俺の音楽ここにあります

ギタリストのTS転生ストーリー
竹野こきのこ
竹野こきのこ

メンバーチェンジ

公開日時: 2020年10月8日(木) 00:05
文字数:2,114

 雅人が辞める?


 現時点で雅人が辞めるのは、バンドの終わりを意味する。


 中学生で、あのクオリティを探すのはかなり難易度が高いだろう。ここはなんとしても引き止めなくてはならない。


 俺は学校で理由を聞くことにした。

 この事をひなやかなちゃんには伝えるべきだろうか?


 雅人が抜ける事でかなちゃんも……いや今は考えたくないな。


 とりあえず学校では4人で話す事にした。

 できれば1人で解決したかったのだが、この問題は俺だけの問題じゃない。ひなやかなちゃんの人生にも影響するからだ。


 学校で雅人に声をかけた。


「雅人、昼休み4人ではなそう」

「わかった、おまえはそれでいい。ちゃんとメンバーにも話すよ」

「わたしからは2人には何も言ってないから」


 そう言って、昼休み4人で話すことになった。メンバーが揃うと雅人は早速話し出した。


「みんなはまだ聞いてないかもだけど、俺はバンドを辞めようと思う。」


「うちの問題?」

 かなちゃんが心配そうに尋ねた。


「いや、俺の個人的な問題だ。俺はこのバンドはもっとすごい事が出来ると思うし、かなも充分成長したと思う」


「ならなんで……」

「音楽に私情を挟みたくないんだ。我慢する事は出来ると思うが、そんな気持ちでこのバンドはしたくない、しちゃいけないと思ってる」


 私情ってなんなの?


「まひる、言っていいのか?  後戻りは出来なくなるけど」

「わたし?  いや、このままだとみんな納得できないって」


「わかった」

 雅人はそういうと一旦口をつぐんだ。


「俺は……まひるが好きだ」


「はぁ?」


「やっぱり少しも思ってなかったんだな、いいよ、おまえはそれでいい」


 バンド内恋愛になるからって事?

 予想外だった。まぁ、メンバーが美少女だったら確かに俺も気になってたかもしれない。

 それに雅人はひなが好きだと思っていた。


「別に入る時はそんな事はなかった。仲のいい女友達だと思っていたんだ」


 それから雅人は、文化祭の前のスタジオ以来目で追ってる自分がいること、叶わないとわかっていたから何度も我慢しようと思っていた事。


 そんな事言われても。


「俺は別でバンドするよ。本気でおまえらに挑戦したい、まひるがすげーって心から思うようなバンドにする、だから見返させて欲しいんだ」


「でもわたし達のバンドは? ドラムが居なくなって活動だってできない」

「本当は本人に言って欲しかったんだけどな。  ひな」


「えっ?」

「うん、あたしがドラムやりたい」

 ひなは呟いた。


 えっ、でも叩けるの?


「雅人には全然およばないとおもうけど、練習はしてるよ?」


「俺が入った時、きっと雅人は助けてるだけだからって練習始めたんだ。文化祭の時諦めかけてたけど、俺はひなには伝えてた」


 そうだったのか。

 全然知らなかった、あの雅人と2人で出かけていたのも、雅人に教えてもらっていたって事か。


「わかったよ。雅人がひなを勧めるって事は、ある程度完成してるんでしょ?」

「まぁ、おまえ鬼だからまひるが納得するかはわからないけどな。スタジオで詰めれば形にはなると思う」


「期待しとく」

「ところでさ、俺、告白したんだけど?」


「あ、うん」

 そういえば告白されてたな、だが男と付き合う気はさらさらないんだが、気持ちは痛いほど分かる。


 ここはどう返すべきか。


「雅人、見返されるの待ってる。あたしらを圧倒する様なバンドになったら考えてあげる」

「マジ?  可能性あるの?」


「言った事実行出来ない様な男には興味ないからね」

「なかなか厳しいっすね」


「一緒にメジャーに行こう!」

「そうだな、おまえのお陰で色々見えたきがするよ。ありがとう。」


 話しは終わったが、なぜかかなはずっと涙目で話を聞いていただけだった。


 俺たちは翌日の放課後、早速新しい形をスタジオで試すことにした。



 ♦︎



 そして、スタジオでは早速大きな問題が発生した。


 ひなは、予想以上には叩けていた。

 マイスネアとペダルを既に持っており、ペダルは雅人に使っていないのをもらったらしい。


 だけど、雅人の時と音圧が全然違う。これはテクニックの問題でもあるのだが、元がパワフルな雅人の叩き方では音圧が出ないのだ。



「ひな、ちょっとこれ使ってみて!」

 俺はまひるでドラム叩く用に買っていた重たい8角形のスティックを渡した。


「まーちゃん、あたしダメかな?」


「ひなは、リズムは思っていたより取れてるんだけど、音が弱いんだよ、ちょっとそれを長めに持って叩いてみて??」


「うん、変わったスティックだね?」

「それだとしっかり握れて重いから音が出やすいの!  さらにリムショットも慣れたら響きやすいと思う!」


「本当だ!音は出るようになったけどリズムが遅れる……」

「それは練習しかないかも」


「あとはペダルだけど、ひなは踏むというか蹴る感じで踏むと音が出ると思う。力より速く叩いた方が実は音が出るんだよ!」


「雅人はちょっとゴリだからそれでも充分音が出てたんだけどね!女の子ドラマーはそういう工夫で叩いてるよ!」


「まーちゃんありがとう」


 まぁ、それでも初期の雅人にはまだまだ追いつかない。ただ俺はひなには甘いのだ。


 雅人が、恋愛を持ち込まない様に辞めたのに、なんだか申し訳ない気持ちになってなるべく鬼になろうと誓った。



 イベントまで一カ月とちょっと、果たして間に合うのだろうか。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート