雅人が辞める?
現時点で雅人が辞めるのは、バンドの終わりを意味する。
中学生で、あのクオリティを探すのはかなり難易度が高いだろう。ここはなんとしても引き止めなくてはならない。
俺は学校で理由を聞くことにした。
この事をひなやかなちゃんには伝えるべきだろうか?
雅人が抜ける事でかなちゃんも……いや今は考えたくないな。
とりあえず学校では4人で話す事にした。
できれば1人で解決したかったのだが、この問題は俺だけの問題じゃない。ひなやかなちゃんの人生にも影響するからだ。
学校で雅人に声をかけた。
「雅人、昼休み4人ではなそう」
「わかった、おまえはそれでいい。ちゃんとメンバーにも話すよ」
「わたしからは2人には何も言ってないから」
そう言って、昼休み4人で話すことになった。メンバーが揃うと雅人は早速話し出した。
「みんなはまだ聞いてないかもだけど、俺はバンドを辞めようと思う。」
「うちの問題?」
かなちゃんが心配そうに尋ねた。
「いや、俺の個人的な問題だ。俺はこのバンドはもっとすごい事が出来ると思うし、かなも充分成長したと思う」
「ならなんで……」
「音楽に私情を挟みたくないんだ。我慢する事は出来ると思うが、そんな気持ちでこのバンドはしたくない、しちゃいけないと思ってる」
私情ってなんなの?
「まひる、言っていいのか? 後戻りは出来なくなるけど」
「わたし? いや、このままだとみんな納得できないって」
「わかった」
雅人はそういうと一旦口をつぐんだ。
「俺は……まひるが好きだ」
「はぁ?」
「やっぱり少しも思ってなかったんだな、いいよ、おまえはそれでいい」
バンド内恋愛になるからって事?
予想外だった。まぁ、メンバーが美少女だったら確かに俺も気になってたかもしれない。
それに雅人はひなが好きだと思っていた。
「別に入る時はそんな事はなかった。仲のいい女友達だと思っていたんだ」
それから雅人は、文化祭の前のスタジオ以来目で追ってる自分がいること、叶わないとわかっていたから何度も我慢しようと思っていた事。
そんな事言われても。
「俺は別でバンドするよ。本気でおまえらに挑戦したい、まひるがすげーって心から思うようなバンドにする、だから見返させて欲しいんだ」
「でもわたし達のバンドは? ドラムが居なくなって活動だってできない」
「本当は本人に言って欲しかったんだけどな。 ひな」
「えっ?」
「うん、あたしがドラムやりたい」
ひなは呟いた。
えっ、でも叩けるの?
「雅人には全然およばないとおもうけど、練習はしてるよ?」
「俺が入った時、きっと雅人は助けてるだけだからって練習始めたんだ。文化祭の時諦めかけてたけど、俺はひなには伝えてた」
そうだったのか。
全然知らなかった、あの雅人と2人で出かけていたのも、雅人に教えてもらっていたって事か。
「わかったよ。雅人がひなを勧めるって事は、ある程度完成してるんでしょ?」
「まぁ、おまえ鬼だからまひるが納得するかはわからないけどな。スタジオで詰めれば形にはなると思う」
「期待しとく」
「ところでさ、俺、告白したんだけど?」
「あ、うん」
そういえば告白されてたな、だが男と付き合う気はさらさらないんだが、気持ちは痛いほど分かる。
ここはどう返すべきか。
「雅人、見返されるの待ってる。あたしらを圧倒する様なバンドになったら考えてあげる」
「マジ? 可能性あるの?」
「言った事実行出来ない様な男には興味ないからね」
「なかなか厳しいっすね」
「一緒にメジャーに行こう!」
「そうだな、おまえのお陰で色々見えたきがするよ。ありがとう。」
話しは終わったが、なぜかかなはずっと涙目で話を聞いていただけだった。
俺たちは翌日の放課後、早速新しい形をスタジオで試すことにした。
♦︎
そして、スタジオでは早速大きな問題が発生した。
ひなは、予想以上には叩けていた。
マイスネアとペダルを既に持っており、ペダルは雅人に使っていないのをもらったらしい。
だけど、雅人の時と音圧が全然違う。これはテクニックの問題でもあるのだが、元がパワフルな雅人の叩き方では音圧が出ないのだ。
「ひな、ちょっとこれ使ってみて!」
俺はまひるでドラム叩く用に買っていた重たい8角形のスティックを渡した。
「まーちゃん、あたしダメかな?」
「ひなは、リズムは思っていたより取れてるんだけど、音が弱いんだよ、ちょっとそれを長めに持って叩いてみて??」
「うん、変わったスティックだね?」
「それだとしっかり握れて重いから音が出やすいの! さらにリムショットも慣れたら響きやすいと思う!」
「本当だ!音は出るようになったけどリズムが遅れる……」
「それは練習しかないかも」
「あとはペダルだけど、ひなは踏むというか蹴る感じで踏むと音が出ると思う。力より速く叩いた方が実は音が出るんだよ!」
「雅人はちょっとゴリだからそれでも充分音が出てたんだけどね!女の子ドラマーはそういう工夫で叩いてるよ!」
「まーちゃんありがとう」
まぁ、それでも初期の雅人にはまだまだ追いつかない。ただ俺はひなには甘いのだ。
雅人が、恋愛を持ち込まない様に辞めたのに、なんだか申し訳ない気持ちになってなるべく鬼になろうと誓った。
イベントまで一カ月とちょっと、果たして間に合うのだろうか。
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