうかなぁ、リハーサル見たんやけど、音圧すごかったけど、うちは雅人らの方が良かったんやけど……」
「えっ? スターリンの方が?」
「せやで、でも、マイニングももちろんすごいんやで?」
ライブが始まると、ホールはヘッドバンキングを始め、空気を一気に変えた。
やっぱり音楽を分かっているアレンジ。
ブリーズでは出来ていなかった事がしっかり出来ている。
ギターの調和、音圧、海外にも引けを取らないスクリーム。さらには自分達のノリをホールに伝えるステージング。
ギターリフ以外はブリーズ時代の理想形。
何がスターリンの方が凄いんだ?
「かな……やっぱりスターリンの方が凄い?」
「うーん、そうやなぁ。なんやろ、スターリンの方が次も聴きたいんだよね……どんな曲が来るんだろう?どんなメロディが来るんだろうって……」
「期待感って事?」
「そうやなぁ、練習したいのはマイニングやけどなぁ……」
かなは上手くなったのが早かったせいか、客観的に音楽を聴ける気がする。
演者としては"マイニング"だけど、リスナーとしては"スターリン"って事か?
これって結構重要じゃないか?
俺はホールの暑さと冷や汗で濡れたTシャツを着替えるために少し早めに楽屋に向かう。
リスナーが選ぶのは"スターリン"そしたら俺たちは? どうなんだ?
「ちょ、ちょっとまひる!」
「へっ? あ、なんだ雅人か……」
雅人は片付けを止め、手で顔隠す。
「き、着替えるなら言ってくれよ!」
ん……?
「あーっ!」
俺の叫びに驚いたのか、雅人はそそくさと、楽屋をでる。
やば、誰もいないと思って無意識に着替えてしまった……雅人ごめん!
着替えを終え、かな達も準備にくる。
「今日は、凄いけどがんばろうね!」
「うん!」
マニイニングが終わり、転換の為セッティングする。暗闇の中から声が聞こえはじめた。
(ハーンパテ! ハーンパテ!)
「ちょっと、まーちゃん! 今日なんかでる前からこんなんやけどすごない?」
「うん、わたしもびっくりしてる……みんな知ってるのかな?」
ひなはステージに残り、DTMの準備をすると、入場の音をかけると、掛け声がフェードアウトした。
「こんにちは! ハーンパテやで、今日も1日よろしくおねがいしまーす!」
かなの掛け声に合わせてギターリフを始め、ドラムとベースが入るとホールが暴れ出した。
(うわっ! 地獄だ!)
俺はホールを指差して叫ぶ!
「ユーアーファッキン!ウェルカムトゥーザヘル!」
やべ、適当な事言ってしまった。
まぁ、いっか!
ちょっとしたリフでも暴れ出す。
これ、ソロ弾いたら死ぬんじゃないか?
曲が進み、勢いが止む気配がない。
すると背後から何やら気配がくるとホールに飛び込んだ。
(げ、源さん!?)
後半に差し掛かりバラードよりの曲で大人しくなり、最後の曲でまた爆発した。
ライブが終わり、ゆっくりと捌ける。
「わー、今日凄かったねー」
「ほんまに! ちょっと怖かったわー」
「みんな、わたしらを知ってたんかなぁ?」
「そうなんちゃう?」
次は、ジャマイカン6……のはずなんだけど、来てないな……。
するとホールに歓声が響きだした。
!?
何だ?
「えー、あー俺だ!」
(源さーん!)
(おぉー!!)
ステージに源さんがギターを持って立っていた。
出たがりか!
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